世界観の相違。あるいは、彼らがどう人間に尽くしてきたか
「たまさん、たまさん、今日も見まわりご苦労さまです」
「あ、こんにちは。今日も暑いですねラッキーさん」
「それより聞きました。向かいの田中さん家の息子さん。今朝もまた怒鳴られたらしいですよ」
「ああ家の中まで聞こえてきましたよ、まったく」
「どうやらまた息子さんが仕事をやめて家でゲームばかりしてるらしいですよ」
「みたいですね。ほんとにバカバカしい話です」
「そうですよね。そんなことで大声あげて怒るなんて田中さん家の奥さんは病気なんじゃないでしょうか」
「まったくですよ。一日中寝てるか散歩してるかの選ばれた民に息子さんがなるのがそんなに悔しいですかね」
「ほんとですよ。息子の出世くらい喜んであげればいいのに親子間の嫉妬ほど醜いものはないですね」
「これが初めてじゃないんですよね。彼は世間でいうところの馘首とかバックレとかで何度も位階が上がってるんですよ。もし無理やり豚小屋につめ込まれなかったら今頃私達より偉くなってたかもしれません」
「ははは、冗談はよしてくださいよ。彼3時間の寝坊程度で満足してる若造ですよ。私やたまさんは夕方にならないと動き出さないじゃないですか。暑いですし」
「お気を悪くしたらすみません。ここいら辺の奴隷たちの中で有望なのが彼ぐらいしかいないもんで」
「そういえば、今朝はどうしてこんなに早く見回りをされてるんですか?まだ今のうちならそこまで暑くないですけど」
「ああ、そうなんですよ。私の家今朝から燃えてるんですよ」
「燃えてる?」
「ええ、どうやら家で飼ってるタツヒコの浮気相手が結婚してくれないならいっしょに死ぬとか何とか抜かしながら火をつけましてね」
「ええ!それって大変じゃないですか。大丈夫なんですか?」
「ええもう暑いのなんのって大変ですよ。外のほうがまだましだと思って逃げ出してきたんですけど・・」
「住む場所は大丈夫ですかたまさん」
「ええ他にも当てはあるんですよ。あそこが一番私のテリトリーの中心に近かったから住んでただけで」
「しかし一つ別荘を失うのは惜しくありませんか?」
「大丈夫ですよ。蟻って観察したこと有りますか?あいつら完全に破壊された家も一日で治すんです」
「蟻と人間は違うでしょう」
「まあ私達と比べると大同小異のような気がしますけどね。仕事が早いぶん蟻の方が優秀ですかね。とにかく彼らには早く私達に追いついてもらわないといけないんですが」
「でも私達の世話をしてくれるものは必要じゃありませんか?」
「世話の向上のためですよ。未だにまともに言葉も通じないんですよ。私がなでて欲しいのはここだっていっても顎の下ばかりバカの一つ覚えみたいにやってくるんです。専門技術のいらない仕事はだれにでもできます」
「たしかに医者とかいう私達の腹の毛を剃るしか能のない人間ばかりじゃこまりますね」
「まったくです。その点田中さん家の息子さんは私と2時間も遊んでくれました。あそこまで優秀な若者はいまどきいないですよ」
「そんな優秀な若者が弾圧される世の中じゃこの先思いやられますね」
「私も微力ながら啓蒙を進めていこうと思っているんですが、彼ら自身に協力する気がないとなかなか・・」