31 大浴場
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ダンジョンの最奥近くに創られたその場所は実に広々とした空間だった。
ダンジョン内の他の施設に比べても大きめのその空間には、もうもうとした湯気が立ち込め、暖かな湯船に溢れる浴槽が存在している。
そんな場所で現在――ダンジョン内の女性陣がゆったりと寛いでいた。
「ぬあっ!? 目がっ! 目がっ!?」
シャンプーが目に入ったのか、どこぞの大佐のようなセリフを口にするのはノエル。
成長したとはいえ未だ大人とは言えない身体は起伏にこそ欠けるものの、白磁を彷彿とさせる透き通る様な白い肌は薄い桜色に染まり、人形のような美しさに人間味を加えている。
その華奢な手足はすらりと伸び、見る者に将来を期待させるだろう。
「お嬢様、ゆっくりと目をお洗い下さい」
先程までノエルの髪を丁寧に洗っていたリディアの身体は決して肉付きは良いとは言えない。
しかし濡れた銀髪はいつも以上の艶やかさで、入浴の効果か常日頃身にまとっている堅い雰囲気も薄らいでいる。
普段はメイド服に包まれている引き締まったその姿態は、純粋に美しいと感じられた。
「あ~、気持ちいぃですね~」
ネリスは湯船に肩まで浸かり、手足を伸ばし今にも眠りに落ちそうな声を上げている。
女性としてのスタイルの良さでは、彼女以上の女性はこの場にはいない。
その豊満で柔らかな胸は島のように水面から盛り上がり、それでいて腰はしっかりくびれ、グラマラスな魅力が溢れている。
「樹妖精ってお湯に浸かっても大丈夫なのかな?」
「こう見えて魔物ですから特に問題はないですよ」
そんなことをフラニーに尋ねるアカネの胸は、そこそこの大きさで程良く張りがある。
彼女の肉体は年齢的に少女から大人の女性への途上と言え、全体的に女性らしい丸みを帯び始め、足はすらりとしなやかで健康的な色香を醸し出している。
アカネの質問に苦笑とともに応えるフラニーのスタイルは、本人の性格と同じく控えめだが、その雰囲気は本人の容姿も合わさって、思わず守らずにいられない庇護欲を掻き立てる可憐な花を彷彿とさせる。
「喰らうのですよー!」
「やなこったー」
「甘いね~」
「……反撃」
「ぐるぐる~」
浴槽の水面を飛び回りながらお湯の掛け合いっこをするのは、ミューをはじめとした小妖精たち……一人はのぼせてしまっているようだが。
彼女たちはその大きさ故に、艶めかしさや美しさよりも愛らしさが際立つ。
しかしどれほど愛らしくともやはり魔物だからか、彼女たちの昆虫のような翅はお湯に濡れても全く問題ない様だ。
――とりあえず新たに創造された施設を、女性陣は各々満喫しているようである。
――というわけで大浴場を創ってみることとなった。
と言うか、ダンジョンにノエル達が戻って来てから実に三時間に渡る押し問答の末に創らされてしまった。
……魔素を蓄えておこうと決めた矢先にこれである……笑いたければ笑え!
おっかしいなー? 完璧にしらばっくれたつもりだったんだが。
……まぁ、シャンプーや石鹸はアカネの『想像具現』で何とかなったので、魔素を節約できた。これをプラスとして受け止めるべきか。
ちなみに長々と女性陣の入浴風景を描写してみたのだが、実のところそれに対して自分が感じるところは特にない。
美的感覚はあるので、美人だなーとは思うが、それがどうにも性欲の類には結びつかないのだ。
まぁ、自分がダンジョンであることを考えれば当然と言えなくもない。
「知識」が原因と思われる食欲に近いものはあるが、それに関しても原始的本能というよりかは、精神的充足を求めてのものである。
……そもそも自分が男性かどうかもよくわからんしなー。
しかし自分がそうだからといって、他の者までそうであるとは限らない。
世の中、何事にも例外というものは付き物である。
具体的に言えば……大浴場にそろそろと近づいている骨とか。
その骨は無駄に『察知』を駆使して周囲を警戒し、見事な『潜伏』で己の気配を殺している。
ここが人間社会であるならば立派な暗殺者になれたであろう。
その正体は言うまでもない――『ボーンナイト』のリーダーである。
なんと言ったらいいか……ある意味で感心する。
普段から何度もリディアやネリスに痛い目に遭わされて、なお懲りない不屈っぷりもだが、よくもまぁ未だに人間的な欲求が残っているものだ。
アンデットなのだから自分と同じで性欲の類とは無縁の筈なんだが……生前の性別がはっきりとしているからだろうか?
とは言え感心してばかりもしていられない。
この骨を放置していたら後が怖い。
主にリディアとかリディアとかリディアとかがな。
というわけで――死の罠発動!
『鉄の処女』!
――突如リーダーの側に不気味な鉄の棺が出現する!
――リーダーは全速力で逃げ出した……しかし逃げられない!
――不気味な棺がその内なる闇を解き放つ……リーダーは棺に閉じ込められてしまった!
――リーダーの断末魔の悲鳴がダンジョンに響き渡る……。
……死なないけどね!
普通の人間ならばともかく今回の相手は骨だ。
肉も臓器も脳すらない。多少骨格は傷つくだろうが『自己再生』もあるし問題はないだろう。
棺の中の様子は何となく分かるので、お仕置きが済んだら出してやろうと思う。
しかし試しに創ってみたものの、この罠はいまいち使い勝手が悪いな。
捕縛の対象となるのは一人だし、吸引力·耐久性も今一つだ。
今回あっさりとリーダーが捕まったのは配下の魔物だったからに過ぎない。
侵入者相手に使うならばもう一工夫要りそうである。
基本的にはお仕置きや拷問用といったところか。
大浴場の創造は予定外の出費ではあったが、ダンジョン内の人員の慰労のための施設として割り切っておこう。
街で得た情報から冒険者が襲撃して来ることはないとわかっているし、しばらくは魔素をじっくりと蓄えることが出来る……筈だ。
問題なのは……今までの経験上、こういった思考自体が何らかのフラグになっている気がすることなんだよなぁ。
いい加減トラブルは勘弁してほしいんだが……。




