28 口には出せないこともある
閲覧ありがとうございます。
そんなわけでお出かけである。
メンバーはノエル、リディア、アカネ、そして何処からか話を聞き付けて来たミューだ。
まあ、ミューを除けば人間のふりは可能だし、ミューも懐にでも隠れておけばいいだろう。
出かける話を聞いたリディアは少し渋い顔をしていたが、結局はノエルの「お願い」に抗することはできなかった。
……しかし意外な抵抗もあったりするのである。
「なりませんぞ、お嬢様! 人間の街など危険ですぞぉおおお!」
コレである。彼がノエルに反対意見を述べるなど珍しいこともあるものだ。
「……むぅ、だがリディアやアカネもいるのだぞ?」
「街には飢えた獣がおるのです! そのような不埒な連中の巣窟など、近づくこと自体反対ですぞ! どうしてもとおっしゃるなら、この爺めもお連れください!」
……いや無理だろ、それは。
ノエル達はともかくセバスは魔物然とし過ぎている。
「……さすがにセバスさんは無理じゃないかなー?」
「怪し過ぎなのですよー」
「……そもそも必要ありません」
温度差はあれど反対意見多数だ。
だがこの程度で挫けるセバスではない。
「大丈夫ですぞ! 人間に見つからぬよう気配を殺し、物陰に隠れております故!」
……そっと物陰に隠れ少女達を見守るハイレイス。
ストーカーより性質悪くないか?
どうしたものかな。無理やり命令するのも可能だが、モチベーションとか考えるとそれは避けたいし……。
お、そうだ! ノエルさんノエルさん。
『むっ、なんだ?』
ちょっと良い案があるんだが……ゴニョゴニョゴニョっと。
『……そう言えばセバスも納得してくれるのか?』
たぶんね。
「ですので是非ともこのセバスめを――」
「セバスよ――貴様のその忠義、余はとても嬉しく思う」
熱烈アピールしていたセバスだがノエルの言葉には流石に耳を傾ける。
「だがなればこそ余不在の間、無防備になるであろうダンジョンを貴様に守ってほしいのだ」
「お……お嬢様っ」
感極まったかのようにふるふると震えるセバス。
さて、これで納得しなければ強制命令しかないのだが――
「承知いたしましたぞぉおおおおお! お嬢様のお留守の間、必ずやダンジョンを守り通して見せますぞ!」
「うむっ! 頼んだぞ!」
……テンション高いなー。
やっぱりノエルからの直接命令が嬉しかったのだろうか?
「リディア殿! アカネ殿! ミュー殿! くれぐれもお嬢様の事は頼みましたぞ!!」
「……あなたに言われるまでもありません」
「あはは、了解です」
「任せるのですよー」
これにて第一関門突破である。
◇ ◇ ◇
――ダンジョンの入り口を抜けるとそこは一面の雪国だった。
『寒っ!?』
一同、思わぬ寒さに声をそろえる。
「寒い」か。知識では知っているが実感がない感覚だな。
どれ、『五感同調』で触覚をリンクしてみて――
…………寒っぅうううううう!?
なんだこれは!? 付き合ってられるか! リンク解除、切断、無効だ!
『ああ!? ずるいぞ、そなただけ!』
いいんだ! ダンジョンには寒さなど必要ない!
……しかしまいったな。これでは外に出るなど無理だ。
仕方がないから『道具創造』で防寒具でも創って――
「いやー、いきなり雪とは思わなかったね。はい、皆もどーぞー」
そう言ってアカネが何所からか出した防寒具を皆に渡してくる。
……なるほど、『想像具現』か。
思っていた以上に使い勝手の良い固有技能のようだ。
アカネを迎え入れたノエルの判断は正しかったのかもしれない。
「ほら、ノエルちゃんも――」
「い、いらぬ。余にはそのような物、不要だ!」
……っておい。褒めた矢先に何言っている。
「……お嬢様、ご無理はなさらない方が……」
「ですよー」
「む、無理などしておらぬ!」
……何を意地張っているんだか。世話の焼ける。
無理をせず受け取っておきなよ。
『無理などしておらぬと言っておる!』
でもなー、これから向かうのは人間の街だぞ?
『む?』
この寒さの中、人間が防寒具も着てなかったらさすがに不自然だろう?
『ぬ、それは……』
それに配下の働きを受け入れるのもダンジョン主の務めだぞ?
『……ぬぅ』
「……し、仕方がないな! 余は寒さなど平気だが、人間のふりをするのだから受け取っておこう!」
……やれやれ、これでやっと出発だ。
目的地である街の場所は事前にリディアが調べていた。
流石はリディアさん、万能メイドである。
……まあ、防寒具の用意を忘れていたりといった手落ちはあるが。
道中は割と平穏に進んでいる。
特に野生の魔物が出ることもなく、『身体強化』のおかげで雪道もなんのそのだ。
――そんな道中で、唐突にアカネがノエルに質問した。
「……ねぇ、ノエルちゃん。確かダンジョンって意思を持ってるんだよね?」
「うむ。確かにダンジョンは意思を持っておるぞ」
「私は今までダンジョンと話したりしたことないんだけど……ノエルちゃんは話せるの?」
「うむ! ダンジョン主である余はダンジョンと会話が可能だ!」
「ほっほーう。……ダンジョンってどんな感じなのかな?」
「ぬ……?」
おっと何やら自分のことが話題となっているようだ。
確かにこれは自分も気になっていた。
ノエルは果たして自分についてどのように答えるのか――と?
…………あれ、おかしいな? 見慣れたダンジョン内部しか見えないぞ?
……ああ!? 『五感同調』のリンクが切られてる!?
◆ ◆ ◆
「うむ、ダンジョンの奴はな……いろいろ口煩い奴だぞ? いつも余の言うことに反対するし、夜更かしするなとうるさいし……」
口では延々とダンジョンを悪く言うノエルだが、その言葉の端から漏れる親愛の情は隠しきれていない。
むしろ遠慮がない関係だからこそ悪く言えるのだろう。
――そんなノエルを眺めながらアカネは人知れず安堵していた。
はかば直観に従いノエルの配下になってみたが、既にアカネはダンジョン内の人員についてある程度把握していた。
ノエルに関しては何の問題もない。
良くも悪くも裏表のない娘だ。
リディアは万が一戦うことになれば命はないだろうが、基本的にノエルの意思を優先しているようである。
他の人員については問題なく対処できるだろう。
……しかし唯一対処を検討できないのがダンジョンだった。
そもそもダンジョンに意思があること自体、与えられた魔法道具から意思が伝わって来たことで初めて知り、しかもその意思は漠然としていて為人が掴めなかったのだ。
遊戯室にあった漫画やゲームから、現代日本について何か知っているのだろうが確かめる術がない。
表面上は平静さを保っていたが、内心では不安な部分もあったのだ。
だが、ノエルの語る様子を見るかぎり決して悪意のある存在ではないのだろう。
ノエルは大切にしているようなので、ノエルに危害を加えるような真似をすれば話は別だろうが、アカネにはもちろんそんな気はない。
むしろノエルやダンジョンに利するように行動すれば、保護を期待できる。
……安心・安全な環境というものが、実は贅沢な品だったということをアカネはこの世界に来て学んでいた。
さしあたっては今回のお出かけを成功させる必要があるだろう。
個人的好意・打算的心情、両面の動機からアカネは改めて気合を入れなおすことにした。




