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4前-06 天使

次の場所は、火刑場があった教会の裏にある広場だ。


だが、どうもあたりの様子がおかしい。

先ほどまで快晴だった空には分厚い雲がかかり、今にも雨が降りそうだ。

程よい暖かさだった風も、どこか冷たいものを感じられる。


ところで、先程から、傍聴者の姿がない。

まるで、人払いを行ったかのように静寂に包まれていた。

そもそも、この広場は、教会の高い塀で囲われた裏庭のような場所にあるので、教会側が人の通りを許可しない限り、一般の人間は立ち入ることが出来ない。

言わば、町の中に作り出された密室のようなものか。


そんな雰囲気に、ワルツは警戒を強めていた。


ふと、異端審問官が告げる。


「なるほど、貴女方は本物の魔女、というわけですね」


そこには、先程までプレッシャーによってダウンしそうになっていた男の陰はなかった。

口調も声質も違う。


「ふーん、本気になったみたいね」


異端審問官の様子に、警戒を最大レベルまで上げるワルツ。

火器管制システムのロックも解除する。


「では、これより魔女裁判を行いましょう。処刑という名の、ね」


すると、みるみるうちに姿を変えていく異端審問官。


頭の上に金色のリングが生じたかと思うと、背中に羽が生えてくる。

そして、着ていた服は、白地に金色の刺繍が施されたものになり、眼の色は(あお)、髪の色は白に変わっていった。

更には身長も随分と小さくなり、少年のような見た目になる。


「天使、ね」


そう、どう見ても天使だ。

目の前に天使が現れたことに内心、驚くワルツだったが、表情には出さない。


「私達は、神の代行者(エクセキューショナー)。神の意志に背くものを排除します」


どこか機械のような口調で、相対する者に終末を告げる天使。


次の瞬間、


ドゴーーーン!


雷のようなものが空から落ちてきた。

いや、雷だ。

だが太さや威力が違う。

その雷は一番高いもの、即ちワルツの機動装甲に落ちた。


「私に落ちてよかった・・・」


耐雷設計のワルツ自身には何の問題もない。

地面を伝って電流の一部は周りの人間にも伝わるはずだが、防具の効果なのか、仲間たちにも影響は無いようだ。


「エンチャントを確認しました。中和します」


「え、ちょっと・・・」


どうやら、防具のエンチャントの効果を打ち消したらしい。

つまり、ワルツを除いた4人の防御力がほぼゼロということだ。

これではバングルを出しても、意味が無いだろう。


「っ!ルシア!狩人さん!テンポも!みんな動かないで!」


皆の足を止め、レーザーで首のチョーカーを一瞬で焼き切る。


「狩人さん、テンポは中衛、ルシア、カタリナは後衛で!」


「あぁ、分かった!」


前衛はワルツだ。

だが、機動装甲は可視化しない。

所謂、保険だ。


こちらの陣営が整ったところで、天使の目からレーザーのようなものが飛んでくる。

ルシアのレーザー魔法とおなじようなものだろうか。

だが、光よりも随分と遅い。

レーザーではなくビームのようだ。


「ふおっ!」


不可視の機動装甲を使って弾く。

天使には結界か何かを使って弾いたように見えただろう。

だが、狙いはワルツではなかった。

射線を辿るならカタリナ辺りだろうか。


「させないわよ!」


「では」


天使から再びビームが飛んでくるのだが・・・誰もいない方向へ飛んで行く。

外した?、とワルツが思っていると、急に方向を変えて、やはりカタリナを狙ってきた。


「くっ!」


と、重力制御で曲げて地面に落とす。


「重力操作を確認。対処します」


「・・・相手も学習するってことね」


戦っているのはワルツだけではない。

ルシアも長距離攻撃で、足の早い攻撃を行う。

正真正銘レーザー魔法だ。


「※※※を確認しました。対処します」


天使語(それともこの世界?)ではレーザーとは言わないようだ。

薙いだレーザーが天使に当たるかと思った瞬間、手のひらサイズの六角形状の真っ黒なシールドが現れ、レーザーを吸収した。


「これ、下手に攻撃したら、どんどん学習されていきそうなんだけど・・・」


試しに、学習されただろう重力制御を使って、天使に超重力(1000G)を掛けてみる。


「無駄です」


やはり、無効化された。

ワルツの超重力を無視して、羽から無数のビームのようなものを飛ばしてくる天使。

時折、直角に曲がりながら飛んでくるビームは様々な方向からワルツたちの方へ殺到してきた。


「みんな伏せて!」


その声はルシアだ。


次の瞬間、辺り一面が真っ白に染まる。

無数に飛んできたビームへの対処として、ルシアは魔力粒子ビーム(拡散)を撃ったのだ。

すると、相殺されて消えていく天使のビーム。

強さで言えば、ルシアのビームのほうが強かったらしい。


これで、天使の攻撃を防ぐことが出来た・・・だが、1つ問題が生じる。


「攻撃順位変更」


ルシアがヘイトを溜めすぎたようだ。


すると、今まで長距離攻撃をしていた天使が、こちらに突っ込んでくる。

狙いはルシアだ。

長距離攻撃では、中和されると判断して、近接攻撃に切り替えたのだろう。


「跳んでる最中ならっ!」


と、超重力を掛けてみる。

すると、軌道が曲がって地面に衝突する天使。


「修正」


だが、直ぐに立ち上がってルシアへ向かう。


「なら!」


天使の周り重力をランダムに変更する。

もちろん、超重力で。


「予知・・・修正」


「拙いわね・・・」


流石に、未来予知まで対処できないワルツは顔をしかめる。

そして、再び跳んでくるか、と構えたが・・・そうはならなかった。

天使は地面に足をつけて歩いて移動を始めたのだ。

超重力を無視してまで()ぶことはできないようだ。


「ふっ!」


気配を消して、いつの間にか天使との間合いを詰めていた狩人がテンポから貰った予備のダガーで斬りかかる。


「無駄です」


狩人の攻撃を事前に予知していたのか、ダガーの軌道上にレーザーを吸収した時と同じようなシールドが立ちふさがった。


「狩人さん!引いて・・・って無理ね!」


重力制御で、強引に狩人を天使から引き剥がす。

すると、間一髪、狩人の身体があった場所を羽で作った刃が通り過ぎた。


狩人には怪我はない。

だが、ワルツの強引な重力制御で気を失ってしまったようだ。

ワルツは狩人を安全な壁際まで後退させた。


だが、問題はルシアだ。

依然として、天使はルシアを標的として捉えている。


「っ!」


これ以上、攻撃手段が無いと諦めたルシアは、苦渋の表情で魔力粒子ビーム(収束)を使った。


ギュィィィン!


地面と、教会の壁、更には王都内の住宅、商店、城壁を貫いて飛んで行くビーム。


ルシアはこの魔法を使いたくなかった。

使えば、町の中で誰かに当たってしまうかも知れないからだ。

爆発こそしないものの、当たれば大怪我は免れないだろう。


しかし、お陰で天使にダメージを与えることが出来たようだ。

天使の左肩から腕までが消失していた。


だが、


「リペア」


と、短く唱える天使。

すると、光の粒子が天使の左肩に集まっていき、何事もなかったかのように腕を形作った。

回復まで2秒もかかっていない。


攻撃をしても学習して無効化し、ダメージを受けても直ぐに自己修復する天使。

最早、ワルツ達には万策が尽きようとしていた。




何よりも、この場所が王都の中ということが、ワルツ達の行動の選択肢を狭めていた。

全力で戦闘すれば、町の人々を巻き込んでしまうのだから。


(せめて、町の外へ移動できれば・・・)


そこで、ワルツは気づく。


「ルシア!転移魔法で、天使を町の外へ転送できないかしら!?」


「うん!やってみる!」


ルシアは転移魔法を天使に掛けた。

行き先はどこか遠い所。

ルシアも本人もどこに飛ばしたそうとしたのかは分からなかった。


すると一瞬で消える天使。


「よしっ!」


だが、あまりにも呆気ない、とワルツの脳裏に不安がよぎる。


(天使がいなくなった今のうちに、体勢を整えるべきかしら)


「カタリナ?念のため、狩人の様子を見てあげて」


「分かりました」


カタリナは狩人のところに走っていった。


「テンポは念のため、ルシアにバングルを渡してもらえる?」


例え、エンチャントが無効化されるとはいえ、無いよりは良いだろう。


(あ、カタリナにもバングルを持たせればよかった)


などと思うワルツだったが、狩人を気絶させた張本人だ。

回避のための重力制御には、怪我が無いように丁寧に気を使ったので、カタリナの出番は無いことは間違いない。

だが、念には念を、だ。


(後で渡しておこう・・・)


走って行くカタリナの後ろ姿を見ながら、そう思っていた。




だが、そんな一瞬の油断(思考)が拙かった。

いや、少なくともワルツは気を抜いていたりはしなかった。

レーダーや生体反応センサは常に臨戦態勢で警戒していたし、機動装甲のカメラによる全方位の監視も怠らなかった。


だが、カタリナにたったの一瞬、視線が集中したその瞬間。

ワルツは()()に反応できなかった。

むしろ、反応できたとしても、守ることは出来なかっただろう。


誰を?


・・・ルシアだ。




ルシアの目の前、1m程度の近接距離から、何もない空間から音もなく(やいば)が現れ、彼女を襲った。


ガリッ!


その音は、何の音だろうか。


防具に当たった音だろうか。


骨を断った音だろうか。


それとも・・・。


ワルツが刃を認識して、その音を聞いた時点で、目の前が真っ暗になった。




だが、まだ戦いは終わっていなかった。


「きゃぁっ!!」


「っ!させない!」


ルシアとテンポの声に、ワルツの意識が戻る。

ワルツが見た時、異空間から現れた刃をテンポが受け止めていた。


どうやら、バングルを渡すためにルシアの真隣(まとなり)に居たテンポが反応して、反射的に動いたようだ。

残念ながら、ルシアの胸に刃が刺さっていたが、バングルの効果でかすり傷程度だ。

痛みに、顔を顰めてはいるものの、テンポが刃を握りしめているお陰で、それ以上は刺さらなかった。


ところで、テンポはどうやって、刃を握りしめているのか。

バングルを装備した上で、素手でだろうか?


否。


テンポ自身の手は、虚空を掴んでいる。


だが、間違いなく、天使の刃はテンポの繰り出した手によって受け止められていた。

金属質の大きな()だ。


ワルツにはどう見ても、刃を受け止めているものが()()()()()()にしか見えなかった。

それも、ワルツの機動装甲の、だ。


「テンポ・・・」


「ごめんなさいお姉さま。奪いました」


「・・・」


先ほど、ルシアが重症を負ったかもしれないと思ってから、自分の不甲斐なさに、どうにもテンションが低いワルツだが、内心ではテンポに感謝していた。

例えそれが、自分の機動装甲(身体)()()()()()して奪って得た力だとしてもだ。


ワルツの「機動装甲の手」は、その構造上、油圧アクチュエータなどを連結して繋げる事ができない。

そのため、重力制御を用いて擬似的に手の形を再現しているのだが、テンポは、この重力制御の部分をハッキングしたようだ。


恐らく、教会の地下牢から逃げ出すときもこれを使ったのだろう。

普段から手の開け閉めを繰り返しているもの、そのための練習だったのかもしれない。


「っ!」


無駄に考えることをやめてワルツはルシアを凶刃から引き離した。

相当な勢いで遠ざかったルシアはその加速度で気絶してしまったが、この際、やむを得ないだろう。


直後、ルシアがいた位置に刃が伸びた。

内心、安堵のため息をつく、ワルツだったが・・・。


テンポから意外な一言が発せられた。




「すみません、お姉さま。後はお願いします」


「えっ?」


ザン!!


今度こそ、血しぶきが上がる。


(え?)


ワルツの中で疑問が渦巻く。


(?)


何故、テンポは謝ったのか。


(??)


何故、血しぶきガ上がっタノか。


(???)


誰ノ、血、ナノカ?


(?????????????????Error)

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