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40 無邪気な子供は時として残酷である

 楽しく釣りしてたら不気味な怪魚に襲われちゃったぜ――という全く嬉しくもないサプライズの後、ノエル達は街道を無事に発見した。

 ただし街道と言ってもあまり整備されているようには見えず、人が行き来するうちに踏み固められたような印象である……この辺りは僻地なのだろうか?

 ともあれ、その街道を歩き進んでいくと海辺の街へと辿り着いた。

 ――いや、規模からすれば街というよりも村と表現するのが適当だろうか。

 そしてその村を見た際に、少しばかり奇妙な印象を受けることになった。


「……前の街とはずいぶんと違う感じがするな?」

「気候が違うのですから多少の違いはあって当然ですが……これは建築様式自体が違うようですね」


 そうなのだ。前回の街訪問の際に見た建築物は石造り――つまりは洋風の建築技術を感じるものだった。

 しかしこの村の建物の材料は木材や藁――どちらかと言えば和風建築を感じさせるものなのである。

 ダンジョン侵入者が全く来なかったことも合わせて考えると、どうにも今までの人里とは趣を否とするようである。


「んー、とりあえず村の中を見て回ろうか?」


 アカネの提案で村の中へと足を踏み入れる。それほど大きな村ではないので一通り見て回っても、時間はたいしてかからないだろう。




 海辺の小さな村――そう言うと些か寂れた光景を想像してしまうかもしれない。

 しかし、この村に関して言えばそれは当てはまらないようだ。

 村を見て回っていると、すぐにそう気がつくことができた。


 建物は建築材こそ木造だが造りは確りしていて、通気性も良さそうだ。

 住人には飢えたような印象はなく、働きに出ているのだろうか男性の姿は見当たらないが、女性の姿はそれなりに見受けられるし、子供たちの遊んでいる様子も見える。

 彼らは遠巻きにこちらの様子を窺っているようだが、それも不信感と言うよりは好奇心の比率が強いように感じられる、と――


「なーなー、ねえちゃんねえちゃん?」

「む、なんだ?」


 こちらを気にしていた子供たちの一人が、我慢しきれなくなったのか声をかけてきた。

 相手が子供とあって特に警戒はしていなかったのだが――


「なんでそんな変な格好してるんだ?」

「んな!?」


 いきなり爆弾を放ってきた。


「へ、変ではないぞ!?」

「えー、変だぞー。なー、お前ら?」

 一人が話しかけたのを切っ掛けとして、わらわらと集まってきた他の子供にも同意を求める。


「うん、変だよね。げんちゃん」

「可笑しいよなー」


 あっというまに変、変、と大合唱である。


「ち、違う、違うぞ! 断じて変ではないぞ!?」


 ダンジョン主と戦った時以上に狼狽えているノエル。

 う~む、こういった精神攻撃には打たれ弱いようだ。


『そ、そなたも変と思うのか?』

 いや、自分は別に変とは思わない。ノエルに似合っていて可愛らしいと思う。

『そ、そうであろう!?』

 ただし、彼らに物珍しく見えるのは仕方がない気もする。


 子供たちには特に痩せすぎな印象を抱くような子もおらず、着ている服は質素だが粗末とまでは言えないものだ。

 しかし問題なのはその服装――なんというか着物なのだ。これではノエルたちの格好が奇異に感じられても仕方があるまい。

 ちなみにそんな彼らに対して、こちらは一人を除いて概ね上手く対処出来ているようだ。


 アカネはにこやかに子供をあしらっている……ただし目は笑っていない。

 子供の方もそれを敏感に感じ取っているのか、他と比べると大人しい。

 ネリスは子供の扱いに馴れているのか和気藹々といった様子だ。

 何気に情報を引き出している。ここは彼女に任せて問題あるまい。

 変と言われたノエルは、うがー! とばかりに喧嘩しているようにも見えるが、実際にはじゃれあいに近い。精神年齢的には大差ないからだろうか?

 そして最後にリディアは――顔を引き攣らせ固まっていた。


 自分はちゃんと気づいていた……ノエルの服が変と言われた時に最も衝撃を受けていたのがリディアだと。

 そして自分は知っている……ノエルの服が実はリディアお手製だと。

 いったい何が不満なのか、ノエルの服を用意する際にリディアは自分が用立てたた服を却下し、生地と裁縫道具を要求してきたのだ。

 そしてあっという間に服を仕立ててしまった。


 しかし……リディアの創る服はどうにも装飾過多で可愛らしさを強調し過ぎな印象があったのも事実である。

 今回はその点を見事に突かれる形となった。

 悪意など微塵もない子供の無邪気な発言だけにショックも大きかったようだ。

 でもまあ、ノエルには似合っていると思うので挫けないでほしい。そしてもう少し機能性を重視してほしい。


「おお! うめぇな、これ!」

「甘ーい!」


 子供たちが歓声の声を上げるので目を向けると、どうやら菓子の類いを与えて懐柔しているようだ。下手人は……アカネか。


「えっと、本当に貰ってもいいんですか?」

「いいよー、いろいろ教えてくれてありがとね!」


 どうせ元手は無料(ただ)だしね、と呟いていることから察すれば、おそらく『創造具現』を使ったのだろう。


「……なにか話は聞けたのでしょうか?」

「はい~、いろいろ聞けました~」


 どうにか意識を取り戻したリディアにネリスが答える。


「うむ! このあたりは魚が美味らしいぞ! それに余の服が変だと言うのも撤回させたぞ!」


 君はいったいなにをやっていたんだ……?


村長(むらおさ)って人がいるらしくて、その人が一番知識が豊富だってさ。村の中央の家に独り暮らしで、今日も多分いるだろうって話だったね」


 うん、アカネやネリスがいてくれて良かった。

 そんなわけでノエルたちは村長(むらおさ)の家に向かうことにしたのだった。

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