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4 スケルトン ハンスの日々

別視点の話です。

 俺の名はハンス。新進気鋭の冒険者だ!


 …………済まん、嘘をついた。見栄を張りたかったんだよ! コンチクショウ!

 正確には元冒険者で現スケルトンだ。

 何を言っているのか分からないと思う。

 正直、自分でも分からない。

 今でも悪い夢を見ているのではないかと、時たま思う。


 思い返してみれば、身の程をわきまえず、ダンジョンに挑戦したこと。

 あれが不味かったのだ。

 もっと地道に実力を上げていればよかったのに、降って湧いた幸運に跳びついてしまった。

 ……実際は幸運の皮を被った不運だった。


 突如として現れた居るはずのない格上の相手になすすべなく蹂躙され、抵抗虚しく死んだかと思えば、気がつくと骨である。

 これぞ不運と言わず、何と言う?


 初めはパニックになった。

 目に映るのは、肉も皮もない骨。しかもそれが自分の体なのだ。

 叫び声を上げそうになった……肉体がないので、骨がカタカタ鳴るだけだったが。

 そして即座にダンジョンの外に逃げ出そうとした。

 しかし叶わなかった。

 何と言ったらいいか、出たくとも出られないのだ。

 意思とは別に体が拒否してしまう。


 ……後に上司に教えてもらったのだが、これはダンジョンの意思による強制力らしい。

 俺は知らなかったのだが、ダンジョンには固有の意思があり俺をスケルトンとして甦らせたのもダンジョンらしい。

 ……なんて悪趣味な奴だ。

 きっと根性が捻じ曲がって陰険で悪辣で卑怯で下種で冷酷な奴に違いない。


 ――そういった情報を俺に与えてくれる上司は、『レイス』のセバス氏だ。

 ……よりにもよって俺と仲間を殺した相手である。

 初めはもちろん反発があった。憎しみもあった。

 しかし、しばらくするとそんな感情は霧のように消えてしまった。

 セバス氏曰く、魔物化した影響らしい。

 ない背筋がうそ寒くなる感覚があったが、その影響はすぐにでも実感できた。


 ダンジョンに侵入者がやって来た時のことだ。

 相手は生前の俺と同じような初級冒険者。

 体はダンジョンに逆らえずとも、心理的に抵抗があると思ったのだが……全くなかった。

 むしろ侵入者への不快感と、撃退した達成感があった。


 そんな己の変化に悩む時間は、皮肉なことに次々とやってくる冒険者によって与えられなかった。

 この体になってから分かったことだが、魔物にとって冒険者は侵入者以外の何物でもないのである。

 魔物が冒険者を襲うのも当然だった。

 結果として、何度も撃退していくうちに順応してしまった。


 俺以外の冒険者達も、ダンジョンによってスケルトンとして甦っていた。

 しかし俺以外のスケルトンには知性が感じられなかった。

 セバス氏によれば、俺にはスケルトンとしての才能があったらしい。

 ……喜んでいいのか微妙だが、木偶のように命令に従うだけの元冒険者達を見ていると、やはり運が良かったのではないかと思えてくる。

 思えば初めにダンジョンの外に出られなかったのも運がよかった。

 こんな体で外に出ても、野垂れ死ぬか討伐されるだけである。

 ……ダンジョンに感謝する気にはなれないが。

 

 スケルトンとしての俺の仕事は、ダンジョン内の清掃と侵入者の撃退である。

 冒険者達によって荒らされたダンジョンを綺麗に片付ける。

 ダンジョンはダンジョンの癖に綺麗好きなのか、かなり頻繁にやらされる。

 

 撃退の方はセバス氏の担当で俺達は基本的に囮役だ。

 仲間のスケルトンがいくらかやられるが、やってくる冒険者がスケルトンとなり、補充される。

 そんな循環を間近で見ていると、何とも虚しさがこみ上げてくる。

 しかし、俺もやられる可能性があるので、他人事ではない。

 

 ――実際、一度ダンジョンの外に誘い出され殺されかけた。

 ……相手が小僧ガキのくせに女連れだったのがまた腹立だしい。

 もう二度とあんな目にあうのは御免だ。

 一度死んだからこそ、再びの死は恐ろしいのだ。

 そんなことにならないよう、空いた時間を使って現在修行中だ。


 武装は生前使っていた剣をそのまま使っているが、初めのうちは振るのも一苦労だった。

 なにしろ今の俺は骨だけで筋肉がない。

 生前は感じなかった生身の体の便利さを、この体になり実感できた。


「フォッフォッフォ、まだまだ練り込みが足りませんぞ。骨身に魔力を染み渡らせるイメージを堅持するのがコツですぞ!」

 

 現在はセバス氏に扱かれながら、魔力を全身に行き渡らせ、コントロールする技術を習得中だ。

 セバス氏曰く、この技術を修めれば、生前以上の動きができるらしい。

 ちなみにセバス氏は俺の言葉が何故か理解できる。

 アンデット同士のシンパシーだとか。

 ……というか現在俺が話せる相手はセバス氏しかいないのだが。


 そのセバス氏だが、『レイス』とは思えないほど面倒見がよく、紳士的だ。

 訓練は容赦ないが、分かりやすく丁寧に根気強く教えてくれる。

 俺と仲間を殺した相手ではあるが、生まれてくる種族を間違ったのではないかとさえ思えてくる。

 

 そんなセバス氏だが欠点もある――ダンジョン主の事となると人が変わるのだ。

 まさにテンション天元突破といった感じである。

 一度ダンジョン主について話を振ったものなら、初めて会った瞬間から偉大な後光を感じたとか、いずれ歴史に名を刻むダンジョン主になるに違いないなど、ひたすらに語られ続ける。

 この話は侵入者が来るまで続き、俺はやって来た冒険者に心から感謝した。

 

 もっとも俺はまだ件のダンジョン主には会っていない。

 生前辿り着いた、玉座の間にいるらしいが……。

 いずれにせよ心優しい上司であることを祈るのみである。


 ――そんな感じで俺の人生改め、スケルトン生は続いている。

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