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48 処遇

 ――酷いものを見た。なんというかもう酷いとしか言いようがない。

 ノエルの言葉に笑顔を浮かべた龍花は、その直後容赦なくこちらを叩き潰した。怒りの声を上げるでもなく、笑顔という名の無表情のまま淡々と。

 もちろん抵抗はした。しかしリーダーの鋭い剣は掠り傷一つ付けることが出来ず、悟朗の突き立てた槍は逆に折れる始末。セバスが必死に精気を吸ってもまるで意に介さず、力任せに投げ飛ばされる。

 そんな化け物染みた相手にノエルは全力で戦った、それはもう精一杯戦った。

 しかしそこらの岩くらいなら軽く砕く拳はあっさりと受け止められ、切り札の氷魔法は薄皮一枚さえ凍らせることが出来なかった。

 

 幸い向こうは思い切り手加減してくれたらしく、今は四人纏めて伸びているだけだ。しばらくは身動きが取れないかもしれないが、じきに回復するだろう。

 ――しかしまあ、本当に酷い。自力に差があるとこうまで手も足も出ないものか。

 何処の誰だよ、『戦いは数だ』とか言ったやつは? ぶっちゃけ手加減してもらえなければ、四人纏めて肉塊どころか、肉片一つ残らなかった可能性が大だぞ。

 

 ちなみに実を言えば、ノエル達の現在の状況は自分には把握できていない。

 お供三匹が蹴散らされ、必死の抗戦空しくノエルの意識が落ちたところで視覚同調が切れてしまった。

 なので現在はダンジョンにてノエルの意識が戻るのを待っているところだ。

 正直かなり不安なのだが、殺そうと思えば何時でも殺せるだろうから、今無事である以上殺す気はないのだろう。……たぶん、おそらく、きっと……そうだといいなぁ。

 一応リディアとアカネは援軍として急行してもらっている。明確な意思疎通は出来ないが、こちらの焦った感情から緊急事態であることは理解してくれたようだ。

 ……いきなり殺し合いにならないことを祈りたいものだ。


 ――と、おおっ、視界が戻った戻った。


『ぬぅ、酷い目にあったぞ』

 ああ、確かにあれは酷かった。しかしアレは君も悪いと思うんだ。

『……何が悪かったのだ?』

 あのね、女性に『婆さん』とか言ったら駄目でしょうに?

『むぅ、婆さんは婆さんだろうに。全く意味がわからんぞ!』

 あー、やっぱりまだわかんないか。いいかい? 女の人ってのは齢を取ると年齢を気にするものなのだ。

 なので年齢を意識するような呼称はNGで。

『……リディアやネリスもか?』

 そうそう、だからあの二人のことも『おばさん』とか言っては駄目だぞ。『お姉さん』なら大丈夫だと思うけど。

『うむっ、心得た!』

 良いお返事だ。さて、わかっているとは思うが龍花と戦うのはなしだ。

 どうしても許してもらえそうになかったら、今リディア達が向かって来ているので、足止めしてもらって逃走一択で。

『なっ!? そのようなことが出来るわけなかろう!』

 駄目。たとえ全員でかかっても勝ち目はない。そしてノエルが死ねば自分も死ぬ、これは譲れない。

『……他に手はないのか?』

 ……せいぜい真摯に謝って許してもらうしかないかな。君に頭を下げられればだが。

『…………』


「さて……相談は終わったかのう?」


 ……どうもノエルが狸寝入りしているのはバレバレだったらしい。

 というかダンジョン(自分)と話しているのもお見通しですか。……格が違いすぎるなあ。


「何か言い残すことはあるかの?」


 ……殺す気満々ですか? どう言い逃れして切り抜けたものかと思案するも良いアイディアは思いつかない。

 これはいよいよもって詰みかもしれないと自分が諦めに近い状態になっていると――


「…………」


 ノエルが唐突に膝をついた。さらに地面に額をこすりつけ……ってこれは――


「……無礼なことを言ってしまい誠に申し訳ない」


 ……土下座した、あのノエルが。以前アカネが冗談半分最上級の謝罪姿勢として見せたことがあったのだが、それをしっかりと覚えていたらしい。

 土下座の姿勢のまま、さらにノエルは続ける。


「……無礼を承知で頼む。どうか配下の者のは温情をいただきたい」


 ――こんな状況ではあるが……自分は感動していた。

 なにしろあのノエルが頭を下げたのである。きちんと厨二口調も改めて。

 いや、元から素直な娘ではあったが、ダンジョン主という立場上、こういった行為は酷く嫌っていたはずなのだ。

 そんなノエルの様子に龍花も毒気を抜かれたような表情をしている。


「……己の助命ではなく配下の身の嘆願とは珍しいの」

《……龍花》

「わかっておる。ここで跳ね除ければ妾の器が知れるわ」

「そ、それでは!?」


 待った待った! 頭を上げるのが早い!

 慌てて頭を下げなおすノエルに向ける視線はどこか面白気で、龍花は口を開く。


「じゃが……礼儀知らずを無罪放免にするほど妾も甘くはない」

「……何をしろと?」


 まあ、そうだよな。無理難題でなければ御の字だが。


「ふむ……」


 龍花はノエルをじろじろと全身隈なく眺めると、何かしら考え込む動作を見せる。

 そして――


「出てけ」

「……うぬ?」

「この地より速やかに去るがよい。それでぬしの無礼は不問にしてやろう」

《むっ、龍花……》

「ぬしは黙っておれ」


 覇雁が何か言いたそうにしていたが一睨みで黙らされてしまった。


「うむっ、承知した。……ご配慮に感謝する」


 礼儀正しく頭を下げて礼を言うノエル。取り立てて反論もないらしい。

 無理もあるまい。ノエルは自分と違ってこの地に拘泥していたわけではないからな。

 『移転』だけで片が付くのであれば万々歳だろう。

 

「お嬢様!!」


 血相を変えてやってきたリディアは、ノエルと龍花の間に立ち即座に臨戦態勢。

 それをノエルが必死に抱き着いて止める。

 遅れてアカネもやってきたが、どうやら彼女達には未だに気絶中のリーダ達の運搬を頼むことになりそうである。


 ――そういうわけで自分は、せっかくの安全地から泣く泣く「移転」するはめになりましたとさ。

 ……無念だ。




ダンジョン測定値

   名称:

  ランク:D下位

 保有魔素:101260P(残5320P)

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