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1 目が覚めると……

初投稿です。

よろしくお願いします。

 ――目が覚めると漆黒だった。

 一切の光を許さず、周囲の輪郭すら映さない完全なる闇。


 ――?


 己に訪れた唐突な事態に、軽く混乱しつつ体を動かそうとするも……反応しない。

 肌の感覚すら感じない。

 これは……いわゆる金縛りというやつだろうか?

 それならば――と声を張り上げてみることにする。

 

 ――誰かいますか?

 

 もしも誰かが近くにいてこちらに敵意がある場合を考え、下手に刺激したりしないように丁寧語である。

 ないとは思うが、誘拐犯の可能性も考慮に入れておいた方がいいだろう。

 しかし――反応なし。

 どうやら周囲に人はいないようだ。

 一体どういった状況なのか、より混乱の度合いを深めつつも、状況把握のため昨夜のことを思い出そうとするが――







 ――思い出せない。

 昨夜の記憶だけではない。

 基本的な一般知識はある。社会常識もある。ある程度の科学知識もある。アニメや漫画といったオタク知識のようなものすらある。

 しかし自分自身の経歴、能力、人間関係といったパーソナリティに関する部分は全くの空白である。

 いわゆる記憶喪失の類のように思えるが……奇妙なことにそのような異常事態にありながらパニックには陥っていない。

 混乱は確かにしているが……混乱しているだけ(・ ・)なのだ。

 そんな自身の精神状態に疑問を持ちながらも、どうしたら現状を把握できるかと頭をひねっていると……


《……おはようございます。あなたは46378683番目のお目覚めになります。……チュートリアルを開始しますか? YES/NO?》


 突然、闇の中、何処からか声が響いた。

 透き通っていながらも、どこか人間的抑揚にかける人工的な印象を与える声だ。

 ――誰かいるのか? もう一度、改めて周囲を探るも相変わらずの暗闇である。

 加えて今の「声」は肉声というよりも、脳に直接語りかけられたかのように感じられた。

 経験したことはないが、もしもテレパシーが実在するならばこのような感じだろうか?

 突然の暗闇、記憶の欠けた自分、脳裏に響く声……次から次へと異常事態が湧いてくるにも拘らず、やはりパニックに陥ることはなく、知識の中から今の状況に当てはまりそうなものを思い浮かべる。

 

 これは……いわゆるダンジョン系転生というやつだろうか?

 ダンジョン系転生――異世界のダンジョンの中で、魔物や魔王に転生した主人公がチート能力を活かしてダンジョンを構築しつつ、成り上がっていく。

 そんな異世界転生もの小説の一ジャンルである。

 この奇妙な状況で真っ先に役立ったのがオタク系知識というのはいささか複雑だが、現在の状況はそういったものに酷似している気がする。


 別に死んだ記憶はないし、神様とかにあった覚えもないが――取りあえず、YESとイメージの中でクリックする。

 少しばかり迂闊な行動の気もするが、この声が現状唯一の情報獲得手段なのである。無視はできない。


《……チュートリアルを開始します。まずはダンジョン最深部の創造です。

 イメージしてください。なお広大すぎるイメージは不可です。ご注意ください》


 うまくいったのか、チュートリアルが開始される。

 とりあえず声に言われるがままイメージしてみる。

 自分にとってダンジョン最深部と言えば、ボスの待ち受ける部屋である。

 「知識」にあるいくつかの漫画を参考にしながらイメージし……更にいくつか必要(・ ・)と思われるものを追加イメージする。


《……イメージを取得しました。創造を開始します。しばらくお待ちください》




 特にすることもなく、大人しく待っていると――


《……完了しました》


 人工的な声が再び響くとともに闇が晴れ、一気に視界が開けた。






 ――目に入ったのは先程自分がイメージしたとおりの光景である。

 シンプルでありながらも厳かさと重厚さを感じさせる広間。滑らかな大理石の壁。自ら光り輝く天井。広間奥の中央に位置する一段高くなった部分には、威厳を感じさせる玉座。

 そして玉座の裏から通じる通路の奥には、寝室・バスルーム・トイレ・キッチンルーム・遊戯室・倉庫の6部屋。

 ……ダンジョンの中でも不便なく生活したいと思い、思いつくまま追加イメージしておいたのである。


 その光景はまさに先ほどイメージしたダンジョン最深部なのだが……見過ごせない疑問が二つ。

 ひとつめは自分の所在と認識。

 自分自身の肉体と言えるものが存在しない。

 しかし肉体が存在しないにも拘らず、部屋の状態は認識出来ているのだ――しかも全て同時に。

 まるでミニチュアの屋敷を上空から眺めているかのように。

 ふたつめは玉座の上に存在し、奇妙な存在感を放つ卵のようなもの。

 あんなものはイメージしなかったはずだが……?

 自分の疑問に答えるがごとく、頭の中にチュートリアルの声が響く。


《これがダンジョン(あ な た)です。これからあなたは命運を共にするダンジョン(ぬし)を育てることになります。

 ……初期魔素が配布されました。初期魔素は1000Pです。

 初期魔素を使い切るとダンジョンが開通します。

 ……以上でチュートリアルは終了です。疑問があればご気軽にお尋ねください。答えられる範囲でお答えさせていただきます。

 ……それでは立派なダンジョンに成長されることをお祈りいたします》




 ――オーケイ、了解だ。何となくではあるが現状は把握できた。

 つまり自分は人間ではなく、魔王ではなく、魔物ですらなくダンジョン(迷 宮)だと。

 そしてこれから頑張ってダンジョン主を育てなければならないと。


 全然チュートリアルになってないとか、「答えられる範囲で」ってなんだとか、色々と言いたいことはあるが、とりあえず……。


 ――ダンジョンかよっ!?

 

 思わず叫んだ自分はきっと悪くない。









 ――思い切り叫んでみたら落ち着いた。

 ……落ち着くのがいささか早すぎる気がするのは疑問だが、とりあえず気にしても仕方ない。

 叫び続けたとしても現状が変わるわけでもないのだ。とにかく今の状況に適応しなければ。

 何処かのゲームのギャンブラーも言っていた。

 環境に適応出来なければ死ぬのだと。

 ……もっともそのギャンブラー自身は環境に適応する気など更々なく、お亡くなりになられたのだが。


 まずは分かっている状況を整理してみる。

 ――自分はダンジョンである、それはいい。いや、ホントはよくないのだが、どうにもならないことに拘っても仕方ない。

 業腹だが、自分がダンジョンであるという事実が変えられない以上、それを受け入れた上で、思考を重ねていく必要がある。

 なのでこれから先に必要なことを考えねばなるまい。

 おそらく、先程のチュートリアルは自分のようなダンジョンにとって共通の仕様と思われるので、他のダンジョンにも自分のように意志があるとみるべきだろう。

 ……というか訊いてみる、気軽に尋ねろとか言ってたし。


《あります》


 やはりあるらしい。……となると気になるのは自分に備わっている「知識」である。

 少なくとも自分の「知識」の中の世界にこのような事態がない以上、ここは異世界やゲームの中として仮定すべきだろう。

 ではこの「知識」は何なのかだが……可能性として考え付くのは、何処からか流れてきた「知識」がダンジョンの意志に張り付いたか、転生したショックで記憶喪失になったか、はたまた全てのダンジョンは元は人間で「知識」だけが偶然に残ったか……あるいはもっと別の解か。

 気になることがあり、答えてくれる相手がいるならば質問するにかぎる。

 早速チュートリアルに……なんか言いにくいな、天の声でいいや。

 教えて、 天の声!


《……回答不能》


 …………。いきなりである。

 いや、「答えられる範囲で」とか言ってたから、いずれこう言った回答がくるのは予想していたが、よもやこうも早くくるとは……。

 グー◯ル先生を見習えと言いたい。

 ……まぁ、仕方ない。気を取り直していこう。

 

 まずは目的を定めることにする。

 目的意識というのはこれから先の行動目標を定める上で重要なことなのだ。

 さしあたって自分の当面の目的は考えるまでもない。「生きること」――これに尽きる。

 ダンジョンなどという非生物である自分だが生存欲求はあるのだ。

 

 ぶっちゃけた話、ダンジョン開通などしたくない。

 この手の異世界ファンタジーのお約束として、外界は危険でいっぱいな気がするのだ。

 ……まぁ、こんな変化のない環境下で精神がもつのか疑問だが、ひょっとしたらやりようもあるかもしれない。

 目指すは完全閉鎖型自給自足コミュニティ。

 時代は冒険ファンタジーではなく農場経営シミュレーションなのだ。

 ……今が何時かは知らないが。


 とにかく、そんなささやかな展望を実現するためにも情報を得る必要がある。 

 さしあたって重要度の高い最優先の情報と言えば、やはり「ダンジョン(ぬし)」についてであろう。

 天の声曰く「命運を共にする」とか不吉過ぎだ。

 早急に情報を得ねばならない。

 なのでやはり天の声に質問することにする。

 何やら質問してばかりの気がしないでもないが、訊かぬは一生の恥なのだ。


《ダンジョンの(あるじ)です》


 ……どうやら天の声には親切心とか想像力とか、人として大事なものが欠けているらしい……人ではないが。

 よろしい、そちらがその気ならこちらのやることも決まっている、すなわち――質問攻めである。






 ……かなり時間がかかったが、ダンジョン主について基礎的なことは訊き出せたと思う。

 やっかいなことに、天の声は基本的にこちらの質問に対し端的にしか答えてくれないので、立て続けに質問を繰り返す必要があった。

 詳しくは省略するが、新しい単語が出てくるたびに質問し、回答に対して訊き方を間違えたという後悔を繰り返し、質問を考え直したと言えば、少しは苦労を理解してもらえるのではなかろうか。

 しかし面倒ではあったがその甲斐はあったと思うので、得られた情報を整理してみる。




ダンジョン主とは?

 文字通りダンジョンの主。ダンジョンとは一蓮托生の関係であり、ダンジョン主が死ぬとダンジョンも崩壊する。

 ダンジョンと意志疎通可能。

 ダンジョン主が成長するとダンジョン(自 分)が出来ることも増える。

 ダンジョンとの立場は対等なので、命令を聞くかどうかは不確定。

 日頃からコミュニケーションをとり、良好な関係を築きましょう。


そもそもどれがダンジョン主なのか?

 玉座にあった卵。魔素を与えると成長する。

 卵は全てのダンジョンで同一だが、ダンジョンの状態・ダンジョン内の魔物・魔素の獲得方法などにより千差万別に成長する。


卵を放置すると?

 腐る。当然である。


魔素とは?

 この世界における根源的エネルギー。

 ダンジョン主や魔物の成長・ダンジョンの増築・罠の設置、その他もろもろに必須。


魔素の獲得方法は?

 ダンジョン内で生物が活動する・ダンジョン内でダンジョン主及び配下による生物の殺害、その他……。




 得られた情報からの結論……つまり、どうあってもダンジョンを開通し、見事にダンジョン主を育て上げられなければ「死あるのみ」というわけである――クソッタレめ。

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