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44 悟朗

 こちらを囲んだ連中の数は30程度。人型ではあるものの、ヌメヌメとした薄い鱗が全身を覆い、目口は人というよりも魚のそれである。手足に吸盤や水かきのようなものは見て取れ、おそらくは水陸両用なのではないかと思われる。

 おそらく半魚人みたいなものだろうが、彼らは魔物なのだろうか?


《肯定。水生系の魔物で『半魚人(マーマン)』です》


 ああ、まんまですか。

 とにかくそんな魔物に取り囲まれてしまったわけだが、実のところ戦力的にはまずいわけではない。

 彼らの実力はおそらく豚人(オーク)とさほど変わらないだろうと思われるし、少し前ならともかく今はノエルも十分戦える。特に命の危険を意識する必要もない。

 ただ――せっかく穏便に過ごせていたのに、ここでトラブルを起こすのは不本意である。そういう意味では状況はまずいと言えるだろう。

 軽く脅しつけて彼らが引いてくれるならそれがベストなのだが――

 

「……敵か? 敵だな。敵なのだな!」


 まずはこの久方ぶりの戦闘にワクワクを抑えきれない(ノエル)をどうにかしなければ。

 というわけで落ち着け。逸るんじゃない。

『何故だ? こやつらは敵だろう?』

 まだそうと決まったわけではない。覇雁への義理もあるし余計なことはしたくない。

『ぬぅ……』

 それに村も近いし、下手な真似をして連中を逃がしでもしたら迷惑がかかる。

『うぬぬぬ……』

 ……魚が食えなくなるかもしれないぞ。

『うむ! 安全第一で行くべきだな! 殺るときは確実に仕留めるとしよう』


 まぁ、成長してる……かな?

 ――と、そんなことを言い合っているうちに状況に変化が訪れる。

 こちらを囲む半魚人(マーマン)の一団から一匹、前に進み出てきた個体がいる。

 そいつだけは他の連中とは明らかに姿が違う。

 半魚人(マーマン)と同じく形は人型に近いものの、容姿は魚寄りも爬虫類寄りである。

 体格も一回りでかく、なかなかに威圧感もある。リーダー格といったところだろうか?


《肯定。『爬虫人(リザード)』は『半魚人(マーマン)』よりも上位の魔物です》


 なんか珍しい天の声からのリターンが滑らかだが、今は目の前の相手である。さて、どう出てくるか?

 何をしてきても対処できるように身構えるノエルたちの前で、リーダー格とおぼしき爬虫人(リザード)はクワッと目を見開くと――


「名も知れぬダンジョン主殿! どうか我等を御身の傘下に加えていただきたい!」


 半魚人(マーマン)たちと共に、それは見事な平伏叩頭――DOGEZAをきめたのだった。



◇ ◇ ◇



 ところ変わって森の中、魔物と話しているところを見られても不味いので場所を変えた次第である。

 魔物たちの中で唯一の爬虫人(リザード)であった魔物は悟郎と名乗った……名前つけた奴出てこい。

 悟郎曰く、彼らは元々海岸に近いダンジョンの魔物であったが、そのダンジョンのダンジョン主が打たれ野生化したらしい。


「いやはや、(それがし)らのような下位の魔物がうろついているとあっさりと狩られますからな。苦労しましたぞ」

「全くなのですよー」


 しかも海中は魔物の数こそ少ないものの、天敵となる冒険者がいないこともあって強力な古強者が跋扈していたそうな。

 そんな危険な相手を避けつつ、何とかこの近辺へと辿り着いたらしい。居心地こそ悪いものの敵がいないというのは彼らにとって実に好条件だったそうだ。

 だが、ある時やって来た怪魚によって彼らの平穏は崩されることとなる。


「いやはや、あの凶暴な怪魚を見事一本釣りする姿――某、心が震えたでござるな」

「そっ、そうか?」


 あの時遠目でこちらを見ていた彼らは、こちらの人となりを知るためにそれから暫く動向を探っていたらしい。勿論、気が付かれないようかなりの遠方から。

 そして毎日ノエルたちがとある場所に向かっているのを知り、その場所についての調査を行ったのだ。


「その上あのような巨大な魔物と相対して無事であったとは……もはや感服の至りでござる」

「は、ははは……そ、そうか」


 結果、覇雁の存在を知った彼らはこちらに保護を求めてきたというわけだ。

 あんなおっかない魔物の側にはいられないということらしい。

 あの爺さんは見た目に反して温厚な性格なんだがな。こっちも対等に渡り合ったというよりも見逃してもらった部分が大きいし。

 ほら、ノエルも意図しない形での高評価に顔が引き攣っているではないか。


「ご迷惑かもしれませんが、どうか某たちをノエル殿の配下にしていただきたい。我等一同付してお願い申し上げる」


 そう言うと再び半魚人たちと揃ってDOGEZAを行う。


「ふむ、貴様たちの言い分は分かったが、あの爺さんはああ見えて懐が深い魔物だ。あやつの庇護の下この辺りで暮らした方がよいのではないか?」


 ……なんと。てっきりノエルのことだから二つ返事で引き受けると思ったのだが、思っていたよりもちゃんと考えているようだ。


「ううむ、仰ることは分かるのですが、ダンジョンで暮らせるのであればやはりそちらの方が良いのでござるが……」

「魔物は基本的にダンジョンの中の方が落ち着くのですよー。一部例外もいるのですがー」


 ……帰巣本能のようなものだろうか? ダンジョンの外だとストレスが溜まるとか?

 まぁ、野生化した魔物は『進化の間』も使えないらしいしメリットもあるのだろうが、安全と引き換えにするほどのものだとは。

 となるとダンジョン外であそこまで成長した覇雁の爺さんは本当に例外なのだろうな。


『余としては受け入れてもいいと思うのだが……そなたはどう思う?』

 おや、珍しい。まさかノエルが事前に確認してくるとは。

『……確認せねば後でグチグチ文句を言うではないか』

 ハッハッハ……なんのことかな? まぁ、今回は特に反対する理由もない。

 戦力的にもそれほど警戒の必要はないからな。


「うむ、よかろう。貴様らを余の配下として迎えようではないか」

「おおっ、感謝いたしますぞ! この悟郎以下一同、必ずやお役に立ってみせるでござる!」


 ――こうして変な喋り方の悟郎とその仲間たちが配下として加わったのだが、少しばかり問題が浮上することとなる。……いや、先に気づけよ自分。

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