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「でもそうなったら僕が犯罪者になるよ?」
「気の毒だけど、そうなってもらうしかないわね」
わからない。自殺と思われようが他殺と思われようが、いずれにしても死んでしまえば後の事はどうでもいいだろう。自分が気にするほど、他人は自分のことをどうとも思っていないものだ。どこかの心理学者がそう言っていた。それに、彼女の妙なこだわりのために僕が犯罪者にされるのは迷惑な話だ。
「悪いけど、断るよ。そろそろ昼休みも終わりだ。教室に戻る」
「いいわ。じゃあ、私を押さなくていいから、もう少しこっちに来てくれる?」
『おいでおいで』といわんばかりに上下に動く彼女の右手。僕はよくわからないまま、その手に導かれるように彼女に近づいた。
「そう。もっとよ。もっと私に近づいて」
僕は言われるがまま、彼女に近づいた。
「私の右手を握ってくれる?」
またしても言われるがまま、僕は彼女の右手を握った。すると、彼女の右手になにやら、ひんやりとした液体が付着しているような感触があった。
と、次の瞬間。
「うっ!?」
彼女が突然、背中をのけぞった。彼女の右手と僕の右手はくっついたまま離れず、彼女に引っ張られるように、僕も屋上の手すりを超え、彼女とともに下へと…!