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42 頼み事

 とりあえず可及的速やかに巨大な魔物の頭の上から降りることになった。

 やはり人の頭の上で話すなど無礼極まりないからな……決して日和(ひよ)った訳ではないし、そもそもどちらも人ではないという突っ込みはなしの方向で。


「おおっ」

「ふわぁ~大きいですね~」


 魔物の頭から降りてから改めて見てみると、魔物の巨大さが浮き彫りとなる。

身体の大部分は大地と融合したかのように土に埋もれていて全体は見えないが、はっきりと分かる顔の部分から想像すると、山のようなとまでは言えないが、それでも小さめのビルくらいの大きさはあるのではなかろうか?

 ……あの怪魚など目ではない巨大過ぎる口は、人間サイズ程度であればあっさりと一飲みできるだろう。


 魔物としての格ははっきりとは分からないが、少なくとも()()()()()()()()()()()()実力差があるだろう。

 また他にも気になることはあるが、今はとにかく慎重に接するべきだろう。万が一にも相手の逆鱗に触れたりしないように――


「貴様凄くでかいな! こんな所で何をやっておるのだ?」


 うぉおおい! いきなり何をフレンドリーに話しかけているか!?

 相手が誰であれ物怖じしないのはノエルの美点だが、もっと大人しくしてくれないものか。

 この娘には戦闘訓練だけでなく礼儀作法も学ばせるべきではなかろうか。

 リディアにでも頼むか? いや、自分では直接伝えるのは無理だし、ノエルに言っても黙殺される可能性がある。はたしてどうしたものだろうか。


《まぁ、特には何もしておらんよ。強いて言えば眠っておった》


 現実逃避気味にノエルの教育について思い直していた自分だが、目の前の巨大な魔物はさほど気にした様子もなく穏やかに答える。

 器が大きいってのは実に素晴らしいことだと思う。


《お嬢ちゃんはひょっとしてダンジョン主かね?》

「うむっ、余の名はノエル! ダンジョン主である!」

《ふむ、ノエルの。儂は名は覇雁(はがん)巨岩牛(べヒモス)というしがない魔物じゃよ》

「いやいや、しがないっていうのはさすがに無理があると思うなー」


 アカネの零した呆れたような言葉に同意だ。いくらなんでもこれで「しがない」は無理がある。

 今にして思えば、ノエルやネリスは魔物特有の感覚で覇雁の存在に漠然と気がつき、居心地の悪さを感じていたのだろう。

 この辺り一帯の魔物の生息数が少ないのも同じ理由だと思われる。

 とはいえ、それだけだと此処が禁域とやらに指定されている理由が分からないのだが。


「ところで貴様は凄くでかくて強そうだが、ダンジョン主ではないようだな」

《ああ、だから言ったじゃろう? 儂はしがないただの魔物じゃよ》

「はぁ~、こんなに強そうなのにぃ、ダンジョン主じゃないんですね~」


 そう、それが気になっていたことの一つである。

 かなり強そうというのは分かるのだが、グレディアやゼグニスから感じたダンジョン主特有の存在感というものを感じないのだ。

 野生の魔物って皆こんなに強そうなんだろうか?


《否定。これ程に強力な野生化した魔物は希少です》

 おっと、お久しぶりです天の声……ってやっぱり珍しいのか?

《肯定。野生化した魔物はダンジョンの庇護を受けられず、『進化の間』なども使えないので成長スピードが遅く、多くは成長しきる前に冒険者によって狩られます》


 なるほど、そしてこの覇雁はそんな変わり種の一匹というわけだ。


《それでお嬢ちゃんたちはどうして此処へ来たのかね? この辺りは龍花(ロウファ)の奴が禁域とやらに指定しとるはずじゃが》

龍花(ロウファ)?」

《ふむ、都の方で姫なんぞと呼ばれておる奴じゃよ。この倭那国を纏めておるダンジョン主でもある》


 うげっ、姫とかいうのはそんな偉い奴だったのか。これは不味いかもしれない。


「……この辺りに来たのは偶然です。『移転』先が偶々この近くでした。此処へ来たのも、あくまでも不自然な結界の調査です」

《……嘘は言っていないようじゃな。まぁいいじゃろ、龍花の奴が何か言って来たら、儂が話をつけるとしよう》

「それはありがたいねー。こっちも争い事は勘弁だし」

《ただし! 一つお主等に頼みたい事がある》

「むっ、頼み事とな?」 


 う~ん、こんなでかいのからの頼み事かー。……無理難題の類じゃないといいが。

 微妙にワクワクしてるノエルについては気がつかない方針でいこう。


 正直に言えば、前回は冒険者が来なかったんであまり魔素が溜まらなかったし、グレディアを倒した分は『移転』したせいで減っているから、暫くは定住してゆっくりでいいから魔素を溜めたいのだ。

 幸いこの辺りは禁域だから人間は寄ってこないし、覇雁がいるから魔物も少ないし……あれ? よくよく考えたら此処って自分がずっと待ち望んでいた安住の地じゃね?


《その頼み事とはな……儂の身体の掃除をすることじゃ》


 ……ん? 今何を言われたのかな?


《実はのう、随分と寝ておったせいか、色々とこびりついておるようでのう。一度さっぱりしたいがじゃが、儂の足では届かん部分も多いでな。それでお主等に掃除を頼みたいのじゃよ》


 ――当然のことながら、地味過ぎる頼み事に渋るノエルを無理やり説き伏せ引き受けることとなった。

 ……いや、だってこの頼み事で大罪を許可してくれるなら、条件としては破格すぎるだろう。そもそも戦うことになどなったら勝ち目ないし。

 決して掃除で苦労するのはノエルたちだけだし……などとは思ってはいない。






巨岩牛(べヒモス)』:獣系の魔物。レベル100相当。

 巨大な体躯とそれに相応しい破壊的な馬力を誇る。

 ランクA相当のダンジョンにて存在が確認され、中位レベルのダンジョン主と同格の実力を持つとされる。

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