9.0-21 バラの木21
イブがルシアの誤解を解いてから……。
彼女は疲れたような表情を浮かべながら、テレサに対し問いかけた。
「それで……イブに何しろって言うかもなの?テレサ様……」げっそり
先程、テレサが何かを言っていたことを思い出して、質問するイブ。
それを聞いたテレサは、宙に浮かんでいた白い煙へと視線を向けながら、用件を話し始めた。
「いやの?今、この御仁に頼まれて、木から木酢液を抽出しておったところなのじゃ。じゃが、ガスを冷却する良い方法が無くての。ルシア嬢の氷魔法では、少々強すぎるのじゃ。じゃから、お主の貧j……使い勝手の良い氷魔法を使って、冷却して欲しいと考えておったのじゃ」
「……テレサ様。いま、何か言おうとしなかった?」じーっ
「いや、そんなことはないのじゃ?」しれっ
そう言いながら小さく首を横に振るテレサ。
一方のイブは、わざとらしく大きなため息を吐くと……。
テレサたちから少し離れた場所で、腰を抜かしたようにへたり込んでいた悪魔族の女性へと眼を向けた。
そこでは、女性が小さく震えており……。
現在進行形で、何かに怯えている、といった雰囲気だったようである。
その原因に心当たりがあったのか……。
イブはテレサに対して、ジト目を向けながらこう口にした。
……そう。
莫大な魔力を使い重力制御魔法を行使していたルシアに、ではなく、ほぼ無関係なテレサに、である。
「……無関係な人をイジメるのはちょっと感心しないかも」
「いや、イジメてはおらぬのじゃ。お主にも分かるじゃろ?ルシア嬢から漏れ出る、この殺k……魔力が、の?」
「テレサちゃん?今、何か聞こえた気がするんだけど……気のせいかなぁ?」ゴゴゴゴゴ
「ま、まだ何も言っておらぬのじゃ。というか、これ以上、妾の言葉を遮るでないのじゃ……。話が中々、前に進まぬのじゃ……」ぷるぷる
「……あんまり無関係な人を困らせちゃダメかもだよ?」
と、ルシアには一切視線を向けず、脂汗をかいていたテレサに向かって、イブはそう口にすると……。
それから彼女は、宙に浮かぶ雲のような物体に視線を向けて、再びテレサに質問した。
「これを冷やせば良いかもなの?」
「う、うむ……。ゆっくりと冷してもらえると助かるのじゃ?」
「これって、もしかしなくても……報酬を要求しても良いやつかもだよね?」にっこり
「どんどん要求していいと思うよ?もう、テレサちゃんが、ヒイヒイ言うくらいにね?」ゴゴゴゴゴ
「……せ、煎餅5枚で勘弁してくれぬかの?」ぷるぷる
「……じゃぁ行くかもだよ?」きゅぴーん
そう言って宙へと手を翳すと、ルシアとは比べ物にならないほど、小さな氷魔法を行使するイブ。
それは、ボウルに入った水を凍らせられるかどうか、といったくらいに小さな魔法だったが……。
今回のガスの冷却には、最適な強さだったようで――
「……うむ。思った通りなのじゃ。流石なのじゃ?イブ嬢」
「もっと褒めて良いかもなんだよ?テレサ様?」
白いガスは、イブたちの前で、こげ茶色の液体へと変わったようだ。
「では、ルシア嬢?これをこの瓶の中に詰めてほしいのじゃ」
「コレ……何?」
「何って……木酢液なのじゃ?木の中に含まれる水分の他、酢酸やアルコール、その他、発がん性物質などを多量に含む――毒物なのじゃ」
「……捨てていい?」
「だ、ダメなのじゃ。これは、妾たち動物の身体にとっては毒物かもしれぬが、もともと植物の中に含まれておった成分ゆえ、これを薄めて植物にかけると、良い農薬――つまり、植物用の虫よけになるのじゃ。これを捨てたら、ここに来た意味が無くなるのじゃ?」
「へぇー……これがねぇ……」
そう言いながら、重力制御魔法を使って、テレサが持っていた2合瓶(?)の中へと、出来上がった木酢液を注ぎ込んでいくルシア。
そんな2人の会話には、イブやローズマリーと一緒に来ていたユリアも反応したようだ。
「これ、農薬になるんですか?」
「うむ。ミッドエデンでは化学的に合成した農薬を使用しておるのじゃが、基本的な成分は、これと大差は無いはずなのじゃ。もしや、お主たちも、農薬が必要なのかの?」
「ちょっとした事情がありまして、農薬を欲してるかもしれない人物がいるんですよ。最近、虫による植物の食害が酷いらしくて……」
「ふむ……。それはこの御仁も同じなのじゃ。……のう?お主」
そう言ってテレサが振り返ると――
「ミッドエデン……?サキュバス……?」
そこには、先程までルシアの魔法に驚愕していたはずが、今度は違う事に驚愕している酒屋の女性の姿があって……。
まさに、混乱の真っ最中、といった様子だった。
それを見て――
「……そっとしておいてあげるかの」
「そうですね……」
女性に触れないことにした様子のテレサとユリア。
自分たちのことを説明し始めると、それだけで1日は掛かりそうだったので、面倒になったようである。
それからテレサは、木酢液の入った2合瓶を、ユリアに差し出しながらこう言った。
「ユリアよ。なんだったら、この木酢液を渡すのじゃ?必要なのじゃろ?」
「えっ?貰っちゃっても……良いんですか?テレサ様たちこそ、必要なのでは?」
「まぁ、これから同じものを大量に作らねばならぬし、そもそも、魔法ではない方法で作る予定じゃから、問題は無いのじゃ」
「なら……頂きます」
と言って、テレサから瓶を受け取って、自身のアイテムボックスへと収納するユリア。
それから彼女は、テレサたちに向かってこう言った。
「私たちはこれからもう少し森の奥に入って、お花を摘んでこようと思います。……あっちの意味じゃないですよ?知人が冒険者たちに依頼する予定だった仕事を、誰もやらないと言うので、代わりにやろうかと思いまして……」
「冒険者のう……。そう言えば、妾たちも、冒険者として登録しておったのじゃが、最近、まったく冒険者らしいことをしておらぬのじゃ」
「まぁ、今以上にランクをあげようとすると、Cランクの昇級試験を受けなければならないですからね……。そんな時間は無いですし、放っておいても無効になるものでもないので、あまり気にしなくていいとも思いますよ?」
ユリアはそう口にすると、イブとローズマリーに目配せして……。
3人揃って森の奥の方へと進んでいったようである。
その直前、イブが、テレサに対して、期待するような視線を残していった理由については不明である。
そんな3人のことを見送ってから。
テレサは酒屋の女性の方を振り返って……。
そして、彼女に対し、こんなことを口にした。
「さて……。それじゃぁ、今度は、お主がやる番なのじゃ?――今、ルシア嬢とイブ嬢がやったことの再現を、の?」
それに対して女性が何と答えたのか……。
もはや、あえて書くまでもなく、容易に想像できるのではないだろうか。
最近のう……。
書き始める時間が少し遅いのじゃ。
前の話の修正作業を1日のスケジュールに組み込んだことも然ることながら、執筆に取り掛かる時間自体が、以前よりも少し遅くなってしまってのう。
……ただし、もちべーしょんの問題ではないのじゃ?
物理的な問題なのじゃ。
というわけで、仮眠を摂る時間が5分くらいしか無くて、頭痛が痛いゆえ、所々にほころびがあるかも知れぬが、そこは大目に見てほしいのじゃ。
まぁ……大目で見ても無視できぬ部分も……いや、なんでもないのじゃ。
あー……眠いのじゃ……zzz。




