S2 トリッパ— 雨宮茜の場合
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――私の名前は雨宮茜。
花も恥じらう女子高生☆……だったんだけどなぁ。
現在の身分は絶賛逃走中の犯罪者だ。罪状は殺人。
……う~ん、なぜにこんなことになったのだろう?
最初のきっかけは突然この世界に来てしまったことだ。
入学式の日、高校に向かう途中で気が付くと見知らぬ場所に一人で突っ立っていた。
……おかげで必死に頑張った受験勉強とか全部意味なくなっちゃったよ。
こっちの世界に来た当初はそれはもう混乱した。
状況が全然掴めなくて何をどうすればいいのも分からない。
……んでもって混乱したまま奴隷コースに乗っちゃったんだよねー。
あの時の悪徳商人マジ許すまじ。
そのままだったらかなり悲惨な未来へ一直線だったんだけど、私の秘められた才能のおかげで事無きを得た。
……ん? 一人で戦って奴隷解放? ……いやいやしませんよ、そんなこと。
どこのハーレム系主人公か。
私のやったことと言えば同じ境遇の奴隷達に武器を与え、「自由」や「権利」だといった耳障りの良い言葉で奴隷達を煽りたてただけ。
それで起こった反乱の混乱に紛れて逃げ出したのだ。
いやー、何処の世界でも勢い任せの言葉に乗せられる人っているもんだね。
武器の調達? 当然の疑問だね。
それこそが私の秘められた才能――固有技能:『想像具現』である。
この技能はその名の通り自分の想像した物を現実に具現化する技能だ。
この技能で武器を量産し奴隷たちに与えたというわけだね。
まったくこういった技能の事も含め、いろいろと教えてくれた奴隷仲間の獣人のお姉さんには感謝だね。
奴隷連中を煽る時にも強力してくれたし。
その獣人お姉さんとはしばらく一緒に行動した。
その後お姉さんが獣人国に向かい、別れてからは冒険者として生計を建てることにした。
ただの女子高生だった私ににそんなこと出来るか不安だったけど、そこは固有技能が役に立ってくれた。
さてこの固有技能:『想像具現』だが、一見すると万能の技能のように思える。
しかし実は結構厳しい制約がある。
1.具現するものに関してある程度理解していなければならない。
2.一度に具現出来る量には限界がある。
3.具現したものは一定時間が経つと消滅する。
4.生物の具現は不可。
……うーん、改めて考えてみると面倒だね。
1の制約のせいで剣とか単純な物ならともかく、重火器とかの具現は無理だ。
具現してみてもガワだけになってしまった。
……まぁ某少年漫画で鎖の具現ってだけで、トンでもない修行してたのに比べればましなんだけど。
他の2、3、4もやっぱり厳しいんだよねー。
これらの制約のせいでやれなかったことが結構ある。
なので結果としてギル様よろしく、具現した武器を大量にブッパする方向に落ち着いた。
それでも魔物相手なら十分過ぎるほど強力なんだけどさ。
とは言えいくら強力でも冒険者なんてヤクザ商売、何時までも続けてらんない。
なので『想像具現』をもっと有効に使えないかといろいろと試行錯誤してみた。
……まぁ、お金を稼ぐだけなら具現した物を売り飛ばせばいいんだけど。
流石にそういうのはねー。
悪人の類であればいくら騙してもいい……むしろ騙すけど一般人相手にはね。
詐欺師として指名手配とかされても面倒だし。
ともあれそんなわけで最終的に行き着いたのが「料理」だった。
というのも、こっちの世界はまだまだ技術や文化面で未成熟で、料理も発展途上だったからだ。
まぁ、しょうがないよね。
そういった方面に振り分けるリソースが足りないんだろうし、香辛料や調味料の類も高級品みたいだし。
なのでだからこそ現代日本の料理を具現化できれば、楽して一発丸儲け……というか私が美味しい物を食べたいっ!
そんな切実な願いのもと頑張って具現してみたのだが……見事に大失敗してしまった。
……アレは駄目だね。断じて料理じゃない。料理に見せかけた毒物テロの類だね。
考えてみたら私ってばまともに料理とか作ったことなかったんだよねー。
この結果も当然である。しかも具現した料理は時間が経つと消えるからお腹にも溜まらない。
まさに踏んだり蹴ったりだった。
…………しかし私は諦めなかった。
この程度で私の食欲を侮ってもらっては困る!
私は何としても美味しい料理が食べたいのだ!
そこで冒険者家業で蓄えが出来ていた私は食堂で下働きを始めることにした。
……うん女将さんはすごく厳しかった。
料理覚えるのって大変なんだなーって実感できたよ。
……まぁ、なんとか料理のノウハウを得た私は屋台みたいなものを始めることにした。
といってもこのままじゃ私の望む料理など作れるはずもない。
そこで活躍したのが『想像具現』だ。
もちろんそのまま料理を具現するわけじゃない。
それだとお腹に溜まらないしねー。
私が具現した物――それは調味料の類だ。
繰り返すがこの世界は色々未成熟で調味料とかも馬鹿みたいに高い。
食堂とかも色々と工夫しているが無い袖は振れないのだ。
……しかし私の『想像具現』があれば話は違ってくる。
調味料くらいであれば問題なく具現できるし、しかも元手は無料だ。
料理のメインとなる部分は、きちんと本物を使うからお腹に溜まるし、具現した物が消えて味も消える頃には既にブツはお腹の中だ。
何の問題もない。ナイスアイディアってやつだね。
――実際この試みはうまくいったんだ。
お店は繁盛してたし、元の世界の料理を再現できないか試行錯誤したり。
うん、少しばかりズルしてる自覚はあったけど自分で頑張って成果を出すのは楽しかった。
楽しかった……んだけどねー。
ここで不幸な事故が起きてしまった。
帝国が固有技能持ちを集めてるらしいってのは知ってたけど、まさか私まで目をつけられるとは。
恐怖のあまり小麦粉を大量に具現して火まで放ってしまったじゃないか。
……まったく、不幸な事故だったねアレは。
そんなわけで帝国に居られなくなって絶賛逃走中なわけだけど……やっぱり私悪くないよね。
何でこんなことになったんだか。
まぁ、愚痴ってても仕方ないから久しぶりに冒険者でもやりますかねー。
第二章終了です。