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翌朝。起きると右手の手のひらがヒリヒリと痛む。右腕は少しズキズキする。昨日、御手洗陽菜に右腕を引っ張られる際に、少しひねったようだ。
学校へ行くと、学校中に昨日の屋上の出来事が知れ渡っていた。生徒二人が屋上から飛び降りたのだ。無理も無い。逆に話題にならないほうがおかしいだろう。
昨日まで見向きもされなかった僕は、今日は皆の注目を浴びていた。まわりの視線が、僕の全身をかゆくさせた。しかし、僕に直接、話を聞きにくる者はいなかった。むしろ、その方が有難い。僕は人と話をすることは苦手だ。話しかけられてもまともな返答はできないだろう。
昼休み。今日はどう過ごせばいいだろうか。昨日のように屋上に行くのはためらいが生じる。かといって教室は居心地が悪い。机にうつぶせになって寝ているフリをしてやりすごすのもいいが、起きたときに机に水滴がつく。それをほかの人にみられるのが妙に恥ずかしい。
考えた末、僕は一階の図書室へと向かった。本はあまり読まないタチだし、あまりに静か過ぎて息苦しいから行きたくなかったが、教室よりはマシだ。
図書室の戸を開けると、中には誰もいなかった。いつも図書委員が座っているカウンターにも誰もいない。トイレにでも行っているのだろうか。これなら人目を気にせず昼休みを過ごせる。都合がいい。
そう思って、窓際の席の椅子に腰掛けて、外の風景を眺めていると、図書室の入り口の戸が開く音がした。
「あ…」
僕は思わず声を出した。戸を開けたのは、なんと御手洗陽菜だった。