15 初めてのダンジョン戦 1
戦闘回です。
――その日は何時も通り平穏だった。
ノエルはクロと戯れ、リディアは様々な雑事をこなし、ネリスは人間だった頃の実力を取り戻すために己を鍛え、セバスとリーダーはダンジョンを警備する。
特に予兆らしい予兆もない平穏な日。
――しかし予兆などなくともコトは起こる時には起こるものなのである。
初めに侵入者の気配を感じた時は何時もの冒険者だと思った。
特に何の問題もなく普段のパターンで対処できるものと思っていた。
だが直ぐに自分の過ちに気づかされる。
何故ならば――侵入者は人間ではなかったからである。
「プギィ!」
「ブギャァ!」
「ブゴォ!」
耳障りな叫び声を上げながら我が物顔でダンジョンに侵入してくるのは魔物だった。
人間よも一回り大きな体躯。盛り上がった筋肉。猪のような顔。
魔物リストでチラリと見た覚えのあるその魔物は『豚人』だった。
何故魔物がダンジョンに襲撃を掛けてくる?
――その疑問は当然だがあった。
しかし今は疑問に囚われている場合ではない。
侵入してくる豚人の数は20体ほど。
入り口付近に配置していた石像が数に押し負け容赦なく潰される。
流石にこの数と真正面からぶつかるのは不味い。
――ここは以前から考えていた作戦を使ってみるか。
敵襲に興奮するノエルを宥めつつ、自分はダンジョン内の魔物達に指示を送り始めた。
◆ ◆ ◆
リーダーことハンスは必死で走っていた。
迫り来るのは殺意にまみれた豚人の群れだ。
万が一にも追い付かれれば、あっという間に砕かれてしまうだろう。
(クソがぁあああああああっ!)
ダンジョンの意思からルートの指示を感じつつ、その意思に対して内心で罵り声を上げる。
平時と少し様子の違う不自然な通路を曲がる。
(何で俺は何時もこんな役なんだよっ!)
ダンジョンから振られたハンスの役割は引き付け役。
豚人達を指定の場所まで誘い出すのが今回の仕事だ。
数は多いが鈍重で、知性もなく本能全開といった感じで追い掛けてくる豚人の様子を見れば妥当ではあるのだが、それでもハンスとしてはダンジョンに蹴りでも喰らわせてやりたい気分だった。
なんとか無事に指定された部屋にハンスは辿り着く。
ダンジョンの中でも大きめのその部屋は、豚人20体程度楽に収容可能だ。
そしてその部屋には木人が8体待機していた。
その木人達の脇をハンスは走り抜ける。
駆け抜けた先の出口付近で待機していた石像が、ハンスが出た後に出口を塞ぐ。
「フォッフォッフォ。お疲れ様ですぞ」
出口付近で待機していたセバスがハンスを労う。
……これにてハンスの仕事は完了である。
豚人達はひたすらに目の前のハイスケルトンを追っていた。
罠があるかなど考えない。
豚人達を支配するのは暴力の快楽のみ。
何故ならばそのように命じられたからだ、彼らの主に。
――奪い、壊し、そして殺せ。
単純であるがゆえに逆らう感情など微塵もわかない命令。
豚人達はそれに従うのみである。
小賢しいハイスケルトンが逃げた先には木人達が待ち受けていた。
だがそんなもので止まる豚人ではない。
躊躇うことなく木人に襲いかかり、引き裂き、砕き、踏みにじる。
木人からは何やら妙な臭いがするが関係ない。
木人を存分に蹂躙し、次の獲物へと牙を向ける。
まずは目の前の石像だ。
そして先程逃がしたハイスケルトンだ。
最後にこのダンジョンのダンジョン主だ。
そして我等が主に勝利を捧ぐのだ。
戦意に満ちた豚人達がさらなる蹂躙を開始しようとした矢先――
「【火球】!」
女の声が響き、放たれた火球が着弾すると同時に部屋は炎の海へと変わった。
◆ ◆ ◆
おおー、絶景かな絶景かな本〇寺。
豚人達が焼き豚になっていく光景をのんびりと眺める。
今回やったことはそれほど難しいことではない。
まずリーダーを囮に豚人達を所定の部屋まで誘い出す。
その際、豚人が分散しないよう通路の分岐は石像で塞ぐ。
部屋には木人達が待機している。
ただし……油をたっぷりと染み込ませた特別性だ。
もしもの時のために『道具作成』で創り用意しておいたのである。
豚人達が木人達と戦っている間に、リーダーは部屋を脱出。出口はこれまた石像で塞ぐ。
そして仕上げに入口へと回り込んだネリスが『火球』で着火。
石像だけだと破壊され脱出される危険があるので、念入りにセバスとネリスが魔法障壁でそれぞれ出入り口を塞ぐ。
これにて豚の丸焼きの完成である。
――リディア頼みだけでは不味いと思い考えておいた作戦である。
とは言え慎重な冒険者か、ある程度知性がある魔物なら通じなかった手である。
今回は豚人達がひたすら突っ込んでくるだけだからうまくいった。
今回の結果に慢心するわけにはいかないだろう。
……結構手勢も潰されたし。
――唐突な襲撃を凌ぎきり、魔物に片づけと再襲撃への警戒を命じる。
さて……あの豚人共、いったい何のために襲撃してきたのだ?
《……条件が満たされました》
――そんな自分の疑問に答えるがごとく唐突に響く天の声。
……でもまぁ、今回はひょっとしたらくるかなーと思っていましたよ。
どうも新しい行動を起こすか、今までにない出来事が起こると条件が満たされやすいようだし。
というわけで早速新規事項の確認だ。
な~に~が~増~え~た~か~な~、と。
NEW.『ダンジョン探知』
……なるほど。まぁ大体効果は予想できる類いである。
さて――
『一定範囲の他のダンジョンの場所探知できる
解放条件:他ダンジョンからの襲撃を受ける』
うむ、予想通り。
試しに使ってみると消費魔素は10Pと少量。
探知できる範囲には三つ他のダンジョンが存在する。
……一つ点滅しているダンジョンがあるが、これが襲撃を仕掛けてきたダンジョンだろうか?
う~ん、新しく機能が追加されたのはいいし、なかなか使えそうだ。
しかし、今知りたいのはどうして他ダンジョンが襲撃を仕掛けてきたかということなんだが……?
《ダンジョン主及びダンジョン主配下が他ダンジョン主を撃破した際は、多量の魔素が獲得されます》
………………ってうぉい!
聞いてないぞ、そんな情報!
あっ、あれか!? 《回答不可》だった魔素の獲得方法におけるその他の方法か!?
《そうです》
もはや隠す必要はなしとばかりに答えてくれる天の声。
ぬぉおお~、腹立つ。
何が腹立つって、この情報や『ダンジョン探知』の解放条件が「一度他ダンジョンから襲撃を受けること」だからだ。
情報がないから想定できず、奇襲を受けることが前提となっている。
嫌らしいにもほどがある。
……まぁ、ダンジョンによって魔素の獲得方法について想像したり、事前に配下の魔物に周囲のダンジョンに関して探索を行わせたりするのかもしれないが。
しかし自分は思いつかなかった。
迂闊だった……いやいや引きずっても仕方なし。
ひとまず生き残れたのだし、切り替えていこう。
さしあたってまずやるべきは避難だ。
こんな危険地帯にいつまでも留まってはいられない。
最襲撃がある前にさっさと『移転』することにしよう。
幸いにも『移転』に必要な魔素は十分だ。
では――『移転』!
…………ん?
何故だかいつまで待っても『移転』が発動しない。
ほら、『移転』だよ『移転』。
なにグズグズしてんのー?
《『移転』の発動にはダンジョン主の合意が必要です》
…………なんだとぉおおおおおおお!?
ちょっ、それも聞いてないぞ、おい!
ってゆーか、ノエルさーん?
「う~」
話しかけると何やらえらく膨れっ面のノエル。
うわっ、めっちゃ不機嫌。
……え~とノエル。
ダンジョンを『移転』させたいのだけど。
「やっ!」
絶対いやっ! とばかりにそっぽを向くノエル。
いやいや、「やっ!」ではなくてね、敵が来るの、危ないの。
だから避難しようや、ねっ。
「たおちゅっ!」
……ちょっ、この子なに言ってくれてんの!?
まだ君、乳児じゃん、お子様じゃん。危ないって!?
「やーっ! たーおーちゅーのー!」
……マズい。
クロを育てるとか言い出した時以上の反発を感じる。
どうも今まで侵入者が来てもノエルに戦闘させず、避難させていたツケが来たようだ。
気がつかなかったが、かなりストレスを溜め込んでいたらしい。
そしてノエルが機嫌悪くするたびに傍のリディアの目線が鋭くなってゆく。
……マジでどーしよう?
選択肢1 ノエルを説得する
……無理だ。
こうなったノエルが梃子でも動かないことはクロの一件で把握済みだ。
むしろ時間の無駄だろう。
選択肢2 籠城する
……可能だが現実的でない。
人里の近くに存在することと襲ってきた魔物のレベルから、おそらく自分と同じランクFと思われる。
しかし敵の物量が分からないし、そもそもノエルの望みは相手を倒すことなのだ。
選択肢3 リディアに始末してもらう
ある意味一番安全策。
リディアなら十分可能だろう。
問題はリディアを派遣中、ノエルが無防備になってしまうことか。
選択肢4 セバス達を派遣する
選択肢3の人員入れ替え策。
ノエルの安全度が増すが、セバス達だけで敵対ダンジョン主を倒せるか未知数。
選択肢5 賢い自分は一発逆転のナイスアイディアを思いつく
…………アホか、現実は非常である。
……取り敢えず思いついた対応策はどれも一長一短。
どれもリスクが付きまとう。
……猛るノエルを前に考え、悩み、割り切り自分は決断を下すことになるのだった。
続きます。




