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38 海

 ――侵入者が来ない。


 あの忌々しい鎧の襲撃を凌いでこの地に『移転』してからしばらく経ったが、未だに一度足りとも侵入者がやって来ない。

 本来であれば喜ぶべきことではあるのだが、来ないなら来ないで不気味に感じてしまうのだ。

 

 ……いや、本当にどうしたんだろう? ダンジョンとしてのランクが低いうちは、『移転』先は人里近くに限定されるので人がいないということはないはずだ。

 『ダンジョン探知』で調べてもみたが、周囲には自分の他に一つダンジョンを確認できた。

 ……やはりおかしい。何故誰も来ないのだ?

 まさかとは思うが、慎重にこちらを調査し準備を整えて多勢で襲撃――とかないよな? さすがにそんな状況になったら詰みかねないのだが……。

 ここは一度、外の状況を確かめるしかないか?


『となれば……出かけるのだな!?』

……ダンジョン()の思考に割り込むものじゃないぞ。

『ええい、細かいことをゴチャゴチャ言うでない! それよりも……出かけるのだろう!?』


 あーあー、お目々キラキラさせちゃって……前回のお出かけはそんなに楽しかったかー。

 ……でも今回はノエルを外に出すつもりはないんだが。

『な、なぜだ!?』

 いや、だって危ないし。この間の鎧みたいなのと遭遇したらどうするというのだ。

『ぬぬう……っ』


 ふくれっ面しても無駄である。結局のところノエルの安全は最優先事項なのだ。

『だ、だが、そのような危険なことだからこそ余が率先してやらねばならぬのではないか!?』

 ……む。

『そ、それに……そうっ! 余が外に出ねばそなたも状況を把握できまい?』

 ……むむ。

『今のところ襲撃して来る者たちはおらぬようだし、リディアを供に付ければなんとかなるのではないか?』

 ……むむむ、なにやら口が回るようになっている。

 これははたして成長というべきなのかどうか。しかし一理あるのもまた事実。

 結局のところ、ノエルを介さねば外の状況を把握できないのがネックなのだ。


 ……仕方がない。迂闊な行動をとらないことを条件に許可するとしよう。

『うむっ、もちろんだ!』

 ……返事だけはいいんだよなあ。



 というわけで出かけることになった。面子は前回と同じになりそうだったが、


「私も~外に出たいですぅ」


 というネリスの発言により、ミューが留守番となった。

 ……余談だがネリスの立候補と同時にあの小妖精(ピクシー)はダッシュで逃げだした。いったい二人の間になにがあったのだろう?



 ◇ ◇ ◇



「おおっ、雪がないな!」

「気候がだいぶ違うみたいだね」

「……北部ではないようですが」

「ぽかぽかで~過ごしやすいですね~」


 当然ではあるが、ダンジョンを出た先の光景は先日とは一変していた。

 まず気候が違う。暖かで過ごしやすく、もちろん雪など積もっていない。

 群生する植物も違うようだし、野生動物や昆虫の類も見受けられる。

 それと気になるのは、空気が微妙に湿り気を帯びていることだろうか。


『それでこれからどうするのだ?』

 とりあえず人里が近くにあるはずだからそこを目指そう。

 どこか見晴らしの良い場所を探し、そこから街道でも見つけられれば御の字だ。

「よしっ、出発だ!」


 ノエルを先頭に歩き始める一同。整備されている場所などなく道なき道を行く行軍だが、この面子であれば特に問題はなし。

 今まで襲撃がなかったので予想通りではあるが、野生の魔物(モンスター)とも遭遇しない。

 周囲の状況に特筆すべきことはない……しかし、何故だかノエルに変化が現れた。

 やたらと周囲を気にしたり、首を傾げたり、唸ったりとおかしな挙動を見せ始めたのだ。


『むう……』

 なにか気になることでもあるのか?

『いや、上手く言えんのだが……なんとなく変な感じが』


 歯切れの悪いノエルの言葉に当惑していると――


「ネリス、さっきからなにをしているのですか?」

「あぅ、すいまぁせぇん。ただぁ、なにかぁおかしな感じがしませんか~?」


 どうやらネリスもノエルと同じく違和感があるようだ。


「私はなにも感じませんが……アカネはどうですか?」

「んー、特にはないかなー。ひょっとしたら海が近いのかなー、ってくらいで……」

「「「海?」」」


 ……違和感を感じているのはノエルとネリスだけか。両者に共通するのは魔物だということだが。


「あれ? ノエルちゃんはともかくリディアさんたちも知らないの?」

「……知識としては知っているのですが、実際に見たことはありません」

「私もぉ、内陸の生まれなので~」

「海とはなんなのだ?」


 ……ってあれ? 話の内容がいつの間にか。


「海ってのはねー、すごく大きな湖というか」

「……大浴場のようなものか?」

「いやいや、あれよりずっと大きいよ」

「おおっ、それは凄いな!」


 まあ、危険なわけではないからそれほど気にする必要はない……か?


「おっ、やっぱり海の近くみたいだね。波の音が聞こえてきた」

「あ~なんか聞えますね~」


 そんな会話を交えていると視界が開け、青一色の光景が目の前に広がる。


「おおっ! 凄いな! でかいな! あれが全部水なのか!?」

「ふわ~広いですね~」

「話には聞いていましたが……」

「いやー、こういう光景を見てると釣りとかしたくなるねー」


 開けた場所は切り立った崖の上だった。

 残念ながら街道からは外れているが、見晴らしがよいので地形を把握しやすい。

 ここからならどの辺りへ向かえば人里があるのか大体はわかるだろう。


「釣りとはなんなのだ?」

「この広い海に釣り糸を垂らして、魚を釣り上げるんだよ。技術と根気が試される大人の遊戯だよ」

「おおっ、面白そうだな!」


 釣りかー、知識にはあるが経験はないからなー。

 ノエルは海の知識もなかったからやらせてあげたいんだが……釣り具がないからなー。


「ほい、この針の先に虫とかを刺して海に垂らすんだよ」

「うむ! では誰が最初に釣るか競争だな!」


 ……おや? なぜか立派な釣具が……確か『想像具現』って具体的にイメージできないと駄目ではなかったっけ?


「私、結構釣り少女だったんだよねー」

「魚って美味しいらしいですね~」

「なんと! そうなのか!?」

「……私は周囲の見張りをしています」


 本当に便利な娘だなー。一ダンジョンに一人欲しいところだ。

 ……そんなわけで釣りタイムに突入することになった。

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