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14 ネリスの一日

日常回に説明を絡めてみます。

「……ふぁ~」


 ベッドの上で欠伸を漏らす。

 ネリスは昔からどうにも寝起きが弱い。

 起きることは出来るのだが、意識がはっきりと覚醒せず、かなりの時間微睡んでしまうのだ。


「ん~っ」


 思いきり腕を上げ上半身を反らす。

 胸元の豊満な二つの果実がたわわに揺れる。

 ……どこかの骨が見れば涎を垂らし、メイドが見れば殺意に眼を細めるような光景だ。

 もっともこの部屋に居るのはネリスのみ。

 故にネリスも周囲を気にせずのんびりと着替える。


 ――殺されたこと、それをネリスは恨んでいなかった。

 自分も殺そうとしたのだから当然の結果だと受け入れていた。

 ――サキュバスになったこと、これもネリスは気にしていなかった。

 むしろ魔物とはいえ生き返ることができたのだからダンジョンに感謝したくらいである。

 ダンジョンはフェミニストなのか、ネリスにはわざわざ個室を用意してくれた。

 唯一不満があったとすれば、意識を取り戻した時に着ていたサキュバスの衣装だが、これもダンジョンに訴え普通の服を用意してもらった。

 ……ちなみにサキュバスの衣装は即行で焼却処分した。

 ともあれそうした待遇からネリスは概ね現状に不満を感じていなかった。




 着替え終えれば朝食だ。

 メニューはダンジョンが用意してくれた果物のみだが特に問題はない。

 人間だった頃から果物は好きだったし、なによりサキュバスとなったネリスの主食は別の物(· · ·)だ。

 手早く朝食を済ませ、ダンジョンの一室へと向かう。

 向かった部屋は広く、勝手に鍛練所と呼んでいる。

 さて――今日も鍛練の開始である。


 サキュバスとして生まれ変わったネリスは、人間だった頃に比べ能力の変化と弱体化を感じていた。

 此処がダンジョンで自分が魔物である以上、早急に能力を取り戻す必要性を感じ、こうして空いた時間を鍛練に当てているというわけだ。


 心を静め、魔力を練る。

 魔力――すなわち保有魔素は生物なら誰でも持っているものだ。

 しかし持っているだけでは意味がない。

 魔素を肉体に循環させ、集束させ、己の意思を染み込ませる。

 それが一般に「魔力を練る」と言われる行為だ。

 そして練り上げた魔素でもって術式を構築するも――


「――っ! あぅ~、上手くぅ、いきませんね~」


 あっさりと魔力は霧散してしまった。


 基本的に保有魔素の量というのは才能がものを言う部分も大きい。

 しかし精神を研き、肉体を鍛えることで保有量を増やすことは可能だ。

 そして『技能(スキル)』は使えば使うほど伸びる。

 魔法であれば技能(スキル)レベルが上がると自然に新しい魔法の術式が頭に浮かぶ。

 後は魔力を練り呪文を唱えれば自動(オート)で発動する。


 ……しかし実はそれは発動しているだけ(· ·)なのだ。

 より威力を高め精密にコントロールするには術式を理解し、自ら構築する必要があった。

 一般には知られていないが、熟練の魔法使い(メ イ ジ)であれば常識であった。

 なのでネリスも人間だった頃に覚えておいた術式の構築を試しているのだが、結果はご覧の有り様である。

 おそらく技能(スキル)レベルが足りないが故に起こる現象なのだろう。


「フォッフォッフォ。精が出ますな、ネリス殿」

「あ、セバスさん~、おはよ~ございま~す」

 

 試行錯誤するネリスに声をかけてきたレイスににこやかに挨拶する。

 自分に対して全く性的な視線を向けないこのレイスに対しては、ネリスは好感を持っていた。


「よろしければ組手など如何ですかな?」

「ぜひ~お願い~しますぅ」


 誘いをかけるセバスに即答するネリス。

 そうして始まった組手は一進一退だった。


「フォフォフォフォッフォッ!」

「ん~!」


 基本的に身体能力で勝るセバスに、人間だった頃の技術と経験で食い下がるネリス。

 実際に戦闘を行うことでネリスは自身の衰えを明確に実感し、それを埋めるための方策を頭の中で練っていた。


「――ッ! 聖弾(ホーリー·ボム)!」

「フォ!?」 


 ネリスが唐突に放った魔法を慌てて回避するセバス。

 流石に文句が口に出る。


「ネリス殿……魔法は禁止だったはずですぞ」

「ごめん~なさ~い。つい~うっかりで~」


 そう、偶然(· ·)である。

 魔法の斜線上に偶々(· ·)こそこそと隠れて覗いていたハイスケルトンがいたのも偶然である……決して狙ってなどいない。




「――ではよろしくお願いします」

「はい~任せてください~」


 ダンジョンから呼び出しが入ったので、ネリスは鍛練を切り上げ玉座の間へ向かった。

 見回りに出るリディアの代わりにノエルとクロのお世話だ。


(やっぱりぃ格好いいですね~)


 出ていくリディアを見送りつつ内心思う。

 背筋を伸ばし凛として歩く様は純粋に憧れる。

 それでいて身を包むメイド服はとても可愛らしい。

 自分の分もダンジョンに頼んでみようかと考えてしまう。

 ……しかし偶に自分の胸元を睨み付けてくるのは何なのだろう?


「ね~り~♪」

「ワゥ!」

「はいは~い」


 飛びついてくるノエルとクロの相手をする。

 子供は可愛い。素直にそう思う。

 かつてはノエル(ダンジョン主)を討伐する立場だったが、そのあたりはもうどうでもいい。

 昔は昔、今は今なのだ。



 ◇ ◇ ◇



「うぉオオオオオオオッ!?」

「――ッ! よせ!」


 ネリスの目の前では二人の男が争っている。

 ダンジョン侵入してきた冒険者だ。

 そして片方の冒険者はネリスがサキュバスになって得た新技能(スキル)、『魅了(チャーム)』によって洗脳下にあった。


 仲間同士で争う冒険者に一切の躊躇なく火魔法を叩き込む。

 相手が侵入者だということもあるが切実な理由もある。


「それではぁいただきま~す♪」


 冒険者が確りと気絶しているのを確認し、食事(· ·)を開始する。

 ――サキュバスとなったネリスの主食は生物の精気である。

 なのでネリスは気絶させた冒険者に直接手を触れることで精気を吸収している。

 無論、男性相手に……ゴニョゴニョした方が効率がよいのだが、ネリスは断固としてそれは拒否していた。

 やはりそういうコトは一生を添い遂げる伴侶でなければ駄目なのだ。

 目下の悩みはダンジョン内では男性との出会いがないことだ。


(先輩みたいにはぁなりたくないですね~)


 神官時代にお世話になった先輩の女神官を思い出す。

 穏やかで面倒見のよい女性だったが、年齢と男女交際の話題はタブーだった。

 一度うっかりとその話題に触れてしまった同輩の恐怖に満ちた表情は今でも忘れられない。


 ――手元の冒険者は精気を吸われ、骨と皮だけになり絶命していたが、ネリスは気にすることもなくボンヤリとそんなことを考えていた。




 一日の仕事を終えベッドに入る。

 ノエルのベッド程ではないが寝心地はなかなかによい。

 欲を言えばノエルと一緒に寝てみたいのだが、それはリディアに却下されてしまった。

 とても残念だ……折を見てリディアにも一緒に寝ようと誘おうかと思っている。


(それではぁ明日も~頑張りぃましょう~)


 そうして気持ちよくネリスの一日は終わるのだった。

勝手にランキングタグをつけてみました

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