26 異邦人
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自分がノエルと重大な論争を行おうとしていた時に、空気を読まずにやって来た侵入者は女の子だった。
見た目は十代後半、黒髪黒目で……なんか日本人っぽいな、この娘。
まぁ、容姿に関してはどうでもいいのだが……問題なのは彼女が一人で乗り込んで来たことだ。
……いつかのネリス無双の悪夢が呼び起こされる。
一人で乗り込んでくる冒険者って相当の実力者の可能性があるからな。
……よし、まずはリーダー及びスケルトン部隊で様子を見よう。
リーダーにも迂闊に仕掛けないよう細心の注意を払わせることにしよう。
――さて、そろそろ接敵である。
リーダーは後方から様子見。先ずはスケルトン部隊で実力を測る。
さあ、行くがいいスケルトン達よっ!
――――虚空より降り注ぐ輝く剣がスケルトン達を薙ぎ払う!
――――効果は抜群だっ!
――――スケルトン達は全滅してしまった……。
…………ちょっと待てっ! なんだそれは!?
貴様A〇Oか!? アー〇ャーなのか!?
……不味い。詳細は分からないがこの女冒険者、かなりの高火力だ。
正面からやりあったら痛い目を見そうだ。
……よし。リーダーよ、敵を指定地点まで誘い出すのだ。
戦うのが危険なら罠に嵌めるまでの事。
うまい具合に罠ゾーンまで誘い込めたので、土人形を送り出す。
無論こいつらで何とかなるなどとは思っていない。
単に相手の注意を引くのが目的である。
そんなわけで――降りそそげ! 矢の嵐!
――――嵐のごとき矢が女冒険者に降り注ぐ!
――――女冒険者は全方位に盾を出現させた!
――――矢の嵐は全く効果がない様だ……。
……剣だけじゃないのかよ。これは……アレか?
おそらくだが『固有技能』というやつだ。
アイテム収納のようなものなのか……?
駄目だ……能力の底が分からん。
リーダーよ、もう一回誘導だ。
「……ッ!?」
なんか嫌がっているようだが却下だ。
多少危険を侵すことになっても正面対決は避けたいのだ。
さあっ! キリキリ働け!
「……おっ! ととっ……」
やって来ました落とし穴ゾーン。
流石の侵入者も連続する落とし穴に戸惑っているようだ――んん?
――――なんということでしょう。
――――ボコボコと穴だらけだった床一面に、あっという間に立派な床が
敷き詰められてしまいました。
――――これでは落とし穴も役に立ちません。
…………なんでもありか、この女。
不味い。罠は他にも幾つかあるが、どれも対応されてしまう気がする。
かといって魔物を放っても被害がかなり出るだろう。
リディアなら……なんとかなる……か?
『……うむっ! なにやら面白い輩が来たようだな!』
そういえば視覚同調もやってみたんだったな……。
しかし何でそんなに嬉しそうなのかな?
『ここはひとつ、余自ら出迎えてやらねばなるまい!』
はい、アウトー。
何言いだしてくれてんですかね。
『まぁ、待つがよい。奴を相手に半端な戦力を出しても返り討ちに遭うだけであろう。ならば最大戦力をぶつけるべきではないか?』
……むぅ、微妙に一理あることを。
でも戦力を集中させるなら名持ちの連中を集めれば済む話だしなー。
『否っ! 配下に戦わせて、余だけが安全な場所にいるなどありえん!』
…………昔に比べて物わかりは良くなったけどこの辺は変わらんなー。
どうしたもんか。
『……駄目か? リディアは傍に置くし、危険な真似はせんと約束する』
……仕方なし……か。
未知の侵入者の前に出ること自体が危険行為だが、ノエルのこういった部分は失ってほしくないからな。
『おおっ! 礼を言うぞっ!』
――さて、他の連中にも連絡入れて万全の態勢で迎え撃つとしようか。
◆ ◆ ◆
う~ん、どうしたものだろう?
久方ぶりの冒険者家業、手頃なランクE下位のダンジョンに来てみたんだけど……どうにも怪しい。
ランクに反して魔物のレベルが低すぎるんだよねー。
こういうダンジョンの場合、凶悪な罠かやたら手強いダンジョン主が待ち受けていたりする。
……ここまでの罠は厭らしかったけどレベルは低め。
ダンジョン主が凶悪な可能性が大だよねー。
引き返してもいいんだけど、その場合儲けがゼロだしなー。
…………よし、とりあえずダンジョン主を見て駄目そうだったら速攻逃げよう。
『想像具現』で壁でも作って全力で逃げれば何とかなるでしょ。
為せば成るって言うしね。
方針を固めて最深部へと乗り込むことにする。
さーて、鬼が出るか蛇が出るか?
警戒と準備は決して解かず、奥へと進む。
かなり豪華な広間で待ち受けていたのは――
「――よくぞ来た! 冒険者よ!!」
待ち受けていたのは――
「余こそ、このダンジョンのダンジョン主……ノエルである!!」
…………天使だった。
金髪紅眼の美少女。年は私の少し下くらい。
お人形みたいに整った顔にドヤ顔を浮かべ、ポーズを決めている。
なに、この娘? 天使? 天使だよね?
お持ち帰りしたい。というかまずは――
「可愛いッ!!」
「ぬわぁっ!?」
全力で抱・き・し・め・る!
うわっ、なにこれ? お肌スベスベ。柔らかいし、なんかいい匂いもする。
やっぱり天使だ。天使は実在したんだ!
「は、放さぬか!?」
だが断る。もっとじっくりと堪能してから――
「……今すぐお嬢様を開放しなさい」
…………何やらいつの間にか首元にナイフが。
銀髪褐色のメイドさんが恐ーい目で睨んでくる。
……うん、これは不味いね。このお姉さん、躊躇なく命を奪えるタイプだ。
「まいりましたー。降参しまーす」
ひじょぉおおおおにっ! 残念だけれど、天使を解放し無条件降伏。
「いのちだいじに」だね。
……よくよく見るとこのメイドのお姉さんも美人さんだね。
くっ! 何て素晴らしいダンジョンなんだ。引き返さなくて正解だったよ。
「……むぅ、降参……するのか?」
「はーい、もちろん降参です」
……何か天使が残念そうにしてる。
「(……せっかく格好良く出迎えられたのに)」
……何か言ってるけどよく聞こえないなー。
いや、それよりもこの状況をなんとかしないとね。
力ずくでの逃亡は最後の手段ということで。
「……ええい、もうよいわ! ならばさっさと帰るがよい!」
……なんですと?
「……お嬢様、侵入者は始末するべきかと」
「見ておったがそれほど被害はなかった。わざわざ殺すまでもあるまい」
「…………」
どうやら天使は心の方も天使だったみたいだね。
……これはもう運命だよね。帝国から逃げ出して早々こんな相手に会えるなんて。
なら……やることはひとつだね。
「……すいません、ちょっといいですかね?」
「むっ、なんだ?」
「実はお願いがあるんですが……私をあなたの部下にしてくれませんか?」
「……なぬ?」
さすがに唐突の提案に戸惑ってるね。
ならばさらに押して押すべしっ!
「というか是非ともノエルちゃんと友達になりたいんですがっ!」
「ノエルちゃん……と、友達とな?」
おおっ! いい反応。
ひょっとしてチョロ可愛いタイプなのかな?
「うむっ、そういうことであれば――ぬっ?」
……どうしたんだろう? 目をつぶって顔を顰めている。
意識を集中しているというよりは他所に注意がいっている感じだ。
とりあえず……黙っておいた方がいいかな。
メイドさんの方が洒落にならなくなってきてるし。
っていうか刃っ! 刃がちょっと食い込んでるから!?
「――ええいっ、もうよい! 余は決めたのだ!」
おっ! 終わったのかな?
なんか携帯で親と喧嘩してた同級生みたいな様子だったけど……。
「貴様を余の配下と認めよう……さあ、名乗るがよい!」
……やった、言質取れた!
よし、ここは流儀に乗っ取って名乗らないとねー。
「……我が名はアカネ! 固有技能:『想像具現』の使い手にして中級冒険者! そしてノエルちゃんに仕える者!」
……決まった。
かくて私はこのろくでもない異世界で、超可愛い天使と美人メイドのいるダンジョンという楽園へと辿り着いたのであった。
――勝ったッ! 第3部完!
ちなみにダンジョンは反対してました。




