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3 準備の時間

前話前半の続きです。

 ――何故悩む必要があるのか。 

 一言で言うなら一般的だからである――そう一般的(・ ・ ・)過ぎるのだ。

 天の声に尋ねてこの回答が返ってきたことから、おそらく他の多くのダンジョンがこの方式を取っているのであろう。

 しかし、それは人間側によって攻略法が確立されている可能性が高いとも言える。

 故にこそ決断できない。しかし、このまま悩み続けるわけにもいかない。


 そんなジレンマに陥っている最中、偶然それ(・ ・)に気づいた。

 表示された魔物リスト、その創造消費魔素において、アンデット系のみ、他と比べて少ないのだ。

 例のごとく天の声に問い質す。


《ダンジョンの適性に応じます》


 ……つまりあれか、ダンジョンにも個性があり、得意不得意があると。

 そして自分の適性はアンデットだと。

 ……何故?


 自分に対して改めて疑問を抱くが、ともあれこれは良い情報だ。魔素の消費を節約できる。

 ……どうにもチュートリアルが不親切過ぎたのは、自分で試行錯誤することが前提とされているからな気がする。

 この初期段階から(ふるい)にかけられているというか……ダンジョンなのに。

 ひょっとしたら何かまだ隠し要素があるのではないか?

 ――そんな疑問を抱きながらアンデット系魔物『スケルトン』を創造するか迷っていると――


《条件が満たされました》


 唐突に響く天の声。

 ――? 特に何かした覚えはないが、目の前の魔物リスト、アンデット系には燦然と輝く『NEW』の文字が。

 とりあえず開いてみる。


 『レイス』:レベル30相当。


 …………強キャラ、キタアアアアアアーッ!

 

 ……思わずテンションが上がるが、すぐに落ち着きを取り戻し、この唐突な新規項目出現の理由を探る。すると……


『消費魔素1000P・初回創造限定特典。

 解放条件:ダンジョン(自 分)の適性に気がつく』


 ……なるほど、最初の創造時のみ全ての魔素を注ぎ込むことで創造可能なのか。

 しかしこの「解放条件」からすると、やはり他にも隠し要素はありそうである。

 これに関しては後で要検証といったところか。


 ともあれ今はこの『レイス』を創造するか否かである。

 『スケルトン』の消費魔素が100Pであり、レベル5相当であることを考えると、レベル30相当の『レイス』はかなり強い。

 創造すればそうそう負けないだろう。

 しかし魔素を全て使い切ってしまうのは痛い。


 再びのジレンマに陥っていると、ふと疑問に思う。

 ――そもそも冒険者はダンジョンの状態を把握しているのだろうか?

 そこのところどうなのだ、天の声?


《回答不能》


 デスヨネーーーー。

 流石の天の声と言えど冒険者の動向など分かる筈がない。

 今のは質問の仕方が悪かった。ならば質問を変える。

 人間側にダンジョンの状態を知る方法があるかないか?


《あります》


 ビンゴ!

 上手く質問できたことに気をよくしつつ、さらに必要な情報を訊きだしてしていく。

 

 ――聞き出せた情報を整理すると、人間側にはダンジョンの保有魔素を測定する技術があるらしい。

 ダンジョンの保有魔素は、残存魔素・ダンジョン主の保有魔素・ダンジョン主配下の保有魔素・増築に使われた魔素・罠の設置に使われた魔素、これらの総合値からなるそうだ。

 人間側はこの数値からダンジョンをランク分けしており、自分はランクF、つまり最下位なのだと。


 ――これは良い情報ではなかろうか?

 自分のような新米(ぺーぺー)のダンジョンに、いきなり凄腕の冒険者が訪れる可能性は低いだろう。

 ならば一体といえど、強力な魔物がいれば防衛は可能に思えてくる。


 そこまで考え、さらなる疑問が頭を過ぎる。

 魔素の保有量と言うのはおそらく実力と密接な関わりがあると思うが、魔物創造に消費される魔素と創造された魔物の魔素はイコールなのだろうか?


《通常、魔物創造にかかる消費魔素は、保有魔素の倍です》


 ……つまりゴブリンを創造すれば200P消費され、ゴブリン自身の保有魔素は100Pということか。

 つくづく適性に気づいてよかったと思う。でなければ魔素を無駄に消費していた。

 しかし、そうなってくるとおそらく、アドバイスに従った一般的なダンジョンの初期保有魔素は400~600Pといったところだろうか?

 『レイス』を創造すると1000P。少しリスクがある気がする。

 


 ――暫く悩んだが、結局『レイス』を創造することにした。

 どのみちいきなり凄腕冒険者がくれば、何をやっても終わりなのだ。

 ならば自分で考え、選択した結果を受け止めるのみである。

 ……けして初回限定という言葉に踊らされたわけではない。




 それでは早速『レイス』を創造する。

 魔物リスト『レイス』の項目を開きつつ、魔素を注ぎ込む。

 蓄えられていたエネルギーが失われていく感覚。そして……


《名前を入力してください》


 ……名前とかいるのかー、どうにも力が抜けつつ考える。

 どうせ名付けするなら、名は体を表すと言うし、何か意味を込めたいところである。

 しばらく思案し――『セバス』。 そんな名前が思い浮かぶ。

 やはり記念すべき最初の魔物だし、忠誠心が欲しいのだ。


《……入力されました。しばらくお待ちください》


 ――さて、初めての魔物創造である。

 不安と期待を感じつつ玉座の間を眺めていると、霧のような闇が一塊になり、一つの存在が形作られていく。


《……完了しました。……ダンジョンが開通されます》


 現れたのは薄汚れたローブに包まれた矮躯。

 ローブから伸びる手足はひび割れほとんど枯れ木のようだ。

 フードの奥の顔は闇に覆われ覗けない。

 見るからに不気味な雰囲気を持った存在が玉座の間に佇んでいた。


 とりあえず意を決して話しかけてみる。

 ――もしもーし? 聞こえますかー!?

 ……反応なし。

 あれー? おかしいな? 創造魔物は服従するって話なんだが……。


 ならばと、今度は具体的に命令してみる。

 ――ダンジョン主を守れ! 侵入者を撃滅せよ!

 気分は司令官だ。

 すると……


「……フォ」


 今度は反応があった。

 しかし……「フォ」……?


「フォーッ! フォーッ! フォーッ! なるほど、あなた様が我が(あるじ)ですな! 必ずやこの(じい)めが侵入者を殲滅し、お守り申し上げますぞ!」


 『レイス』は卵に一礼すると、テンション高く玉座の間から出ていった。

 

 ……………………なんだろう? このコレジャナイ感は。

 『レイス』ってあんなキャラなのか? というか爺なのか?

 自分がつけた名前のせいとは思いたくないが……。

 自分が選択した結果を受け止めるとは言ったが、限度というものはあるのではなかろうか?


 ……まぁいい、とりあえず初めての創造は成功である。

 今の様子から見ると、どうやら魔物との明確な意志疎通は不可能。ただしこちらの漠然とした意思のようなものは伝わるらしい。

 ダンジョン開通も確認できた。防衛はセバスに任せ、こちらは出来ることの確認である。




 ……それからは酷かった。正に「セバス無双」である。

 幸いにもこちらの予想通り、冒険者の質は低かったようだが、数の論理とかガン無視してセバスが蹂躙していく様は正直ドン引きである。

 念のため、ダンジョン主の卵は寝室に移動させておいたのだが、その必要もなかったかもしれない。

 とは言え、おかげで安心して確認作業に勤しむことができた。


 新規確認事項は四つ。

 まず自分の精神状態。

 ダンジョンとは言え、倫理とか道徳と言った概念は「知識」の中にあったので、もう少し戸惑うかと思ったが、意外なほどあっさりと冒険者達の死を受け入れていた。

 精神は肉体に引き摺られるというが、今まで全くパニックにならなかったのもそのせいなのだろうか?


 次に要検証事項として、罠の設置にも適性と特典があった。

 どうも自分は特殊部屋とやらに適性があるようだ。

 ただしセバスの創造で魔素を使い切ってしまったので、しばらくは保留だ。

 

 さらに『道具作製』。

 武器や防具・薬物・食料、さらには宝まで作製できるらしい。

 宝とか何に使うのかと思えば、これで冒険者を誘き寄せるそうだ。

 また冒険者の中には宝を手に入れれば、ダンジョン主の処までは来ず、満足して引き返す連中もいるのだとか。


 最後に、最も重要な事として『移転』。

 魔素を消費してダンジョンを別の場所へ移動させることができる。

 使用された魔素は保有魔素としてはカウントされない。

 ダンジョンの規模が大きくなると消費魔素は増える。

 行き先はランダム。ただし初期段階では、絶悔の孤島や砂漠の真ん中といった人里離れた所へは移動しないらしい。

 ……自分としてはそういった所の方がのんびりできるのだが、そうは問屋が卸さないということか。


 何にしてもこの機能は有難い。

 現在はセバスが無双してくれているが、このまま冒険者が全滅を繰り返せば、いずれ実力の高い冒険者がやって来るだろう。

 その前に『移転』である。消費魔素はダンジョンの規模に応じて変わるらしいが、現在のダンジョン(自 分)なら500P。

 安くはないが、冒険者から回収した魔素で十分補える。



 そんなわけで、セバスに4パーティーほど潰してもらった後、さっさと『移転』したのであった。



 ◇ ◇ ◇



 ――ダンジョン開通した場所から『移転』で移動して後、しばらくの間は同じ行動を繰り返した。

 やって来る低ランク冒険者をセバスに蹂躙してもらい、魔素を溜め、厄介な実力者がやってくる前に『移転』。

 『移転』で消費する魔素以外の、余った魔素をダンジョン主に注いでいく。


 それでも徐々に魔素は溜まっていくので、ぼちぼちダンジョン改築にも手を出していく。

 なにしろ、いくら『移転』で魔素を消費しても、ダンジョン主に注いでる以上、保有魔素は上がっていくのだ。

 保有魔素が上がりダンジョンとしてのランクが上がれば、上位の冒険者もやってくるだろう。

 そうなればセバス一人での対応は不可能だ。



 と言うわけでダンジョン整備である。

 

 まずは魔物創造。これには新規発見事項がある。

 それは自分の適性により単価の安い『スケルトン』を創造しようかと考えていた時のことである。

 セバスに貪られ、骨と皮だけになり、倉庫に放り捨てていた冒険者達を、創造魔物の材料として使えないかと思いついたのだ。

 天の声の回答は《可能》。魔物創造の際、材料を提供することで消費魔素を半分に抑えられることが判明した。

 つまり通常、本来200P消費のスケルトンをダンジョン適性と材料提供のコンボで、50Pで創造できるわけだ。

 これは美味しい。

  

 結果、6名のスケルトン部隊が誕生した。

 正直、名付けは面倒だったのでS-1、S-2……と簡易なもので済ませた。

 基本的に使い捨ての戦力なので拘る必要もないだろう。

 ただし一体のみ初めから名前の付いていた個体がおり、そいつだけはセバスと同じく知性を持っているようだった。

 なにしろそのスケルトン、創造して早々いきなりダンジョンから逃げ出そうとしたのである。

 即座に「逃げるな」と命令を下し、スケルトン部隊のリーダーとしてセバスの部下に配属した。

 せっかく知性があるので、将来のことを考え時間があればリーダーを扱くようセバスに命じておく。

 野生の魔物に関しては今しばらくは手を出すべきではないだろう。

 ……何しろ我がダンジョン主は未だ卵で、身を守るどころではないのだから。


 次にダンジョン増築である。

 単純に侵入者を排除するだけならば、いくつか方法がある。

 例えば、入り口からの侵入路を狭めにし、こちらの手勢を広めの広間に配置する。

 そうすれば、少数の相手を一方的に狩れるだろう。

 しかし、そうなると向こうも警戒し、侵入を躊躇うだろう。

 そうなれば魔素の獲得が不可能になる。

 最悪なのは外部から火攻めをされたり、ダンジョン(自 分)自体を破壊されることだ。

 そんな展開を避けるためにも、ダンジョンはある程度攻略しやすいように見え、内部に美味しい()がなければならない。


 そこで入り口からいくつか分岐を造り、更に玉座の間に到達するまで、いくつかの部屋も造り、それぞれを繋いだ。

 一本道なら確実に戦力を削れるが、もしもの時のために、こちらの手勢の退避ルートは用意しておきたい。

 使い捨てのスケルトンはよいが、セバスがやられるのは不味いのだ。


 ……ちなみにそのセバスだが、一日三回、ダンジョン主の卵に祈りを捧げていた。

 どんだけ崇めてるんだと言いたい。

 卵に悪影響がありそうなので、止めてほしいなーと思っていたら、次の日から玉座の間の前で祈りを捧げ始めた。

 どうもこちらの意思が伝わったぽいが、それでも祈り自体は止めないあたり筋金入りである。


 ……そしてダンジョン自体の方だが、洞窟のような初期状態から石材を用いた文化的改築を行った。

 ……結構高くついたが切実な理由がある。

 何度かセバスで試したのだが、やはり魔物との意志疎通は不可能なようだ。

 となればダンジョン主に期待するしかないのだが、ダンジョン主はダンジョンの状態に影響を受ける。

 あまり野性味溢れるダンジョンだと、知性すらないダンジョン主が誕生する可能性があり、それは避けたい。

 明確な条件は不明だが、可能な範囲で可能性を上げる努力はしておくべきだろう

 やはりちゃんと会話できる相手が欲しいのだ。

 ……ちなみにダンジョン主の成長に関しては、やはり《回答不可》であった。

 

 道具作製に関しては、まだ行わなかった。

 スケルトン部隊の武器や防具は、生前使っていた物を使わせればいいし、宝に関しては論外である。


 罠の設置に関しても、今回は見送りである。

 できれば初回特典を使いたいのだが、セバスと同じくやはり高いのである。

 もう少し魔素が溜まったら実行しようと思う。



 そんなことをしている間にも、冒険者は何度かやって来た。

 こちらの基本戦略としては、スケルトン部隊を差し向け威力偵察。

 部屋へと誘い出し、油断したところをセバスによる強襲蹂躙。

 このパターンで大抵撃滅できた。

 やはり低ランクダンジョンであることと、囮のスケルトン部隊が効果を発揮しているようだ。

 スケルトンも何体か削られるが、どうせ補充要員は向こうからやってくるのだから気にする必要もなし。

 一度だけダンジョンの外に誘い出されたスケルトンが殺られたことがあり、それからはダンジョンの外まで敵を追いかける必要はないと命令している。

 ちなみにリーダーはしぶとく生き残っている。

 知性の大切さを改めて実感する日々である。

 



 ――そんな感じで日々を過ごしていた自分だが、ついに待ち望んでいた日が訪れることとなる。 






ダンジョン測定値

   名称:

  ランク:F下位

 保有魔素:2180P(残30P)

次話からキャラを増やしていきます。

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