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9.1-04 黒い虫04

「酷いですね……」


 通路の先を照らし出すために放り投げた松明。それを拾い上げ、周囲に目を向けて、ユリアは大きなため息を吐いた。そんな彼女の視線の先に広がっていたのは――


「まさに、迷宮ね……」


――彼女の従姉妹が口にしたその言葉通り、隣の国、ボレアスにあった巨大な迷宮の中のような光景だった。

 ただ、生きている”迷宮”とは違って、空間拡張の魔法も、環境調整の魔法もかかっておらず、単に、深く長く蛇行しているだけの暗い穴蔵が続いていたようである。より適切な例えを上げるなら――人が入れるくらい大きくした”蟻の巣”、と表現したほうが良いかもしれない。


「迷宮だったら、コアを破壊すれば、活動を停止するけど……ここの場合、中の虫を全滅させて、穴の中を詰めるとか対策をしない限り、もうだめかもしれないわね……」


「そうね……潮時かしら?」


 その光景を見て、それぞれそんな感想を口にするユリアとダリア。そんな彼女たちの発言は似て非なるもの。その内容はまるで真逆の方向を向いていた。

 ユリアは、飽くまで、世界樹をそのまま守るための方法を考え、そして、ダリアは、世界樹は倒れるものとして頭を悩ませていたのである。まぁ、片や、科学と魔法が融合した国の高官で、片や、滅ぼされつつあった国の諜報部員であることを考えるなら、従姉妹同士で大きく考えが異なっても仕方のないことかもしれないが。

 ちなみに、そのどちらにも当てはまらない者たちは、また別のことを考えていたようである。


「イブねー……正直言うと、こういうところがすっごく苦手かもなんだけど、マリーちゃん、どう思う?」


「暗い穴の中が得意か苦手か、ですか?マリーはあんまり気にならないですよ?だって、ここには、イブ()()も、ユリア()()()()()も、ダリア……」


「「…………ん?」」


「……ダリア料理長もいるですから!」


「私、料理人じゃなくて、お花屋さんだけどね?」


 と、マイペースな発言で場を和ませていたローズマリーとイブに対して、苦笑を向けるダリア。

 対して、指摘を受けたローズマリーは、ダリアの敬称を悩んでしまったのか、それ以上、彼女の名前が絡む話に触れられなかったようである。その代わりにローズマリーは、ボロボロになっていた世界樹の根の天井へと視線を向けて、残念そうな表情を浮かべながらこう口にした。


「……マリーには、怖くない理由がもう一つあるです。ここは木の中です。虫に食べられちゃうまでは、ただの木だったです。痛がっているのはこの木のはずなのに……それなのに、どうしてマリーたちが、怖がらなきゃいけないですか?」


 そんなローズマリーの素直な言葉を聞いて――


「……うん、そうかもだね。迷宮でも、ダンジョンでも無いかもだもんね……」


――と口にしながら、頷くイブ。彼女は、直前までの自身の発言を思い出して、反省していたようである。

 一方、ダリアも、ローズマリーの言葉には、何か思うことがあったようだ。


「そうね。木だってお花だって、同じ植物なんだから、傷ついて枯れていくのを何もせずにただ眺めて、気持ち悪いとか怖いとか……そんなことを言うのは、あまりに酷すぎるわよね……」


 売れ残った結果、誰にも()でられることも無く、ただ枯れていくだけの花たち。それを勿体ないと思い、ダリアは、これまで、その活用方法を考えてきたのである。”諜報部員の()()()”としては、世界樹の生き死になど、単なる情報の一つにしか過ぎなかったようだが、”花屋の()()()”としては、傷ついた世界樹のことを見過ごすようなことはできなかったようだ。

 その結果、彼女は、従姉妹に向かって、こんな言葉を投げかけた。


「マーガレット……どうすれば良いと思う?この世界樹の傷を治す方法……何か無いかしら?」


 それに対しユリアは、眉間に指を当てたまま、短く一言、こう返答した。


「……無いわ」


「「「えっ……」」」


「普通に考えれば、怪我をした木を治す方法なんて無いわ。まさか、木に、人用の傷薬を塗るわけにもいかないでしょ?時間をかけて、ゆっくり治すなら、どうにかなるかもしれないけど……今の状況だと、そんな悠長なことも言っていられないし……。あと、あるとすれば……誰もやったことがない方法なら、あるいはどうにかなるかもしれないわね」


「誰もやったことない方法?何か、変わった方法があるっていうの?」


「理論上は、だけどね?でも、ここにいるメンバーじゃ、どうようもないけど」


 ただ聞いただけでは、あきらめとも取れる言葉を口にするユリア。しかし、そんな彼女の表情には、笑みが浮かんでいたようである。

 それを見たイブとローズマリーは、彼女が何を言わんとしていたのか、その副音声を読み取って、同時に声を上げた。


「……カタリナ様かもだね!」

「……カタリナ様です!」


「出来るかどうか、聞いてみないと、分からないですけどね?でも、頼んで見る価値はあると思いますよ?」


 そんな3人のやり取りを聞いて――


「……カタリナ?」


――とダリアが首を傾げた、その瞬間だった。


バキバキバキ……ズドォォォォン!!


 まるで壁を突き破るようにして、世界樹の脆くなった根を壊しながら、その向こうから巨大な黒い影が現れたのだ。

 それを見たダリアが、身構えながら声を上げる。


「まさか……女王?!」


 アリの巣のように続く大きな巣穴、大量の小さな虫たち、そして突然現れたその大きな虫の姿……。その状況は、目の前に現れた虫のことを、巨大な”女王”だと物語っていた。

 結果、ダリアは、皆を守ろうとして、再び睡眠魔法を唱えようとするのだが……。そんな彼女の前に、これまた、あり得ないものが現れた。


ブゥン……


 ――それは、巨大な手。人間なら、10人くらいは簡単に包み込まれてしまうくらいに大きく、そして反対側が透き通って見える半透明の手だった。その手は迫りくる黒く巨大な虫を、まるで子供がテントウムシを摘むようにして、指と指の間に挟み込むと――


ブシァッ!!


――断末魔を上げさせる暇なく、まっ平らに潰してしまった。

 その様子を見たイブとローズマリーが、悲鳴(?)に近い声を上げる。


「うーわっ、汚っ!体液を飛ばす方向、少し考えてほしいかもだし!」


「ちょっとかかったです……」

 

 まるで、その光景に慣れているかのように、驚いたような表情は見せず、怪訝そうな表情を浮かべる少女たち。

 そんな2人に対し――


「ごめんね。まさかこっちに飛んで来るとは思って無くて……」


――と、答えたユリアの言葉を聞いて、何が起ったのかを察したらしく、今度はダリアが声を上げた。


「もしかして、今の……マーガレットの魔法?!」


「え?そうだけど?」しれっ


「あなた……何なのあれ……っていうか、何をしたら、あんな、とんでもない魔法が使えるようになるのよ……」


 目の前で繰り広げられた一方的な虐殺の光景を素直に受け入れられなかったのか、そう言って頭を抱えるダリア。

 対してユリアの方は、腰に両手を当てると、魔法で作った小さな手を眉間に当てながら、こう返答した。


「だから言ったじゃない。アーデルハイトお祖母様からシャッハ家の家督を譲られそうになったり、ミッドエデンで雑用を任せられてる情報局の局長だって……。あと、マリーちゃんのお姉ちゃん?」


「はいです!」しゃきーん


 そう言って、ユリアに対し、キラキラとした憧れの視線を向けるローズマリー。


 そしてダリアの方は、事の次第を悟ったようである。


「もしかして私……すっごく大変な勘違いをしてたんじゃ……」


 そんな覆水盆に返らずともいうべき呟きを口にしながら、再び、顔を青ざめるダリア。どうやら彼女が良く知っている従姉妹は、いつの間にか、遠い存在になっていたようだ。



ふむ……駄文なのじゃ。

それが分かっておるのに……修正できぬ……!


じゃがまぁ……それで頭を悩ませるのもまた一興なのじゃ、と思わなくもない今日このごろなのじゃ。

……別に、ぽじてぃぶしんきんぐなわけではないのじゃ?


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