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29 声をかける相手は選ばなければならない

閲覧ありがとうございます。

 ――あの後しばらくしてからリンクが復活した。

 リンクが切れてた間の事は質問しても、『余は知らぬ!』と返されてしまった。

 ……むぅ、自分の悪口でも言っていたのだろうか?

 とりあえず道中では他にトラブルらしいトラブルもなく、無事に街へと辿り着いたのだった。


「結構賑わってるみたいだね」

「人がたくさんですよー」

「……お嬢様、周囲にお気を付けください」

「…………」


 雪国であっても人の営みに変わりはない。

 むしろ活力に溢れているようにも見える。

 ノエルは初めて見る人間の街の様子に目を丸くしているようだ。


「それでこれからどうするのですかー?」

「んー、とりあえずミューちゃんは服の中に隠れててね。あちこち見て回りながら街の中心部に向かうってことでいいかな?」

「う、うむ。それでよいぞ」


 そんなわけで街を見て回ることになった。

 アカネとリディアはさすがに街にも慣れているようだが、ノエルはあちこちキョロキョロと見回し目を輝かせている。

 美味しそうなものを見かければ買い食いだ。

 幸いにも、侵入して来た冒険者たちが遺していってくれた金銭がある。


「おお! これはなかなか美味いな!」

「(ミューにも飲ませるのですよー!)」


 温かいスープの類をノエルが味わっていると、ミューが我慢しきれなくなったのか顔を出す。

 まぁ、気持ちはわかる。味覚を同調させ自分も味わっているが実に上手い。

 ……でもこういうのは寒い中だからこそ、一際美味いんだよなー。

 う~ん、触覚をもう一度同調させてみるべきか? いや、でもなー。


 ――そんな感じで、割とうまくノエル達は街中に溶け込んでいるように感じたのだが、自分は気が付かなかったのだ。

 街行く人々の中で、妙に男性の視線がノエル達に向いていることを。






「へっへっへっ、お嬢ちゃん達。お散歩かい?」

「三人とも可愛いね~」

「よかったらお兄さんたちがいい処に案内してあげるよ?」


 ――――チンピラ三人衆が現れた! 


 おおう、絵に描いたようなテンプレ的悪役だな。

 よくよく考えてみれば、ノエルたちはタイプは違えど美少女で、そんな娘たちがフラフラとうろついていれば、こんな連中が寄って来るのも当然か。

 まぁ、この手の連中は無視するにかぎる――


「おお! いい処とな!?」


 ちょっと待て、この世間知らず娘。

『むっ、今度は何だというのだ』

 あっさり騙されているんじゃない。この連中はどちらかと言えば悪人の類だぞ。

『なんと!?』

 とりあえず無視する方向で行くんだ。

 しつこく絡んでくるようなら多少手荒に扱ってもいいが、殺しはなしだぞ。


「おいおい、嬢ちゃん。なに無視して――ゴブッ!?」


 チンピラの一人がノエルの肩に手を置こうとした時――既にノエルは動いていた。

 ……ノエルの拳は男の腹に減り込み、男の身体はクの字に曲がっている。

 

「うむ! しつこい相手には確かこうするのであったな! リディアがセバスによくしておるから覚えておるぞ!」


 ……教育が行き届いているようでなによりです。


「こ、この小娘(ガキ)!?」

「なめてんじゃねえぞ!!」


 あーあー。残りの二人が刃物を取り出しましたよ。

 でもお兄さん方、ここで引いとくのが無難ですよ?


「ヘブッ!?」

「アッ……カッ……!?」


 ……遅かったか。

 一人は虚空から降って来た狸の置物――信楽焼だったか?――に押しつぶされ、もう一人は喉を抑えて顔を真っ青にしている。

 これは酸欠状態だろうか?

 言うまでもなく下手人はアカネとリディアだ。


「ナンパはお断りなんだよねー」

「……身の程をわきまえなさい」


 普通はこういうテンプレ展開では、テンプレ的勇者やヤレヤレ系の最強君が登場したりするんだけどなー。

 そんな連中は一切必要としないうちの女性陣の頼もしさよ。


「さっさと先に進みましょう」

「こやつ等は放っておいてもよいのか?」

「大丈夫でしょ。しぶとそうだし」

「(……容赦ないのですよー)」


 ボソリと呟くミューに同感である。

 かくてノエルを先頭に再び歩き出す一行。

 微妙に前方の道が空けられていたりする。

 流石に今の光景を見て声をかける勇者はいないかー。






 街の中心部には基本的に行政や流通など、街の運営に必要な機関の首脳部が集まっている。

 これはまぁ、街の何処で何があっても、距離が均等であれば迅速に対処できるので当然と言えるだろう。

 しかし問題なのは――何故だか冒険者ギルドが見当たらないことだ。


 アカネの提案で冒険者ギルドで情報収集を行うことにしたのだが、探せど捜せど冒険者ギルドは見つからない。

 アカネの話では、この規模の街であればギルドはあって当然らしい。

 この話が本当なら、流石にこの状況は奇妙だ。


「(あの建物は違うのですかー?)」

「あー、あれかー……」


 ミューが指さす先にはそれなりに大きく年季の入った建物。

 出入りも自由なようで自分にも()()()()()見えるのだが、アカネは顔を顰めている。


「あの建物ではないのか?」

「……いや、建物はそれっぽいんだけどねー」


 どうにもアカネの歯切れが悪い。

 するとリディアがその理由を述べる。


「……冒険者ギルドの紋章がありませんね」

「「紋章?」」

「教会とか商業ギルドとか、ある程度規模の大きい組織は共通の紋章を持ってるんだよ。当然冒険者ギルドにもあるんだけど――」

「……あの紋章は違うのか?」


 ノエルが指し示すのは、握手のように手を握り合う紋章で、件の建物に看板のように飾られている。


「あれは冒険者ギルドの紋章じゃないねー。……っていうか初めて見る紋章だよ」

「私も見たことはありません」


 アカネだけでなくリディアも初見となると……この街独自の施設なのだろうか?


「……う~む、まぁ、入ってみればわかるのではないか?」


 ……相変わらず思い切りのいい娘だなー。

 見る限り危険な施設というわけでもないから問題はないが。


「……ん~、そだね。とりあえず行ってみようか?」

「(行くのですよー!)」

「あなたは服の中に隠れていなさい」

「うむ! では参るぞ!」


 それでは謎の施設へ突入である。

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