36 休息
――旅はとても順調だ。
道中では新たな物件を買い漁り、会社の規模は膨れ上がるばかり。
そして目的地に辿り着けば、与えられる援助金でもってさらなる飛躍が見込めるだろう。
「ハハハハッ! マネー・イズ・パワーだ!」
――だが油断するなかれ。商売の世界は群雄割拠。
魑魅魍魎が跋扈する魔窟なり。
「社長! 支社からの緊急連絡です! すぐに向かいませんと!」
「な!? 放っておけ! 現場の人間で対応せよ!」
「駄目です! 既にヘリを用意しております!」
「バッ、バカなー!?」
ライバル会社の裏工作によって目的地より引き剥がされる。
だがまだだ、まだ新幹線に乗り換えれば逆転できる……ッ!
――だがこの機会を逃すまいと牙を剥く零細会社社長。
先手を打って新幹線に乗り換え、すれ違い様に長年に渡って背に張り付いていた貧乏神を擦り付ける。
「ノエル社長さんの方が居心地がいいのね~ん♪」
「なんだ貴様はーっ!?」
――そして不運はさらなる不運を呼ぶ。
「キ~ング・〇ンビ~! さあ! すばらしいボンビラスの世界をお目にかけよう!!」
「止めぬかーっ!」
盛者必衰は世の理。
蓄えた資金は底をつき、買い占めてきた物件は売り飛ばされる。
気づいた時には赤字の借金まみれ――ああ、儚きこと夢のごとし。
「な……ん……だと……!?」
あまりの惨状に茫然自失の借金社長。
そんな彼女をよそにライバル社長は目的地へとたどり着く。
華やかなファンファーレが響き渡った……。
「納得いかぬーっ! まだだ! まだ逆転の芽があるはずだっ!」
「いやー、残念だけどタイムアップだねー」
「ミューはなんとか二位なのですよー!」
「そんなバカなーっ!?」
……実に楽しそうで結構なことである。
あのゼグニスとかいうダンジョン主襲来から無事に脱出し、現在はのんびり休息中だ。
――あのとき何をやったかと言えば何のことはない。単にゼグニスを罠に嵌めただけだ。
発動させた罠は『排出部屋』――通称ダストボックスである。
その効果は侵入者を部屋ごとダンジョンへ排出すること。
以前ネリスに蹂躙された後で、初回特典を使い配置しておいた罠である。
最初から相手を『排出部屋』に誘い込んでは気づかれる恐れがあるので、ノエルたちには戦闘を行いながらなんとか誘導してもらった。
無理をしても勝ち目は薄いので、基本的に身の安全を考えて行動するよう言いつけたが……どうにも守ったとは言えない気がする。
アカネを最後まで伏せていたのは、今まで『排出部屋』を使ったことがなく、発動するまでどれくらい時間が掛かるか分からなかったからである。
ダンジョンからゼグニスを追い出すことに成功した後は、即座に『移転』発動。
事前にグレディアを倒せていたので、魔素が不足することもなかった。
なかなかに綱渡りだったが、犠牲を出すことなく乗りきれたのだから良しとすべきだろう。
実際に使ってみて分かったが、『排出部屋』+『移転』のコンボはなかなかに優秀だ。
緊急脱出の手段としては重宝するだろう……設置できればの話だが。
もともと『排出部屋』は初回特典で配置した罠であり、しかも一度使えば再設置が必要という使い捨ての罠なのだ。
そして残念ながら、現在のダンジョンのレベルで設置できる罠の中に『排出部屋』は存在しない。
つまり今回のような手は今後は使えないということだ。
……これからはより慎重な行動が求められるだろう。
……いっそ積極的に他ダンジョンに接触して、戦意なしをアピールすべきか?
いや、それがきっかけで開戦する危険性もある……というかそっちの方が可能性としては高いだろうし……。
悩みどころである。
「もう一度っ! もう一度だっ!」
「ふっ。お相手しますよー」
「今度こそミューが一位ですよー!」
「断じて否ッ! 勝利は余のためにあるッ!」
……楽しそーでいいね、君ら。
他のメンバーは前回の敗北が堪えたのか、頑張って特訓中なのに。
あのリディアですら気合を入れて、鍛えなおしているのだから相当である。
彼女に付き合わされてる面子は、普段の特訓以上にボロボロであるが……。
……まぁ、こうして息を抜いているとき以外では、ノエルたちも特訓したりしているようだが。
やはり安易な勝利よりも、辛い敗北の方が学べるものは多いのかもしれないと思えてくる。
――とはいえ、一番良いのは争い自体がないことなのだが。
さてさて……、ぼちぼちここいら一帯の調査もやらなきゃなー。
今度こそ安全な場所だといいんだが。
……近くに人里があったり、ダンジョンがあったりする時点で、そんな願望は望み薄なのだと最近は悟り始めているが……それでもなかなか希望は捨てられないんだよなー。
桃太郎〇鉄。
パーティーゲームの傑作の一つだと思います。
冒頭に登場人物紹介を追加しております。
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