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18 幼女 成長中

閲覧ありがとうございます。

 ――とあるダンジョンの一角。

 ダンジョンの住人達からは鍛練部屋などと呼ばれている場所で二人の女性が対峙していた。

 片方の女性は女性と呼ぶにはまだまだ早い、十にも満たない幼い娘――幼女だった。

 まだまだ女性的な魅力とは縁遠いが、幼いながらも整った顔立ちに将来を期待する者もいるだろう。


「む~」


 幼女はその愛らしい顔立ちを、精一杯しかめっ面にして目の前の相手を睨んでいた。

 幼女に相対するは、水晶のように滑らかな褐色の肌、雪のような白銀の長髪、涼しげな眼差しを金色に輝かせ、細身の肢体をメイド服に包んだ美しい女性だ。

 幼女の世話役でもあるその女性はどこか困ったような表情で佇んでいる。


 幼女の目には女性はとてもではないが強そうには見えない。

 見た目だけなら以前に見た豚巨人(メガオーク)の方がずっと強そうだ。

 しかし見た目に惑わされれば痛い目を見ることを幼女はここ数日間に学習していた。


「やっ!」


 しびれを切らした幼女が間合いを詰め、小さな拳を握り締め女性に殴りかかる。

 ――とてもそうは見えないが、幼女の拳には大の大人でも悶絶するような力が込められている。

 しかし如何なる力も当たらねば意味はない。

 幼女の拳を女性は軽やかに躱す。


「くろっ!」

「ガウッ!」


 幼女の呼び掛けに答えた黒き獣は背後より女性に飛び掛かる。

 ――しかしそれすら女性は容易くすり抜ける。

 その動きはまるで背後にも目があるかのようだ。

 そして女性の素早い動きに目標を見失った幼女と獣は――


「あぅ!?」

「キャンッ!?」


 ゴチンッ! とばかりに正面から激突した。

 

「いった、たたたた。くろぉ~」

「キュ~ン」


 口をとがらせる幼女――ノエルに黒い獣は申し訳なさげに頭を下げる。

 一回り成長したクロである。


「お嬢様。大丈夫ですか?」


 そんな一人と一匹に心配げに声をかける女性はリディア。

 ノエルの世話役であり、先程までノエルとクロの相手をしていた女性である。


「りでぃあ、うごくのはやいよー」

「も、申し訳ありません」


 恐縮してしまうリディアだが、ノエルは別に怒っているわけではない。

 むしろどうやったらそんなに早く動けるのだろう? と興味津々だ。


「よーし! もういっかいいくよ、くろ!」

「ガウッ!」

「あ、あの! そろそろお休みになられた方が……」

「やだ!」


 何とか訓練を止めてもらおうと声を上げるリディアだが、ノエルはあっさりと拒否し、再び二人と一匹が動き回る音が鍛練部屋に響き渡るのであった。



 ◆ ◆ ◆



 う~ん。やってるなー。

 強くなりたい――そうノエルが言い出した時は正直驚いた。

 どうも少し前に他のダンジョン主の戦闘を目の当たりにしたことで、ノエルの意識にも変化があったようだ。

 しかし自分としては断る理由など全くない。

 将来的なことを考え、ノエルには強くなってもらわねば困るのだ。


 ……だが自分のように割り切れないのがリディアである。

 リディアとしては、ノエルに危ない目や辛い思いなどしてほしくない。

 しかし、もしもの時を考えれば強くなるに越したことはない。

 そんな感情と理屈の板挟みになってしまったのだ。


 ――結局最後はノエルの意思を尊重することにしたようだが、リディアの苦難はまだ終わらない。

 訓練をするにしても、誰が相手をするのかという問題が出てくる。

 セバスやネリスが立候補したがリディアが譲るはずもなし。

 基本的な相手役はスムーズにリディアに決まった。

 ……だがここからが本番である。

 訓練の相手役をするということは、当然ノエル(お嬢様)を傷つけることになる。

 ノエル(お嬢様)命のリディアにとっては、侵入者撃退の方がよほど楽な仕事だろう。

 ……まぁ、ノエルは全く気にしていないようだが。


 とりあえず現在ノエルには基本的な身体の使い方、魔力操作の技術などを学んでもらっている。

 また空中の敵対策としてはセバスが模擬戦の相手を勤めている。

 ……珍しくお嬢様(ノ エ ル)の役に立てると大張り切りだ。

 

 ついでにネリス相手には魔法戦に関して鍛えてもらっている。

 ……この時ばかりはリディアは退場だ。

 なにしろノエルに魔法を向けるネリスを恐ろしい眼で睨むからな。

 ちなみにノエルの魔法適性は闇と水の二属性持ちだった。

 なんとなく吸血鬼(ヴァンパイア)らしい適性だと納得してしまった。

 

 訓練にはクロも参加している。

 良いことだ、このまま成長しノエルの守り手になってほしい。



 新たにダンジョンの一員となった豚人(オーク)達だが、こちらが拍子抜けするぼど大人しく従っている。

 もともと創造魔物だったので命令されることに慣れているのかもしれない。

 ……そんな豚人(オーク)達による畜産業も今のところ大きな問題は起こっていない。

 しかしそれでも食料は不足気味なので、足りない分はダンジョン外で狩りを行ってもらっている。

 ただしやり過ぎ厳禁。あまり派手に動くと冒険者や他ダンジョンに目をつけられてしまう。

 この辺りの加減は豚人(オーク)には無理なので、必ずリーダーを同行させる。

 ……いやー、優秀(便利)な部下がいるって素晴らしいね!


 ちなみに豚人(オーク)の腕力や自給自足の構想を考えると、出来れば農業にも手を出したいのだが、これがなかなか難しい。

 一応、土を耕し石を退かした方が良いというくらいの知識はあるが、本格的な農業となるとさっぱりである。

 専門家が欲しいと切に願う。

 

 一応『道具作成』で肥料とか作れないか試してみたが見事に失敗した。

 どうも『道具作成』で油をあっさり作れたのは、普通にこちらの世界にもある物だからのようだ。

 天の声にも聴いてみたが当然のごとく《回答不能》。

 ……どうも天の声の知識にはかなりの偏りがあるように思える。


 

 ダンジョンとしてのランクが低いうちは人里近くに出現する以上、どうしても冒険者との戦闘は避けられない。

 対抗するために戦力を整えれば強者が来る確率が上がる。

 加えてダンジョン内の人員が増えれば必要な魔素も上がる。

 とにかくあらゆる意味で魔素が足りないのだ。

 

 ……だからといって他ダンジョンに仕掛けるわけにもいかない。

 安心を求めてリスクを振り切ってどーする。

 

 結論として安心安全なダンジョン構築にはまだまだ遠いようである。

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