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33 対峙

閲覧ありがとうございます。

「シャァアアアアアッ!」


 耳に障る叫び声を上げながら、グレディアが蜘蛛の足を振り上げ襲い来る。

 その足の先には鋭い爪が生え、込められている力も考えれば下手な剣士の斬撃など及びもつかない鋭利さを持つだろう。


「……ッ!」


 豪風をあげながら迫る斬爪をノエルは的確に見切り回避する。

 如何に足が多かろうと、その大半は自重を支えるのに費やされる。加えて互いの体格差も考えれば上半身の手もさほどの脅威ではない。

 最も注意すべきは一番手前の足である。


「ちょこまかと逃げ足ばかりッ!」


 苛立ったグレディアが口から糸を吹くも、これは予想の範囲内である。

 蜘蛛である以上、糸と毒は使ってきて当然との認識をノエルと共有している。

 糸が吐かれる瞬間に、無防備となった足元へとノエルは跳び込み拳を振るう。


 ――堅い。

 流石は昆虫の外骨格。そこらの鎧よりもはるかに高い硬度を有している。

 しかしどれほど華奢な少女に見えてもノエルはダンジョン主。

 より魔力が込められ『身体強化』で威力を増した二撃目が関節を砕く。


「ぎッいいいい!? こォオのおおおッ!」


 がむしゃらに暴れまわり足を振り回すグレディアから距離をとる。

 人間ならば手足がちぎれればショック死してもおかしくないが、昆虫――しかも魔物であればさしたるダメージとは言えない。

 見る限りまだまだ戦意は衰えないようだ……自分なら撤退を視野に入れるけどなー。


 はっきり言ってグレディアにはもはや勝ち目がないのだ。

 今までの攻防から推測するに、ノエルとグレディアの魔物としての格はほとんど変わらないだろう。

 しかし経験においてはかなりの差がある。

 優秀な教師陣に鍛えられ、格上相手に模擬戦を繰り返してきたノエルはかなり身体の使い方(・ ・ ・)が上手い。

 対しグレディアの方は身体能力によるゴリ押しの部分が目に付く。

 おそらく戦闘という行為そのものになれていないのだろう。


 こうした実例を見てみると、大勢力の配下に納まるのも善し悪しと言える。

 安全に魔素を獲得できるが、実戦経験を積めないのだ。

 ついでに言えばノエルの意向で手を出してはいないが、こちらの主戦力は健在で周囲に配置済み。

 ノエルが危なくなれば介入することになるだろう。

 ……そのあたりの状況判断もできないのだろうか?

 いや、この状況では撤退も難しいからダンジョン主(ノエル)を倒せばワンチャンあるという見解なのか?

 ……あまり頭は良さそうには見えないから可能性としては薄いが。


 

 どのみち戦闘中に自分に出来ることは少ないので、そちらはノエルに任せて以前から疑問に思っていたことを実験してみることにする。

 それでは早速――『移転』!


《……条件が満たされていません》


 ……やっぱりか。ちなみにどうすれば『移転』は実行できる?


《ダンジョン内の全て(・ ・)のダンジョン主の同意を得て下さい》


 ――前々から疑問に思ってはいたのだ。

 ダンジョン主がダンジョン外に出ていられる時間には制限がある。

 ならばダンジョン主が他ダンジョンに襲撃を掛けた時に、『移転』が行われた場合どうなるか?

 ダンジョン外に排出されるのか、敵対するダンジョン主を倒せば己のダンジョンに戻れるのか――答えはこれである。『移転』自体が使用不可。

 予想していたうちの一つではある。しかし確証が得られた意味は大きい。

 つまりはダンジョンには侵入された時点で、緊急避難の手段としては使えないわけだ。

 こればかりは実際に試してみなければわからなかった。

 人間相手であれば別だが、他ダンジョンと戦う際は注意しておく必要があるだろう。



「――貴様ッ、降りてこんか!」

「雑魚は見降ろされていればいいんだよ!」


 おや、何時の間にやら戦況に変化が。

 グレディアが天井に張り付き、糸を撒き散らしている。

 なかなか上手い手だ。近接戦における不利を悟ったのだろう。


「ぐぬぬぬぬぬっ!」

 はいはい落ち着こう。

『だが、あやつがっ!』

 普通に戦っても勝てないと思ったから、ああいった戦術に出たんだ。

 ここで挑発に乗ったら相手の思う壺……むしろ挑発し返せ。


「……はっ! そうやって天井に張り付いている様はまさに虫けらよな!」

「ッ! 小娘ェえええ゛え゛え゛!」


 うわー、そこそこ整った顔が怒りに歪む様はまさに狂乱と言った感じだ。

 しかし困ったな。援軍を呼べば済む話だが、ノエルだけとなると決め手に欠ける。

 何か良い攻撃手段はないものか。

『……! そういえばあれがあったな』

 ん? なにかあったっけ?

『ふふん。まぁ見ているがいい』


 ノエルは壁に手は触れると――


「【氷蔦(フリーズ・イビル)】!」

「なぁああああアアアアアッ!?」


 ノエルの掌から出現した氷の蔦が壁を這い進み、天井に張り付くグレディアを襲う。

 これは……複合術式か?

 そういえばフラニーにも特訓を頼んでいたっけ。確かにこれはちょっとしたサプライズだ。


 慌てて天井から飛び降りるグレディアだが一歩遅い。

 足が数本氷漬けになり床に落ちた瞬間砕け散る。

 その隙をノエルは逃さない。一気に間合いを詰め、貫き手が走る。


 ――刹那、グレディアが凄絶な笑みを浮かべた。


 上半身の人間部分――その手の先から放たれる糸がノエルの身体に絡みつく。

 さらに口からは毒液と思われるどす黒い液が吐き出される。

 ――おそらくこの時点でグレディアは勝利を確信しただろう。


「なっ、なんで!?」


 ――だがノエルは止まらない。

 絡みつく糸を凍らせ砕き、毒液を受けようが『自己再生』を発動させながら突き進む。

 「絶対に止まらないこと」――かつてクロが傷ついた時に学んだ教訓。

 それにノエルは忠実に従った。


「がっ!? あ、ああ…… あ、あ、あああアアアアアアアアアっ!?」


 踏み込む足は地面を砕き、空気を斬り裂いたノエルの貫き手がグレディアのダンジョンコアを貫いた。






 名前:グレディア

 種族:女郎蜘蛛(アラクネ)

 性別:女

 称号:ランクEダンジョン主 癇癪持ち 威を借る者

 魔力:3840P

 技能:操糸LV2 毒生成LV2 鋭爪LV2 身体強化LV2 察知LV1 威圧LV1 指揮LV1



 ――撃破。

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