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37 吾輩の名はクロである

キャラ崩壊☆

 吾輩の名はクロである。

 種族は先日めでたく『シャドーウルフ』に進化した。性別は雄だ。

 敬愛すべき父母は吾輩が幼い頃に人種によって殺された。

 しかし恨んでなどおらぬ。弱肉強食は世の理である。


 本来であれば吾輩もその時に死んでいたはずであったが、ある方の慈悲によって長らえることができた。

 その方こそ我が主たるお嬢である。

 心優しく勇敢なお嬢のために、吾輩は命を張る所存だ。

 なれどまだまだ力不足を実感する日々である。

 

 ――さて、とりあえず今日はダンジョン内を一通り見て回るとしよう。




 


「出会いが~欲しいですね~」


 ダンジョン内を散策中、初めに出会ったのはネリスである。

 ネリスには偶にこうして愚痴を溢される。彼女の気持ちは実によくわかる。

 我輩も母のような貞淑で夫を立てる雌と出会いたいものである。


「クロが~人間ならよかったんですがね~」


 慰めるように鼻を寄せるとそのようなことを言われる。

 残念ながら我輩には人型の雌に劣情を抱くような趣味はないのだ、許せ。






「おや、クロ殿。お散歩ですかな?」


 次に現れたのはセバスだ。

 彼はお嬢に対する忠誠心において、我輩やリディア殿に勝るとも劣らないものを持っている。ダンジョン内随一と言っても差し支えないかもしれぬ。

 ……初対面の時に噛み付いてしまったのは非常に申し訳ないことをしたと思う。もっともセバスの事をよく知ってからは仲良くさせてもらっているが。

 リディア殿は彼をお嬢の教育に悪いからと遠ざけるが、吾輩にはとんと意味が分からぬ。

 

「う~む。クロ殿のようにお嬢様の側で働くにはどうすればよいのでしょうな?」


 うむ、それは簡単なことだ。吾輩のように柔らかい毛を生やせばよい。

 思うにセバスは毛が少なすぎるからリディア殿に邪険にされるのであろう。

 残念ながら吾輩は言葉を話せぬので、体を彼に寄せ、自慢の毛を擦りつける。


「フォッフォッフォ。慰めて下さるのですかな? なにこの程度の事でへこたれませぬぞ!」


 ……どうやら吾輩の真意は伝わらなかったようだ。すまぬ、セバス。






「さぁ、行くのですよー!」

「進め、進めー」

「ぬくぬくだね~」

「……至福」

「……zzz」


 ……吾輩の頭やら背中に乗っているのはミューを筆頭とする妖精(ピクシー)たちである。

 別に乗るぶんには構わないのだ。彼女ら程度であれば重くもない。昔はお嬢も背に乗せたものだ。

 しかし……吾輩自慢の毛を引っ張るのは止めてもらいたい。

 そして涎を垂らすのも是非とも止めていただきたい。


「フラニー様の元までレッツゴーですよー!」


 ……やれやれである。






「……ッ!?」


 ああ、なんたることか。吾輩は美しきお嬢の従僕に相応しき気品を身に着けようと日々努力しているというのに、()を前にするとそのような決意が吹き飛んでしまう。

 野生の本能・原初の衝動が我が身を支配してしまう。

 つまりは――


「――――ッ!?」

「ガウッ!」


 吾輩の前を全力で逃げるリーダーの骨を舐めしゃぶりたいのである。

 浅ましきことではあるが、この欲求を吾輩どうにも抑えきれぬのである。

 済まぬリーダー、犠牲となってくれ。


「――ッ!」


 そのように骨を鳴らされても吾輩にはリーダーの言葉は分からぬし、むしろ欲求が加速するばかりなのだ。






「……ふむ、今日もですか。良い心がけです」


 現在吾輩の目の前に立つ女性の名はリディア――このダンジョン最強の使い手である。

 今の吾輩では足元にも及ばぬ御仁だ。

 なれど世界にはリディア殿の上を行く強者が数多く存在する。

 全くもって世は広いことである。……故にこそ吾輩はもっと強くならねばならぬ。

 いつまでも足手まといは御免なのだ。


「では……始めます」


 なればこそ今日もまた特訓である。






 ……吾輩ぼろぼろである。

 リディア殿は実に容赦なかった。吾輩の後に来たセバスやネリスたちも、見事に叩きのめされていた。

 しかし少しずつではあるが着実に強くなっている実感がある。

 これからも日々精進だ。


「おっ、クロちゃんおかえりー」


 玉座の間に戻った吾輩を迎えてくれたのはアカネである。

 お嬢の友達でよく楽しそうに遊んでいるのを見かける。

 今日も遊んでいたのだろうか?


「部屋には静かに戻ってね」


 アカネは吾輩の頭を一撫ですると去っていった。

 ……ふむ、どういう意味であろうか?


 寝室に入ってみると、アカネの言っていたことに納得した。

 お嬢がベッドでぐっすりと眠っていたのだ。

 しかし妙である。この時間であればお嬢はまだ起きているはずだが?


 じっくりとお嬢の様子を眺めてみると、服が所々破けていた。

 顔色にも疲労の色が濃い……どうやらアカネと共にお嬢も特訓中だったらしい。

 努力家なのにそういった部分を見せたがらないお嬢らしいことである。


 吾輩はお嬢の顔を一舐めし、傍らにて眠ることにしたのだった――。

更新。

しばらくはもう一作品に集中しています。

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