M2 あるダンジョンの話
短いです。
何処とも知れない闇の中で彼は目覚めた。
――?
自分が何物なのか分からない。何をしたらいいのかも分からない。しかし……恐怖は一切感じない。
《……おはようございます。あなたは46380176番目のお目覚めになります。……チュートリアルを開始しますか? YES/NO?》
唐突に闇の中に声が響く。彼はその声に素直に従いチュートリアルを聞くことにした。
《……チュートリアルを開始します。まずはダンジョン最深部の創造です。
イメージしてください。なお広大すぎるイメージは不可です。ご注意ください》
ダンジョン最深部と言われても具体的イメージの沸かない彼は声に任せることにした。
《これがダンジョンです。これからあなたは命運を共にするダンジョン主を育てることになります。
……初期魔素が配布されました。初期魔素は1000Pです。
初期魔素を使い切るとダンジョンが開通します。
……以上でチュートリアルは終了です。疑問があればご気軽にお尋ねください。答えられる範囲でお答えさせていただきます。
……それでは立派なダンジョンに成長されることをお祈りいたします》
つまり彼はダンジョンであり、ダンジョン主を育てねばならないらしい。
しかしそのための手段が分からなかった彼は、『声』へいくつか疑問を問いただした。
その上で魔素獲得のために必要な準備を行い始める。
《少しダンジョンを広げ、簡単な罠を仕掛け、魔物を数匹配置するのが一般的です》
彼は声のアドバイスに従いにダンジョンの増築を行い、簡易な罠を仕掛け、創造できる魔物を数匹創造した。
これによって彼に与えられた初期魔素は全てなくなった。
後は魔素の元になる外敵を待つだけである。
三日後、彼の元に侵入者が現れた。
四人組のその侵入者は、彼の仕掛けた罠を慎重に避け被害を受けることなく、内部へと進んでいく。
迎撃のために創造した魔物を送り込むが一匹一匹確実に始末されてしまった。
ダンジョンの最深部へと辿り着いた侵入者たちは、まだ生まれてさえいないダンジョン主を破壊すると、中からダンジョンコアを取りだし去っていった。
――何が悪かったのだろう? どこで失敗したのだろう?
未だ死への恐怖すら理解できないダンジョンの意識は、最後の瞬間までそんな疑問に支配され――闇に消えた。
――とりたてて珍しいことでもない、この世界ではよくある日常のヒトコマだ。
今日も何処かで新たなダンジョンが生まれ、そして当然のように消滅していくのである。




