20 ダンジョンの平和な日常
閲覧ありがとうございます。
――ここ最近はこれと言って特筆すべきことは何もない……相変わらず散発的に冒険者はやってくるが。
ダンジョン内でもトラブルらしいトラブルもない……相変わらずノエルは言うことをきいてくれないが。
ダンジョンの整備も少しずつ進んでいるのではないかと思える……相変わらず魔素は足りないが。
…………ああっ! 平和って素晴らしい!
うんうん、やっぱり平和が一番である。
胸躍る冒険とか、命を賭けた戦闘とか、新たな出会いとかいらないからこういう平和な日々が是非とも今後も続いてほしい。
……フラグではないぞ。
真摯な願いだからな、いやマジで。
――ともあれそんなわけで今日は平和なダンジョン内を見渡してみようと思う。
豚人と樹妖精の場合
先日ノエルの配下に入った樹妖精のフラニーと小妖精のミュー達は、豚人達と同じ生産区画を居住地にしてもらうことになった。
担当は農業である。
流石に樹妖精だけあって植物系には強く、なにが農作物に必要なのか的確に要望を出してくれる。
そして実際の力仕事には豚人達に力を借りているようだ。
……正直に言えば自分は当初、、豚人達と樹妖精達はうまくやれないのではないかと不安を感じていた。
しかし、その不安はいい意味で裏切られた。
「これ、今朝方とれたミルクだど」
「まぁ、いつもありがとうございます」
フラニーにミルクを渡すのは一匹の豚人。
豚人の中で唯一の知性持ちで、今は豚人達のリーダー格。
名をオグワンと言う。
……なんとなく『シュコー』がトレードマークの黒仮面にあっさり殺られそうな名前だが、別に自分が名付けたわけではない。
自分の所に来たときからこの名前だったのだ。
……とりあえず前線には出さないようにしよう。
「う~む、なかなか良い仕事をするのですよー」
批評家のようなことを言いながら小妖精のミューがミルクを飲んでいる。
……この小妖精、怖いもの知らず過ぎないだろうか?
意外と思われるかもしれないが、豚人達と樹妖精達は特に諍いを起こす事もなく共存出来ていた。
見ている限りでは、むしろ仲がいいのではないかと思えるほどだ。
「……ところでオグワンさん達はもとは別のダンジョン出身と聞いたのですが?」
「そ、そうだ。」
「……こちらのダンジョンに移り住む際に、不満などは感じなかったのでしょうか?」
おっといい質問だ。それは自分も知りたかったことだ。
……しかしフラニーさん。妙に殺気立っているように見えるのは自分の気のせいでしょうか?
「不満なんてあるわけないど。オラここに住めてよかっただよ」
「……それは何故?」
「……オラもともと喧嘩嫌いだ。だけんグレオ様にはいつも役立たず扱いで、外回りばっかりやらされただよ。そのグレオ様が死んじまって途方に暮れてたところをノエル様が拾ってくれたべ。オラ絶対恩返しするだよ」
「……家畜の世話や野良仕事ばかりのようですが」
「むしろありがたいべ。こうして喧嘩もしないで働けるなんて嬉しいど」
…………なんという平和主義。どこかの好戦的なダンジョン主にも見習わせたい。
まさに気は優しくて力持ち。普通に友達に欲しいタイプだ。
フラニーも同じような印象を持ったのか、肩の力を抜きオグワンに微笑む。
「……そうですね。私もここの生活は好きです」
「ミューもなのですよー」
「だど」
――うん、仲良きことは素晴らしきことかな。
でもフラニーさんや、もしもオグワンが不満があるとか言ったらキミどうするつもりだったのかな?
……ちょっと怖い答えが返ってきそうである。
まさかとは思うが不穏分子は始末する気だったとか言わないだろうな?
うちの女性陣は角がありすぎるから癒し系が欲しいというのに。
いずれにせよダンジョン内部で内輪もめとかマジで勘弁してほしいところである。
……何しろ自分には樹妖精は創れないのだから
――そう、自分には樹妖精は創れない。
それどころか小妖精も無理だ。
始めのうちは気がつかなかったのだが、どうやらダンジョンの適性というものは消費魔素や初回特典だけではなく、創造できる魔物にも密接に関係するらしいのだ。
一応自分の創造できる魔物リストにも妖精系の項目はある。
あることにはあるのだが……創造できる魔物に樹妖精や小妖精の名前はない。
代わりと言っては何だが邪妖精の名前はあったりする。
ついでに言えばアンデット系の項目は割と充実していたりもする。
……つまりこれが自分の適性というわけだ。
正直言ってノエルがフラニー達を連れ帰って来てくれたのはかなり助かった。
もしも彼女たちが来てくれなければ、農業の開始はかなり遅れていただろう。
……おかげでノエルを叱るわけにはいかなかったのだが。
リディアとネリスの場合
「~ですのでぇ、ノエルちゃんと一緒に寝させてほしいんですよ~」
「……お断りします」
ところ変わって玉座の間。リディアととネリスが向き合って話し合っている。
……というかネリスはまだノエルと寝るのをあきらめていなかったのか。
「むぅ~、リディアさんばかりずるいですよぉ。私もノエルちゃんと一緒に寝たいですぅ」
「……お嬢様との添い寝はお傍付きの私の役目です」
おいおい、勘弁してくれ。
言葉だけは丁寧だが、リディアの機嫌が急降下しているがよくわかる。
ネリスとて気がついていないわけではないだろうに朗らかに続ける。
「じゃあ、リディアさんも一緒に寝ましょ~」
「……は?」
なんと珍しい。リディアが呆けている。なかなかレアな表情だ。
う~ん、ネリスも胆が据わっているというかなんというか……意外と大物なのか?
そんな感心をする自分をよそに話は進んでいく。
「そうですねぇ。折角ですからミューちゃん達も呼んでパジャマパーティーにしましょうか~」
「あ、あの……」
「きっと楽しいですよ~」
笑顔で話を進めるネリスに珍しくリディアがたじろいでいる。
……意外と押しに弱いタイプだったりするのだろうか?
その後、結局リディアはネリスに押し切られ、その日は女性陣+クロで一緒に眠ることになるのだった。
――WINNER ネリス!
ノエルとクロとリーダーの場合
「それ! とってこーい!」
カランカランコローーン! そんな乾いた音がダンジョンに響き渡る。
「ワウワウワウ!!」
「……!……ッ!」
その音を響かせた物へ全力で追いすがるクロとリーダー。
その物とはすなわち――リーダーの腕の骨である。
……この発想はなかった。そっかー、犬って骨とか大好きだからなー。
リーダーがクロに怯えていたのも仕方がない。納得である。
リーダーも流石に自分の腕を遊び道具にされたくはないのだろうが、相手はダンジョン主。
強く言えなかったのだろう……そもそも喋れないし。
「やったやった! くろすごーい!!」
「ワオーン!」
「…………」
……ま、いっか。ノエルもクロも楽しそうだし。
リーダーは犠牲となったのだ。
セバスと泥人形の場合
セバスは泥人形と一緒に侵入者を撃退していました、まる。
「フォ!?」
いつもの事なのでカットカットカットと。
そんな感じで日々は過ぎていく。
いやー、平和って本当に素晴らしいものですね!
ダンジョン測定値
名称:
ランク:F上位
保有魔素:37720P(残3060P)
『泥人形』:人形系の魔物。レベル10相当。
土や泥でできた魔物。それほど手強くはないが徹底的に破壊する必要がある面倒な魔物。




