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46 龍花

「さあ、今日で覇雁の爺さんの掃除を終わらすのだ!!」


 爺さん呼ばわりは自分が始めたのだが、それが自然とノエルに移ってしまった。

 今日も今日とて頼まれた掃除のために覇雁の元へと向かう道中だ。

 ただし今回は普段とは違うこともいくつかある。

 一つは覇雁の身体掃除はおそらく今回で最後になること。

 もう一つはノエルのお供として付いてきている面子である。

 

(それがし)はかの巨獣と直接接するのは初めて故、心が踊るでござるな!」


 一人はあからさまに怪物染みた容姿を持つ悟郎。

 手足の鋭い爪や笑顔に覗く牙に警戒心を持つなと言うのが無理だ。


「……ッ!」


 一人は鎧から白骨を覗かせカタカタと髑髏を震わすリーダー。

 命の理に反したその存在は明らかに浄化対象である。


「フォッフォッフォ、その覇雁なる魔物がいかなる御仁なのか、実に楽しみですなぁ」


 微妙に敵意を滲ませる、薄汚れたローブに髑髏面のセバス。

 宙を浮遊するその様は夜でなくともホラーである。


 ――この三人を引き連れるノエルは、性格のせいかとてもそうは思えないが吸血鬼――完全に人外の群れ、かなり数がは少ないが百鬼夜行の類である。人間に見つかればろくなことにならないのは明白なので、街道を外れて進行中だ。

 よくよく考えればダンジョン主なので別におかしなことではない。むしろ今までの方がおかしかったのだろう。

 しかしなぜ態々こんな面子を連れているのかといえば、ノエルがリディアの同行を拒否したことに端を発する。

 その時のリディアは凄かった。普段は口数が少ないのに、万言でもって翻意を促そうとしていた。

 しかしどうあってもノエルが考えを変えないことを悟ると、自室に閉じこもり――自室と言っても普段はノエルといる時間が長いのでほとんど使われないが――お手製にノエル人形を抱きしめ意気消沈してしまった。

 ちなみに自分の方から理由を聞いてみると、


『なんとなく恥ずかしいのだっ!』


 と言われてしまった。あれかね? 授業参観で親が来るのが恥ずかしいとかそんな感覚かね? ひょっとすると思春期というやつかもしれん。

 しかしリディアも気の毒である。話さえ出来れば自分からフォローを入れられるものを。いよいよもってアレの導入を考えるべき時期に来ているのかもしれん。

 ともあれそんな事情もありリディアが同伴しないことなったのだが、ここで立候補したのがセバスである。

 覇雁の爺さんのことを知って以来おかしなライバル心を持っているらしく、いい機会なので挨拶しておきたいらしい。

 う~む、そもそもセバスを創造したのはノエルが生まれるしばらく前なので、そんなに年はくっていないはずなんだが……理解できんなー。

 そして次に立候補したのは新入りの悟郎。こいつの場合は、新入りだからこそ早くダンジョン主の役に立ちたいというもので、まだ理解の範疇だ。

 最後にリーダー。彼はまあ、ついでである。本人は全力で首を振っていたような気もするが、気がするだけで気のせいだろう。

 決して覇雁の爺さんが怖いから近づきたくないなどということはないはずだ。



 ◇ ◇ ◇



「うむっ、やはり爺さんの血は美味いな。これが最後かと思うと残念だ」

《ふ~む、そのように言われると嬉しいの。まあ、機会があればそのうちの》

「フォッフォッフォ、その時は是非お願いしますぞ、覇雁殿」


 さて、今回で最後の身体掃除なわけだが特に問題なく終了した。現在はまったりと会話している最中だ。

 土やら木やらを取り除かれた爺さんの全身は予想通りの大きさで、ただ動くだけでも破壊を撒き散らすだろう。……本人にはそんな気はないそうだが。

 若干懸念していたセバスだがすぐに打ち解けることができた。というかこれは向こうの度量の深さに助けられた形だが。


「そ、某もまだまだ未熟でござる」

「……っ!!」


 悟朗とリーダーは完全にビビってしまっている。まあ、これは無理もない。いくら爺さんの側に敵意がなくとも、その気になればあっさり自分たちを踏みつぶせる相手なのだ。

 怯えるのも当然、むしろノエルが警戒心なさすぎである。

 



 ……とまあ、概ねそんな感じで後は挨拶して帰るだけであったのである。

 後から思い返してみれば、ここでさっさと帰らず無駄にだらだらと時間を過ごしていたのが最初の失敗だったわけだ。時間は有限、大事なことである。

 ソレ(・ ・)に最初に気づいたのは当然ながら覇雁の爺さんだ。


《むぅ、タイミングが良いのか悪いのか……》


 そう呟くとその巨大な首を傾げ空を見上げた。

 そして――ソレ(・ ・)が姿を現した。


 外見は二十過ぎの女。長い漆黒の髪を伸ばし派手な深紅の着物を身に着けている。 

 さらに腕輪や首飾りといった装飾品を数多く身に着けているが、不思議と厭らしい印象はなくむしろ全体で一つの調和が成された美しさを感じられる。

 すらりとした長身で、縦に裂けた瞳孔に黄金色の瞳が印象的だ。

 一見すると派手な服装を着た絶世の美女、しかしお近づきになるには勇気がいる――そんな女性だ。

 だが当然ながらただの女性ではありえない。なにしろこの女、空から無造作に降ってきた(・ ・ ・ ・ ・)のだから。


《久しいのう、龍花》


 四代迷宮の一角『倭那国』、その主にして姫とも呼ばれるランクAダンジョン主――龍花。

 久方ぶりに会う古き友人を覇雁は穏やかに出迎えた。

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