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A4 ガレス

閲覧ありがとうございます。

 ガレスは上級にも昇格間近な熟練の冒険者だ。

 まだ少年と言ってもいい年の頃から冒険者となり、己を鍛え、経験を重ね、功績を積み実力を確かなものとした。

 ガレスが今に至るまでの道のりには失敗があり挫折もあった。

 しかしその度に仲間と共に乗り越えてきた。

 ガレスのパーティーは男二人に女二人、そしてガレスを加えた五人パーティーだった。

 気のいい連中で苦楽を共にした仲間だった。

 ――だがその仲間ももういない、ガレスは一人(ソロ)だ。




 …………といっても別にガレスの仲間達は死んだわけではない。

 単に彼らは冒険者を引退しただけである。

 ガレス以外の四人はそれぞれ恋仲で結婚を機に定職へと就いたのだ。

 ガレスとしては仲間同士の付き合いに文句を言うつもりはない。

 むしろそれぞれの間を取り持った身として祝杯を挙げたくらいだ。

 しかし――


(……まさか同時に子供(ガキ)ができちまうとはなぁ)


 子供ができたことで引退を決意する冒険者はそれなりにいる。

 万が一冒険中に死亡し、残されることになるかもしれない子供の事を考えれば仕方がないとも言えるだろう。

 ガレスとしてもそうした心情は十二分に理解できたので、無理に引き留めることはしなかった。

 しかしガレス自身は冒険者を止める気もなく、さりとて他の冒険者と組む気にもなれず、現在は一人(ソロ)で手頃な依頼(クエスト)を受けている。

 ……三十路が近い身としては少々危機感もあるのだが。


 ――そんな中級冒険者ガレスは冒険者ギルドからの依頼で、今回珍しく複数で依頼(クエスト)に臨むこととなった。




(……妙な依頼(クエスト)もあったもんだ) 


 目的地への道すがら、ガレスは内心で首を傾げていた。

 

 「新たに出現したランクF中位のダンジョンの調査」……その依頼(クエスト)自体は別に不自然なものでなく、不満もなかった。

 奇妙なのはその調査に初級冒険者四人を同行させるという条件が付いていたことだ。

 ……まぁ、自分も若い頃は先輩冒険者には世話になったし、初級冒険者育成の一環なのだろうと、あまり深くは考えなかった。






 ――最終的にシーラが選んだのは新規ダンジョンだった。

 豚人(オーク)の群れや悪鬼(オーガ)ははっきり言って無謀すぎる。

 罠迷宮はダンジョン主まで辿り着けるとは思えないし、レイラが納得するとも思えない。

 ……つまりは消去法だ。

 ただし、新規迷宮は情報がほとんどなく未知数なので、他の冒険者の調査に同行という形にし、ロイが危険だと判断したら即時撤退という条件を付けた。


 ギルドの職員は嫌な顔をしたが、レイラを押し付けた負い目もあったのか了承した。

 ジャックとレイラの二人も初めは渋い顔をしたが、最終的には提案を飲んだ。

 ジャックとしては、レイラはともかく他の二人と喧嘩別れするような事態は避けたい。

 レイラとしても一応は自分の提案が受け入れられた形なので、譲歩するのが無難だろうと判断した。




 ――そうして五人は件のダンジョンへ到着したのだが、いささか奇妙な事態へと遭遇することになった。


「……なんで魔物が一匹もいませんの?」

「……どうなってやがる」

「…………」

「……ひょっとして他の冒険者がダンジョン主を倒したとか?」

「――いや、それはないな」


 ダンジョンに入ってから全く魔物に遭遇しないという奇妙な状況に首をかしげる四人に、経験豊富なガレスがはっきりと断言する。


「ダンジョンにはな、ダンジョン独特の存在感ってもんがある。お前らだってそれは感じてるはずだ。この感じからすれば……このダンジョンは間違いなく()()()()()


 ただの廃墟や洞窟とダンジョンを明確に分ける境界。

 ダンジョンをダンジョン足らしめる理由。

 それはダンジョン自体の放つ存在感にあった。

 たとえ冒険者でなくとも一目で異質と感じる存在感――それがダンジョンにはあったのだ。

 その存在感はダンジョン主が討伐されると消える。

 そしてその数日後にはダンジョン其の物が消えてしまう。

 このあたりの原理については、まだはっきりとは分かっていなかった。


「けどそれならなんで魔物がいないんでしょうか?」

「ふふん、きっとわたくし達に恐れをなしたのですわ!」

「……どアホ」

「ジャックさん! 今"ど"をつけましたわね!?」

「…………」


 仲良く喧嘩する四人を横目にガレスは考える。

 こういった魔物のいないダンジョンは全くないというわけではない。

 しかし、そういったダンジョンでも罠くらいはあるものだが……。


「まさか皆仲良くお出かけってわけでもあるめえし……」


 思わずポツリと漏れる言葉。

 ……実際はそれに近かったのだが。


 ――途中、大量の魔物の焼死体を発見することはあったが、他には何もなく最深部まで行きついてしまった。

 しかし流石に不気味過ぎる状況に、一人を除き皆は二の足を踏んでいた。


「どうしてここまで来て止まる必要がありますの!? 罠もなかったではありませんか!」

「……いくらなんでも怪しすぎるだろ」

「……不気味……」

「そもそも今回は調査だけだし……」


 ガレスも予想外の状況に戸惑い、どうしたものかと思案する。

 しかし、そうしてる間にも動く者は動く。


「――ッ。ならばわたくしが先陣を切りますわ!」

「オイッ!」


 止める声もむなしくレイラは先へと進もうとする。


 ――それは完全な油断だったと言える。

 しかしその油断を責めることはできないだろう。

 今までの道中一度も罠がなく、その上、事前にジャックとガレスが罠がないかの探査も行っていたのだ。

 だからそれは仕方のないことだったのだが――それでもダンジョンは油断する愚者に容赦なく牙を剥く。


 グワァアアア~~~ン——とどこか間の抜けた音がダンジョンに響く。

 唐突に頭上から降ってきたタライ(・ ・ ・)は見事な音を立ててレイラの頭頂部に激突した。


『…………』

「…………きゅう~」


 パタリとレイラは倒れ伏した。


「ちょ、レイラ!?」

「チッ!」

「……ッ!」


 慌てて駆け寄るあたり、なんだかんだで仲がいい四人である。

 ガレスは連動した何かが起こるのではないかと身構えるが……何も起こらない。

 訳が分からないと首を傾げつつレイラの具合を見るが、どうやら気絶しているだけのようだ。


「……今日はここまで。撤収だ」


 ――そう決断を下す。

 はっきり言って意味が分からない。不気味すぎる。

 もともと今回は調査だけのはずだったのだから無理をする義務もない。

 ロイ達にも否やはなく、四人は気絶したレイラを連れて街へと帰還するのだった。



 ――後日、自分を気絶させたのがタライだと知り激怒し、再びダンジョンへ向かおうとするレイラを必死に止める三人の姿が冒険者ギルドにあったとか。






『タライ(トラップ)』:割と早い段階から設置できる(トラップ)

 ただし効果の弱さに反し消費魔素は多くコストパフォーマンスは最悪。

 これを設置するダンジョンはほとんどない。

 (トラップ)としてのレベルは妙に隠蔽度が高く、熟練の盗賊(シーフ)でも発見は困難。

ダンジョン大爆笑中。

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