第十一話 あっけない幕切れと魔族の四天王
先頭のドラゴンが口に炎を纏わせながら、大きく息を吸い込む。
炎を吐くための予備動作だろう。
が、その口に最初のミサイルが飛び込み、爆発。その頭が消失する。
力の抜けた体が落下を始める前に、残りのミサイルが体を直撃。
ばらばらになった、最早原型が残らない大質量の肉の塊が下を行軍していた魔物たちに襲い掛かる。
お世辞にも陣形とはいえない烏合の衆とはいえ、多くの魔物がそれに巻き込まれる。
上がる悲鳴。広がる恐慌。
別のドラゴンは間一髪で翼をはためかせ回避した・・・が。
最接近した距離で近接信管が作動。爆発。
至近距離での爆発で翼をもがれ、錐もみ状態で墜落するドラゴンをミサイルは上方から無慈悲に追撃する。
そして下で上がる悲鳴。
「うわぁ・・・」
やった本人が言うのはお門違いかもしれないが、何というかエッグィわぁ・・・
現代兵器の威力もさることながら、量が量である。
一発うん千万のミサイルを雨あられと繰り出しているのだから、現代でも確実にお目にかかることのない光景である。
レーダー代わりのマップにはドラゴン含む空の魔物は全滅、地上に居た魔物まで半数近く殲滅している。
後に残るはもうもうとした黒煙のみ。
下には地獄絵図が広がっている。
うわ・・・夢に出そう。
「トーマ!今のはなんだ!魔法か!?」
「まぁ、そんなようなもんだ」
「トーマ様!無事ですか!?」
「心配は要らんと思うが・・・大丈夫か?こちらまで煙が見えておるぞ」
「俺は無事だ。相手さんは決壊寸前だろうがな」
冷静を装ってはいるが、やっちまった感が半端ない。
降伏勧告でもしようかと思った矢先。地上の魔物の軍の後方から、半円形の青い軌跡が生まれる。
次の瞬間。下に居た魔物たちの体がバラバラになり、地面へと崩れ落ちた。
「なっ・・・!?」
予想外の展開に慌てて、次のミサイルの準備をする。
軌跡の出発点に居る魔物に意識を集中する。
するとその魔物は、ふわりと浮き上がりゆっくりとこちらに向かってくる。
『ごきげんよう~』
妙に間延びした声が、頭の中に声が響く。
「こいつ、脳内に直接!?」
『そうよ~。私の名前はカーミラ。魔族の四天王の一人ですよ~。敵対の意思はありませんので~。ご安心くださ~い』
ん、やばい。通信機の魔力供給が強制的にオフになってる。
って事は、カーミラとかいう四天王かなりの使い手であることは間違いない。
背中につめたい汗が走る。
そんなことを考えているうちに、カーミラは俺の目の前に制止した。
銀色の髪を腰まで伸ばし、青白い肌に赤い瞳。
というか・・・でかい!
具体的に何カップとかは分からないが、露出の異常に多いレオタードに包まれた胸が、異常なまでに存在感を主張している。
後、背中には蝙蝠みたいな羽。
ん・・・?これはもしかして?
「どうも~、魔族四天王の~、カーミラです~、種族はサキュバスです~」
ビンゴぉ!
なんて分かりやすいんだ!
そんなことはおいといて、確認しなきゃいけないことを先に済ませないとな。
「俺の名前はトーマだ。敵対の意思はないと言ったな?さっきの魔物を切り伏せたのもお前か?」
ちなみに。強がってはいるが、背中に冷や汗だらだらである。
やってて良かった営業職!
「そうですよ~。人間にそそのかされた、お馬鹿さんの後始末なんです~」
「ん?人間にそそのかされた?」
「ええ~、ご存知ありません~?魔族や魔物は一定範囲内から出ちゃいけないことになってるんですよ~」
「そうなのか?じゃぁ、今回の件は・・・」
「人間が魔物に『国をくれる』って言ったらしいんですよ~。下っ端の魔物はお馬鹿だから~、喜んで行ってしまいましてね~」
やはりそうか。
手引きしたやつが居るって事だな。
キナ臭いとは思っていたが・・・
「魔王様の使いだなんていって~、その人間の抹殺と~、お約束を守れなかった魔物の始末をいいつかったんです~」
「その『お約束』ってのは人間と結んだのか?」
「いいえ~?魔王様が『のんびり暮らしたいから』って言ってました~」
わお、話の分かる魔王様だなおい!
「で、カーミラはこれからその人間の抹殺をしにいくんだな?」
「そうですけど~、手がかりがないんですよね~。それと~・・・」
「それと?」
「あの軍勢を半数とはいえ~、たった一人で葬った貴方にも興味があります~、サキュバス的な意味で~」
そう言うカーミラの赤い瞳に剣呑なものが光る。
さっきの思考回路といい、同属?を無慈悲に切り殺す性格といい。魔族は怒らせるモンじゃないなと思う。
が、しかし。
「サキュバス的な意味って、まさか・・・」
「いや~、私達って基本一期一会なんですけど~。貴方なら搾り取っても干からびなさそうじゃないですか~。容姿もちょっと残念な感じが私好みですし~」
「だが、断る!」
「いいですよ~、そのうちその気にさせますから~。うふふふ~」
なにそれ怖い!
心底ご遠慮したい!
一期一会ってそれ相手殺してるよね!?
「・・・マ!トーマ!大丈夫か!?」
通信機からシュリの声が聞こえる。
「ソロソロお時間ですかね~。近々おあいしましょう~」
それだけ言い放つとカーミラは翼をはためかせて行ってしまった。
「あ、おい!」
「トーマ様!」
「トーマ!ものすごい魔力が近くにおったが生きておるか!?」
「ああ、大丈夫だ。キャンプと話をつけてくる」
そう言うと俺は、キャンプへと進路を向け高度を落とした。。