9.0-22 バラの木22
「おはな〜、おはな〜♪」てててて
「どこにあるですかー?お花さーん?」ばっさばっさ
「貰った地図によると、この先みたいですよ?」すたすた
魔法を使って木酢液を精製していたテレサたちと別れた後。
陽気な様子で、深い森の中を進んでいくイブ、ローズマリー、そしてユリアの3人組。
そんな彼女たちが目指すは、花の群生地、もとい花畑で……。
そこで文字通りに花を摘むことが、彼女たちの目的だった。
ユリアの幼馴染で、花屋を営むダリアからの頼まれごとを、3人で片付けにやってきたのだ。
ダリアの話によると、今、ライスの町と、その周辺の森の中では、小さな虫の魔物が異常繁殖しているらしく……。
彼らが植物の葉や花を食べてしまう、という問題が発生しているという話だった。
実際、森の中は――
「木の葉っぱが……穴ぼこだらけかもだね?」
「……ですね」
ダリアの言葉通り、何らかの虫によって食害が発生していて、奥に進めば進むほど、見るも無残な光景が、3人の眼に入ってきていたようである。
ただ……。
森の中を歩く彼女たちの眼からは、肝心の虫の姿が見えなかった。
「でも、虫さんがいないかもだよ?鳴き声も聞こえないかもだし……。マリーちゃんは見た?」
「マリーも見てないですよ?」
「ということは……どこか一箇所で固まってるか、枯れ葉の陰に潜んでるかもだね……」
と、越冬するテントウムシが作る集団のような、少々嫌悪を及ぼすような光景を想像したらしく、1人怪訝そうな表情を浮かべるイブ。
そんな彼女の言葉を聞いて、ユリアもその光景を想像したのか……。
彼女は、眉間にシワが寄らないように両手で眉を横に引っ張りながら、その眼を細めて、こう口にした。
「そういう光景はあまり見たくないですけど……ダリアの話によると、実際、その通りで、彼らは群れを作って行動しているらしいですよ?」
「うわぁ……見たくないかも……」
「枝で突っつくと、ブワッ、って逃げるやつですか?あれ、マリー、大好きです!」ニコォ
「うっ……!と、ともかく、彼らに出くわす前に、お花を持って帰りましょう?お花をたくさん持って帰れば……お煎餅もケーキも、ダリアが作ってくれるという話ですから」
「でも……今の話を聞いてたら……イブ……食欲が無くなってきたかも……」げっそり
そんな会話を交わしながら、どこか気持ちの悪そうな表情を浮かべて、森の中を歩いて行くイブとユリア。
ただ、ローズマリーだけは耐性があったらしく……。
彼女は、嫌そうな表情どころか、嬉しそうな表情すら浮かべていたようである。
それから3人がしばらく道を歩いていくと。
急に視界が開け、太陽の光が入り込んでいる場所へとたどり着いた。
「んー、地図を確認する限り、ここですかね」
というユリアの言葉通り、どうやらここが目的地らしい。
そう、目的地らしいのだが――
「……荒野かも?」
「……荒れ地です」
「……何にも無いですね」
3人が想像していたような花畑は、その『は』の字すら存在せず……。
まるで除草剤でも撒いたかのような、茶色い荒涼とした大地が広がっていたようである。
「……ねぇ、ユリア様?場所、間違ってないかもだよね?」
「んー……多分、大丈夫だと思うんですけど……」
と言いながら、地図を逆さにしたり、横に傾けたりして、確認しようとするユリア。
しかし、抽象的な地図だけでは、周囲の景色と比べても、確証が持てなかったのか――
「仕方ありません。ちょっと飛んで、空から確認してみましょう」
彼女はそんな言葉を口にした。
その言葉が向けられたのは、言うまでもなく――
「え゛っ……?」
3人の中で、唯一、自分の翼を持っていなかったイブである。
「あれ?イブちゃんは確か、高いところが苦手ではなかったですよね?」
「に、苦手じゃないかもだけど、地面に足がついてないのは、流石に怖いかもだよ?エネちゃんに乗って飛ぶなら安心できるかもだけど……ドラゴンちゃんの手に掴まれて飛んだときは、もう……死ぬかと思ったかもだね……」ぷるぷる
「(カリーナちゃんに掴まれて飛ぶって……捕まって飛んだ、の間違いじゃないでしょうか?)そ、そうですか。まぁ、ちゃんと抱きしめて飛ぶので、大丈夫ですよ?」
「うぅ……あんまり飛びたくないかも……」
「……もしも、どうしても嫌でしたら、ここで待ってます?私とマリーちゃんで、ちょっとに、様子を見てきますので……」
「そ、それって、イブだけひとりぼっちになるかも、ってことじゃん……」
そう言って、悲しげな表情を浮かべるイブ。
1人で行動することが苦手ではなかった彼女だったが……。
得体のしれない虫たちが潜んでいるかもしれない森の中に、ただ1人だけ取り残されるは、流石に嫌だったようである。
結果、彼女は、自ら両手をユリアに差し出しながら、こう言った。
「……イ、イブを抱っこして連れて行ってほしいかも……」
「心配いりませんよ?最初から置いていくつもりは無かったですから」
と言って苦笑するユリア。
それから彼女はイブの脇に手を入れて、彼女の事を抱きかかえようとするのだが……。
その際――
ギュッ……
という、何かに服を掴まれるような感覚が、ユリアの腰当たりに伝わってきたようだ。
一体何が、彼女の服を掴んだのか……。
あえて言うまでもないだろう。
「マ、マリーも…………ううん。やっぱり我慢するです……」しゅん
自身の方を振り向いたユリアに向かってそう言いながら、残念そうな表情を浮かべて、姉の服から手を離すローズマリー。
どうやら彼女も、イブと同じように、抱っこしてほしかったようである。
それを見たユリアは、少しだけ眼を細めると……。
ローズマリーに対して、こう口にした。
「マリーちゃん?ちょっと手伝ってもらえますか?」
「……はいです?」
「私だけだと、イブちゃんを持って飛ぶのは大変なので、マリーちゃんにも半分持ってもらえると助かるんですが……」
それを聞いて――
「……はいです!やるです!」きゅぴーん
と、俄然、やる気になった様子のローズマリー。
それから彼女は、ユリアに抱きつくイブの背中――具体的には、掴みやすかった彼女の尻尾に手をやって、それを引っ張って空を飛ぶことになるのだが……。
その際、イブが、どんな反応を見せていたのかについては、諸事情により省略する。
――次回、『さよならイブの尻尾』。
乞うご期待!なのじゃ。
まぁ、イブ嬢の尻尾は、りむーばぶるではないゆえ、取れないのじゃがのー。




