11 ハイスケルトン ハンスの日々
閲覧ありがとうございます。
俺の名はハンス! ハイスケルトンのハンス!
断じてリーダーでもなければ元リーダーでもない!
……おっと、何故だかわからないがむきになってしまった。
しかし言っておかなければならない気がしたのだ。
つい先日、俺は無事にスケルトンからハイスケルトンへと昇進した。
……まぁ昇進と言ってもダンジョン内での立場は変わらず、むしろ低くなったような気はするんだが。
しかし進化の効果はすぐに実感できた。明らかに進化前より動きがいい。
人間だった頃よりも強くなっているのではないかとさえ感じる。
また俺が進化した以外にも、最近ダンジョン内はいろいろな変化があった。
今回はそんな変化の中での俺の華麗なる日常を振り返ってみよう。
変化その一 メイドさん出現す
ダンジョンニ メイドサンガ アラワレマシタヨ!?
……はっ!? あまりのショックで思わず訳の分からないテンションになってしまったぜ。
――恐るべしメイド。
というわけでメイドさんである。
輝く銀髪に褐色の肌も艶かしい美人さんだ。
胸元は残念な感じだが……むしろそれがいいっ!
いきなりダンジョンに現れたこのメイドさん、何者かと思えばダンジョンで行き倒れていたところをセバス氏が拾って来たらしい。
さすがセバス氏、いい仕事するぜ!
そしてそのまま何故だがダンジョン主の側仕えに収まってしまったそうだ。
……ダンジョン主ってメイド好きなのか?
もしもそうだとしたらダンジョンのトップとも仲良くできる気がする。
しかし改めて見ても美人だ。
クールな感じがまた素晴らしい。
――くそっ! 人間の頃に出会ってさえいればっ!
いや、まだ遅くはない! 希望を捨てるな、今こそ失った青春を取り戻すのだ!
まずは先輩として舐められないよう、それでいてフレンドリーな感じで挨拶を――
…………ぶっ飛ばされました。
お、おかしいな? 言葉が話せないから骨身でもってボディランゲージを駆使して挨拶したというのに。
っていうかメイドさん強すぎるぞ。
俺だけでなくセバス氏までぶん殴られて痙攣してる。
どうやらとんでもない人が加入したようだ。
その後、メイドさんことリディアさんはダンジョンのヒエラルキーの頂点に君臨した。
……あの冷たい目でゴミを見るかのように見られるとゾクゾクするのは気のせいだと思いたい。
変化その二 冒険者現る
その日、いつものように冒険者侵入の報を受け、向かった先にいたのは一人の冒険者だった。
その冒険者を一言で言い表すと――エロい、これに尽きる。
年の頃20代前半、街中でも男が振り返るであろう整った顔立ち、垂れ目がかった目に泣き黒子が色っぽい。
身を包む衣装は地味で清楚なものだが、それが逆に女性の匂い立つような色香を強調している。
……そして何よりも目を引いたのは母性の象徴のような胸。
はちきれんばかりに服を押し上げるその胸元に、思わず童心に帰り跳び込みたくなってしまう。
――そうやってじっくりと相手を鑑賞していたからこそ気づいた。
……女性の格好が神官服のような感じだということに。
神官? ――ッ!?
ヤベェッ! ――思った瞬間、必死に真横に飛びのいた。
「【聖光陣】!」
飛び退くと同時に放たれた光魔法が一緒にいたスケルトン達を消し飛ばした。
……冗談じゃねー、光魔法の使い手とかアンデット系には天敵じゃねーか!
即座に回れ右して猛ダッシュ。
これは逃走ではない、明日に向かっての転進だ!
少しばかり後ろを振り向いてみると――ヌォッ! 追いかけてきていらっしゃる!?
いっそ怒り狂った様子であればいいのに、穏やかな笑みのまま増援のスケルトンを葬っていく様はひたすらに恐怖を煽る。
――こ、怖ぇええええええええええええ!?
必死に逃げる俺の視界に入ったのはセバス氏。
そうだ、セバス氏ならきっと、きっとやってくれるっ……!
そう信じて駆け抜ける俺の耳に……
「ノフォオオオオオオオオオー!?」
セバス氏の断末魔の悲鳴が跳び込んで来た。
――さらばセバス氏、あんたの犠牲は忘れねぇ。
……そうして尊い犠牲を払いつつも、俺はこの日どうにか生き残った。
変化その三 サキュバス加入す
――そう、それはまさに運命の出会いだった。
つい先日、俺の命を奪う寸前までいった女神官がサキュバスとして生まれ変わりダンジョンの一員となったのだ!
うぉおおおおおおッッッ! 色っぺぇええっ!
サキュバスになったことで色香三割り増しって感じだ。
……でもなんでサキュバス衣装じゃないんだっ!? がっかりだよ!
しかし実に素晴らしい。
現状このダンジョンで、元人間の知性持ちは俺と彼女のみ。
すなわち俺たちはまさに苦しみを分かち合えるパートナーと言えるだろう。
――そう、俺がスケルトンとして甦ったのは、まさに今日この時のためだったのだ!
というわけで早速親交を深めるとしよう――
「【聖弾】!」
…………危うく消し飛ばされるところだったぜ。
ぬぁぜだっ!?
ってか悪魔系なのに光魔法とか反則だろ!?
――その後何度かアプローチを繰り返したが、容赦なく光魔法を叩き込まれた。俺の一体何が悪いんだ……?
――余談だがリディアさんに詰め寄っているセバス氏が「お嬢様」とか叫んでいることから察すると、ダンジョン主は女の子らしい。
魔物の女の子か……リザードとかゴブリンとかそんな感じだろうか?
いまだ謁見できないダンジョン主に不安を抱きつつも、新たに部下となった『木人』を連れ、俺のハイスケルトン生はまだまだ続いている。
彼を名前で呼んでくれるのはセバスだけです。




