9.0-19 バラの木19
「いやー、夕食会が立食形式じゃなくて良かったわね?」
「…………」にゅるっ!
「ん?あなたもそう思う?シュバル」
「…………」にゅるっ!バクッ!
「あの……どうしてボクのことを齧るんですか?シュバルちゃん……」うるうる
その日の夜。
魔王ベガの執事であるメシエに招待されて、城の食堂へと集まったワルツたち。
そこには、透明ではないワルツやカタリナたち、それに勇者やユキたちがいて……。
彼女たちは、主催者であるメシエたちと長いテーブルを挟んで、椅子に腰を下ろしていたようである。
なお、賢者が首にコルセットを着けて、なおかつ、ユキとできるだけ離れた位置に座っていた理由については不明、とだけ言っておこう。
ちなみに――
「そういえば、ルシアちゃんたちの姿が見えませんね?」
そんなユキの言葉通り、ルシア、テレサ、ベアトリクスの3人の姿は、そこに無かった。
本来、彼女たちは、ここにいるはずだったのだが、どういうわけか来ていなかったようである。
その理由をワルツが話し始めた。
「さっき、連絡があったんだけど、町で寿司を作るから、私たちがライスにいる間は町にいる、って言ったわよ?」
「そうですか…………え?皆さん、ここでもお寿司を作るつもりなのですか?」
「えぇ、そうみたい。寿司の布教活動(?)でもしてんじゃないの?よく分かんないけど……」
そんなことを口にしながら、ワルツが稲荷寿司教の存在の有無について頭を悩ませていると……。
今度はアルボローザ側から言葉が飛んでくる。
「……それでは皆様。食事の準備が整ったようですので、まず簡単に、メンバーのご照会を兼ねて、夕食会のご挨拶をさせていただこうと思います」
先程までワルツとシュバルの姿を見て険しい表情を浮かべていたメシエが、宴の始まりを宣言したのだ。
「まず最初に私めですが、この国の王であらせられますベガ様の執事で、宰相を務めておりますメシエと申します。以前は、皆様に失礼を働きましたこと、重ねてお詫び申し上げます……」
そう言って、何度目になるか分からない謝罪の言葉を口にするメシエ。
その他にも、その場にいた他のアルボローザ王国関係者たちも一斉に頭を下げていた所を見ると……。
どうやらこれが、正式な謝罪、ということらしい。
尤も。
ミッドエデンの代表として来ているはずのテレサも、アルボローザの国王たるベガも、ここには来ていない以上、本当の意味での”正式”とは言えないのだが……。
それから彼らが、再び席についてから……。
メシエは、自身の両隣に座っていた4人について紹介すべく、再びその口を開いた。
「それでは早速ですが、この国で卿相を務めております彼らの紹介をさせていただきます」
そう言って、自身の右手に座っていた人物へと視線を向けるメシエ。
そして彼は、一人一人について、説明しようとするのだが……。
彼が口を開く前に、ワルツがこんな言葉を割り込ませる。
「アレでしょ?四天王。確か、前に殺したはずなんだけど……何で生きてんの?メシエさんと違って、悪魔じゃないわよね?」ジロッ
「「「「ひっ?!」」」」びくぅ
と、ワルツの視線が向けられた途端、椅子の上で固まる、筋骨隆々な男たち4人。
そんな彼らは、ワルツがミッドエデンの王城を奪取する際、命乞いを無視して一方的に虐殺したはずの者たちで……。
容赦した覚えの無かったワルツとしては、彼らがどうして生きているのか、分からなかったようである。
まぁ、完全に消滅させたわけではないので、絶対に死んだとは、ワルツとしても言い切れなかったようだが。
その彼女の問いかけに対し、苦々しい表情を浮かべていたメシエが返答する。
「……あまり詳しくは申し上げられないのですが、我が国には優秀な施術師がおりまして……半年前のあの日、ベガ様の”一斉転移魔法”の影響を受け、戻ってきた彼らは、”彼の者”の治療を受け、一命を取り留めたのでございます」
「ふーん。なるほど……」
と相槌をウチながらも、メシエの言葉の聞いて、怪訝そうな表情を浮かべるワルツ。
その際、彼女は一瞬だけ、隣りにいた女医の方を振り向こうとするのだが……。
しかし、それを直前で思い留まったことには、誰も気づかなかったようである。
それ以外にも、ワルツがこんな言葉を続けたことも、彼女の行動の不自然さが霧散する一因だったと言えるだろう。
「死にかけていた人のことも復活させられるくらいの優秀な施術師ねぇ……。その割に、ベガ本人は、助けられてないんじゃないの?まぁ、今、助けようとしてる最中なのかもしれないけどさ?」
その言葉を聞いて――
「き、貴殿!あの方を愚弄するk……ひぃっ?!」ガクガク
と、抗議の声をあげようとして……。
しかし、ワルツのプレッシャーを浴びた結果、小さくなってしまう四天王の一人。
彼は、以前、イブラハムと名乗った人物で……。
そして、他の四天王からは最弱と言われていた者だった。
ただ、その場で、ワルツに一言も言い返せなかった他の四天王と比べる限り……。
少なくとも彼の精神は、最弱、というわけでは無さそうである。
そんな彼が萎縮する様子を見て、プレッシャーを受ける対象ではなかったメシエが、申し訳なさそうに口を開く。
「……ワルツ様。できれば、その……鋭い視線を……和らげていただけると幸いなのですが……」
「おっと、ごめんなさい」
「「「「…………はぁ」」」」
ワルツのプレッシャーが急激に薄くなったのか、大きなため息を吐く四天王たち。
そんな彼らの姿を見てから、メシエが再び話し始めた。
「この者たちは、命を救ってもらった施術師のことを尊敬しているのです。どうかその旨、ご理解いただけないでしょうか?」
「……そう。それは悪いことをしたわね」
と目を細めて、メシエの言葉を受け入れた様子のワルツ。
ただ、彼女は、メシエの言葉を聞いて納得した、というわけではなかったようである。
むしろ、逆に、納得できなかった、と言うべきかもしれない。
結果、彼女は、この話題の最後に、一言だけ追加することにしたようだ。
「ただ……これだけは言わせてもらうわね?」
「はい、何でございましょう?」
「もしも……あなたたちのベガに対する忠誠心が本物で、そしていつかどうにもならないことが起ころうとした時……その時は、私たちに相談すると良いわ?こっちも貴方たちには悪いことをしたと思うから、その分、1つくらいなら、願い事を聞いてあげるから」
「あの……それはどういう意味で……」
「ううん、なんでもないわ?……そんなことより、食事よ?食事。すっごい美味しい食事が出るって聞いて、楽しみにして待ってたんだから!」
と、いつもとは違い、マナーなど気にせず、フォークとナイフを両手に持って、スタンバイ状態であることを主張するワルツ。
そんな彼女が何を言わんとしていたのかは、メシエたちには遂に分からなかったようだが……。
唯一、ワルツたちが、食事を欲していることだけは分かったようで。
それからと言うもの、アルボローザ王国が誇る最高級世界樹料理(?)の数々が、その場にあったテーブルの上いっぱいに、並ぶことになったのであった。
眠いのじゃ〜☆
もうダメかもしれぬ……。
今日は仮眠を摂っておらぬゆえ、もう、フラフラな状態で書いておるのじゃ。
じゃから、いつも以上に微妙じゃったかもしれぬが、その辺はご容赦いただけると幸いなのじゃ?
はぁ……。
もう、睡魔に勝てぬ……。
というわけで、顔でも洗って、眼を覚ましてこようかのう……zzz。




