8 続 準備の時間
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――さて、とりあえず『移転』でもって逃げてきたわけだが……改めて反省せねばなるまい。
いろいろと順調に進みすぎて油断していた。
自分はランクF、ダンジョンの中でも最弱レベルであるという認識が甘かった。
今までは偶々上手く事が運んでいただけ――そう考える必要があるだろう。
今回の失態の理由は冒険者を甘く見すぎていたことだ。
今まで次々と冒険者がやって来ていたが、裏を返せばそれは彼らにとってダンジョンが死地とは言えない、つまり彼らにはダンジョンを狩るだけの能力があるということをきちんと認識する。
……なので当然情報収集だ。考えてみれば、ここはファンタジーっぽい世界。
魔法のようなものもあってもおかしくない。
というかノエルにも『技能:吸血』とかあったし……吸血鬼なら当然かなーってスルーしてましたよ。
直接、街なりなんなりに赴いて情報収集できればいいのだが、ダンジョンである自分には無理だ。
リディアは多分知っているだろうが、意思疎通ができない。
ノエルはまだまだ幼児。
セバスとリーダーは論外。
というわけで、必然的に相談役に頼ることになる。
てな訳でー、さっきの侵入者の能力ってば何なのさー?
《…………光魔法:聖光陣です》
……心なしか天の声がいつも以上に冷たく感じたのだが。
フレンドリーな感じを試してみたのが悪かったのだろうか?
いや、気のせいだな。
うむ! 気のせいに決まっている……。
――気のせい、だよな?
しかし魔法かー。やっぱあるんだなー。
『技能』とは違うものなのか?
《魔法は『技能』のカテゴライズ内に入ります》
……なるほど、「技能:~魔法」みたいな感じか?
ふむ、やはりこの辺りは詳しく訊かねばなるまい。
お待ちかねの質問タイムだ!
…………めんどくせー。
……うん……やっぱりめんどくさかったよ……もう休んでもいいかな? パト〇ッシュ。
……やっぱりボケに突っ込んでくれる人がいないと寂しーなー。
戦力とは別の意味でノエルの成長が待ち遠しくなって来る。
ともあれ情報の整理である。
まず『技能』とはお約束のように特殊能力の類だった。
種族の特性として発現する物もあれば、長年の修練が形となるものもある。
魔法もこの中に入る。
極稀に全く前例のない『技能』が発現することもあり、それらは総じて強力であり『固有技能』と呼ばれる。
次に魔法とは魔力を用い特殊現象を起こす技術であり、通常、火・水・土・風・光・闇の六属性。
個人の適性に応じて習得属性は決まっており、普通は一属性のみだが、たまに複数属性を扱えるものもいる。また光・闇は適正持ちが少ない。
極稀に六属性以外の魔法を使う者もいるが、これは『固有技能』に分類される。
ちなみに光魔法は浄化・回復系統の魔法である。
……スケルトンが一撃で消し飛ばされるわけである。
これらの情報を踏まえて今後の方針を練らねばならないのだが……いっそノエルに全魔素を注いだらどうかという誘惑が頭を過った。
結局のところダンジョン主さえ殺られなければいいのなら、それも一つの策ではないかと思ったのだ。
しかし魔素吸収個体に関する情報がそれを実行に移すのを押し止めた。
念のため天の声に伺いを立てても《回答不可》である。
……とてつもなく地雷臭がする。
具体的に言えば理性を失い凶暴化したり、肉体が耐えきれず破裂したりといった結果だ。
やはり素直に魔物創造とダンジョン強化を行った方が無難そうである。
ノエルには地道に少しずつ魔素を与えよう。
前回の襲撃でスケルトン部隊はリーダーを除き消し飛ばされてしまったが、幸いにも残存魔素は2000Pほど残っている。
これを使いまずは魔物の補充だ。
ただし今までのようにスケルトンだけだと今回のような展開になるので、他の種族を創造する必要がある。
そのためにすべきことは――材料集めである。
幸運なことに移転先は何処かの森の中だった。
セバスとリーダーに指示を出し、材木と石を集めてきてもらった。
……何か廃品回収というかゴミ拾いのような状況だが、魔素の消費を抑えるためである。気にしてはいけない。
集めてもらった材料をもとに魔物創造。
今回創造したのは『木人』と『石像』である。
残念ながらどちらにも知性はなし。
知性が生じるのにも何か条件があるのだろうか?
サンプルがセバスとスケルトンリーダー――部隊がないのでただのスケルトンか――しかいないので、検証が出来ないのが残念だ。
……余談だがスケルトン部隊が殲滅された際の魔素獲得は微量だった。
予想通りであるが魔物を創造するのに係る魔素の方が、死亡による魔素獲得より多いようだ。
そしてダンジョン強化としては、玉座の間の手前に大部屋を創造。
この部屋を最終防衛ラインとする。
さらに念のため初回特典の罠を仕掛けておく。
おそらくこの部屋の受け持ちはリディアになるだろう。
……というかダンジョン主よりも彼女の方がボスっぽいが。
おまけとして、今回こちらに大打撃と貴重な教訓を与えてくれた神官っぽい女冒険者は、お礼も兼ねて悪魔系魔物『サキュバス』の材料になってもらった。
こちらは喜ばしいことに知性ありである。ネリスという名前らしい。
しかしスケルトンの時と違い逃げ出そうとすることもなく、現状をあっさり受け止めているようだ。
存外、肝の座った女である。
その代わりに服を用意することになった。
……どうやらサキュバスの衣装はお気に召さなかったようだ。
サキュバスへの変化に伴い、人間だった時よりも能力は下がってしまったようだが、素質そのものは変わらないだろうから今後の成長に期待である。
……これらのダンジョン強化によって溜め込んでいた魔素はすっからかんである。
スケルトン部隊が消し飛ばされて気がついたが、魔物創造にかかる消費魔素と魔物が死んで回収できる魔素の比率ははっきり言って悪い。
材料と適性のコンボでもトントンといったところだ。
やはり外部からの侵入者を始末するか、長期的に魔素回収するしかなさそうである。
これからしばらくは魔素稼ぎも兼ねて冒険者相手の防衛戦だ。
強力な冒険者が来ないことを、自分は存在するかも分からぬ神に祈ることにした。
ダンジョン測定値
名称:
ランク:F中位
保有魔素:19530P(残20P)




