45 現在のダンジョン
最近のダンジョンは初期に比べるとだいぶ住人も増えてきた。
住人が増加すれば、当然のことながらダンジョンの拡張作業も必要となってくる。なにしろ住居スペースだけでなく侵入者撃退の為の設備も必要だからな。
そこで今回は現在のダンジョンの状況について軽く整理してみようと思う。
現在のダンジョンの内部は大きく三階層に分かれている。
第一階層――この階層は初期の頃から規模こそ変われどコンセプトは変わっていない。
強力な魔物や凶悪な罠の設置は避けて、様子見の魔物と簡易の罠を主軸としている。
構造は多少迷路風になっており、侵入者の分断を誘発するようになっている。
このようなコンセプトにしている理由は魔素の確保にある。基本的に魔素の確保の方法はダンジョン内の生物の活動及び死亡。
つまり侵入者はダンジョン内部で始末しなければならない。故に序盤からあまりにも殺傷力を上げると撤退される危険性があるのだ。入口に近い場所ならばなおのことである。
なので第一階層では、敵対戦力の把握と戦力を軽く削ることを主な目的としている。
この階層の指揮をとるのはリーダーにセバス、場合によってはネリスである。
第三階層――この階層にはダンジョンの重要施設が纏めてある。具体的には玉座の間に、そこから繋がるノエルの私室。進化の間に生産区画といった具合だ。
言うまでもなくこの階層は最後の砦と言える場所なので、罠の殺傷力も上がり、最大戦力であるリディアとアカネに詰めてもらっている。
構造に関しても、彼女たちが戦いやすいように大きく間取りをとった部屋も存在する。
生産区画に関しては基本的に非戦闘員であるフラニーやオグワンの担当である。
この場所に繋がる通路に関しては隠し通路となっている。
あとはもしもの時のために排出部屋を設置できればいいのだが、こちらはレベル不足なのか設置可能項目には全く姿を現してくれない。
そして最後に第二階層――今回新たに新設した階層である。その様相を一言で言うのならば……水族館といったところだろうか。
フロア一面が丸ごと水没し、なみなみと海水が蓄えられている。さらに海中(?)に潜ればそこは海洋生物の楽園だ。
何故このような状況になったかと言えば、新加入した悟郎たちが原因である。
悟郎の配下の半魚人たちは一応陸上でも活動可能だが、それでも水生の魔物。当然ながら彼らの生活には水が不可欠だったのだ。
……というか彼らを配下に迎え入れた時点で気づいておくべきことである。どうも最近平和な日々が続いていたせいか気が抜けていたようだ。
彼らの数がもう少し少なければもっと別の手段もあったのだが、三十名を超える大所帯となればそういう訳にもいかなかった。
その結果、他にも様々な要素を考えた末にこのような事態となった次第である。
この階層を創った直後はただの海水槽だったのだが、ノエルの「何時でも魚を食べたい」という要望と、半魚人たちの暮らしやすい環境を求める心が利害関係で一致した。
わざわざ外から実際の海洋生物や海藻を運び込み、徹底的に環境を整えたのである……自分はこれに関してはほとんど関与していない。住と食への情熱とは恐ろしいものだと再確認した。
侵入者に対しての防衛としてはなかなかにえげつないものとなっている。足場として小型の島のような場所がいくつか点在しているのだが、そのうちの幾つかは当然罠が設置してある。あるいは全く足場として機能せず、乗ったとたんに沈む島すら存在する。
海中に沈めばそこは半魚人たちのホームグラウンド。苦戦を強いられることは間違いないだろう。
――ちなみにとある場所に隠し通路があるというオチであり、そこを使えば安全に行き来できるようになっている。普段ダンジョン内の住人はこちらを使うか、半魚人に運んでもらうことになる。
担当は当然ながら半魚人たちのリーダーでもあった爬虫人の悟朗だ。
なお全階層には『道具作製』で創造した宝箱を設置し、深くダンジョンに潜るほど良い品が手に入る仕様だ。
……今回の第二階層創造で溜め込んでいた魔素の大半が吹っ飛んでしまった。
冒険者が来ないのはありがたいが、やはり魔素が溜まりにくいというのはいざというときに不安である。
まさに『あちらを立てればこちらが立たず』といったところか。
『爬虫人』:水生系の魔物。レベル30相当。
攻撃性と比較的高い知性を備えた危険な魔物。水生ではあるものの陸上でも活動でき、武器を使うこともある。
下位の魔物のリーダー格に収まることも多く、経験を積み初級から昇格したばかりの冒険者にとっては、深刻な脅威となり得る。
『半魚人』:水生系の魔物。レベル10相当。
海辺のダンジョンなどに出没しがちな下位の魔物。一匹であればそれほど脅威ではないが、集団で行動することが多く、水中に潜られると手強さを大きく増す。




