22 反省
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――客観的に状況だけを見て判断するならば冒険者の男に勝ち目などなかった。
男は先の戦闘で既に傷を負っており、そもそもまだ初級冒険者だ。
対するノエルは子供の様にしか見えず実際に子供だが、それでもダンジョン主。
下級の魔物とは一線を画する能力を有している。
加えて此処はダンジョン内部。
男は援軍などほとんど期待出来ないのに対し、ノエルは現在進行形で援軍が向かってきている。
つまりノエルは待っているだけでも勝利が転がり込んでくる立場だ。
どう考えてもノエルが敗れる可能性はなかった。
だから――最終的に結果に繋がった要因があるならば、男にはありノエルにはなかった物。
それはやはり経験だったのだろう。
「やっ!」
「うおっ!」
幼い外見からは信じられない勢いで繰り出される拳を男は必至で躱していた。
小さいが故に小回りが利き、しかも放たれる一撃一撃が重い。
どうやらダンジョン主と言うのも嘘ではないらしい。
男は攻撃を躱しながらじっと反撃のチャンスを伺い続ける。
……男とて本当は分かっている。
たとえ目の前の小娘を殺せたとしても自分が生き残れる可能性は限りなく低いことぐらい。
それでも抗戦を続けるのは冒険者として意地と、せめて一矢報いたいという想い故だ。
既に死を覚悟したが故にこそ男はかつてないほど冷静に耐え忍ぶことが出来ていた。
一方ノエルはと言えば……内心非常に焦っていた。
相手は決して強いようには見えないし、実際動きも大したことはない。
……にも拘らず仕留めきれない。
当初はあった余裕は失せ、段々と焦燥が沸き上がって来る。
ダンジョンはすでにノエルの状況を把握している。
おそらくすでに配下の魔物達へ指示が出されているだろう。
しばらくすれば増援が来るに違いない。
……だがそれは嫌なのだ。
ノエルはどうしても自分の力を証明したかった。
そのためにも目の前の相手を自分だけの手で倒したかった。
結局のところ、どれほど力を持っていてもノエルはまだ子供だったのだ。
子供故の経験の少なさ――それがノエルを望まない結果へと導くこととなる。
「りゃあっ!!」
いつまで経っても仕留めきれず、焦ったノエルが思わず大振りの攻撃を繰り出した時、それは起こった。
ノエルは作ってしまった大きな隙、男はそれを逃さず剣を全力で振り下ろし――跳び込んで来た黒い影によって阻まれた。
「ギャンッ!?」
「…………くろ?」
ノエルを庇い剣を受けたクロが跳ね飛ばされる。
「くろっ! あ、ぁぁああああ、なんで! なんで!?」
ノエルはクロへと駆け寄り必死で呼びかける。
もはや冒険者のことなど頭にない。
身近な存在が傷つき命を落とす――戦いに対する恐れはなくとも、今この時ノエルは心から恐怖を感じていた。
……そんなノエルの背後へと近づく冒険者。
歪んだ笑みを浮かべながら剣を構え――
「……はへ?」
男の視界に線が走り――そこで男の意識は途切れた。
……一体何時からそこにいたのか。
メイド服に身を包んだその女性は、塵を見るかのごとき視線を頭を断ち切った男へと向け、その背後に佇んでいた。
◆ ◆ ◆
…………危なかったああああああ!
最初に侵入者が入ってきた時点でスケルトンに指示を出し、リディアを呼び戻しておいて本当によかった。
ここまで命の危険を感じたのは初めてである。
……とりあえずあの後は大急ぎで回復薬を創り、リディアに命じてクロにぶっかけることにした。
まぁ、わざわざ命じなくともリディアも真剣にクロの手当てをしていたが。
そして侵入者の排除が終わったので、ネリスを呼びつけ回復魔法を施してもらった。
戦闘の結果だが、こちらの手勢にそれほどの被害はなかった。
使い捨ての魔物がいくらか削られたくらいである。
リディアの応急手当とネリスの治療魔法が功を奏し、クロの命に別状はなさそうである。
ちなみにノエルはその間、クロに付きっ切りだっただのだが……現在正座中である。
――さぁ、反省の時間だ。
まずはノエル、何か言うことはあるかなー?
「……ごめん……なさい……」
……それは何に対して謝っているのか。
そもそも何で怒られているのか分かっているのかな?
「……いうこと、きかなかったから……」
……まぁ、それもある。
できればちゃんと返事をしてほしかった。
ただ元々自分とノエルは対等の立場であるし、この点に関しては自分にも反省の余地はあるのだ。
ノエルの安全を重要視するあまり、感情を疎かにしていた面も確かにある。
説明も十分であったとは言えず、いろいろとリディアに任せっきりになっていたような気もする。
要は相互理解とコミュニケーションが足りなかったのだ。
これは自分も反省しなければならないだろう。
――だから怒っているのは別の部分である。
「べつの……?」
……まぁ、分からなくても仕方ないだろうとは思う。
自分が怒っているのはクロが傷つけられた時――ノエルの動きが完全に止まったことである。
「……?」
……今回はリディアが間に合ってくれたからいいものの、あのままであればノエルは殺されていた。
そうなればクロも死んでいただろうし、当然自分も死ぬ。
ダンジョンである自分が崩壊すれば配下の魔物達も住処を失うことになる。
結果クロの行動は完全に無意味になる。
「……っ!」
ダンジョン主として戦わなければならないという志は素晴らしい。
しかしもう少し自分のダンジョン主と言う立場と命を重く見てほしいのだ。
「……ごめん……なさい……っ!」
……うむ、あまり素直だと調子が狂うな。
というかノエルがボロボロ泣くせいで、リディアさんの雰囲気が凄まじいことになっているんだが……。
ま、まぁとにかくだっ! お互い一蓮托生にして対等の関係、不満や意見があればどんどん言ってほしいのだ。
自分で駄目ならリディアに相談するのでもいいし。
「……んっ! わかった! がんばる!」
おお、分かってくれたか。
「のえる、りっぱなだんじょんぬしになる!」
――この時、自分はノエルの宣言を頼もしく思っていた。
……なんとしても止めるべきだったと後悔するのはもう少し先の事である。
……全くの余談だが、ノエル的に木人や石像の死は問題ないらしい。
曰く「あいつら、いきてないよ?」ということだ。
……むぅ、「命」とはいったいなんぞや?
なにやら突き詰めて考えると自分的に怖い結論に至りそうである。
止める理由は別に暗い理由ではありません。




