9.0-11 バラの木11
ワルツたちは王城へと向かったものの、メンバー全員が行った、というわけではなく……。
行かなかったメンバーも当然いて、彼女たちはライスの町の中を、観光がてら歩いていたようである。
具体的には、イブたち一行だ。
ただ、どういうわけか……。
町の中を歩くイブの表情は、優れなかったようである。
「ユキちゃん……大丈夫かな……」
どうやら彼女は、離れて行動している姉のことを慮って、心配になっていたようだ。
そんなイブの隣を歩いていたローズマリーが、その理由を問いかける。
「どうしたですか?イブ師匠?」
「さっきさー……エネちゃんの中のラウンジで、カタリナ様とリア様、喧嘩してたかもじゃない?アレを見て思ったかもなんだけど……もしかしてリア様って、性格がすんごい人かもなんじゃないかなー、って。だって、すごいと思わない?あの恐ろしいカタリナ様を相手に、喧嘩しちゃうかもなんだよ?イブなら、ちょっと無理かもだね……」
「えっとー……カタリナ様ってそんなに怖い人ですか?マリーは、そんな感じ、しないですよ?」
「それはねー……まだ、マリーちゃんが、カタリナ様の本当の姿を知らないかもだからだと思う……」
どうやら、イブとしては、大嫌いなカタリナと喧嘩するほどの超人(?)と一緒に、大好きな姉が行動することになったことが、心配で仕方なかったらしい。
なお、彼女たちが今頃どんなことになっているのかについては、言うまでもないだろう。
それからイブは、近くを歩いていたもう一人の同行者に向かって、自身の見解に対する意見を求めた。
「ねぇ、ユリア様?ユリア様は、カタリナ様について、どう思うかもなの?」
「えっ?カタリナ様が怖いかどうか、ですか?」
「うん。イブにとっては、カタリナ様って、怖い人にしか思えないかもなんだけど……ユリア様って、あんまり怖がってる感じがしないかもだから……」
と、難しそうな表情を見せながら問いかけるイブ。
するとユリアは、少し考え込んだ後で、イブに対してこう返答した。
「これは迷わずに言えることですが、私がカタリナ様のことを怖がることはありません。様付けで呼んではいますが、大切な友人ですしね。多分……イブちゃんが彼女のことを怖いと思うのは、彼女に助けられたことが無いからだと思います」
「そうかもかな?だって、カタリナ様、イブのこと見つけたら、怪しげな笑みを浮かべながらすぐに駆け寄ってきて、痛い注射を刺してくるかもなんだよ?」
「えっ……」
「この前だって、ただ虫に刺されただけなのに、なぜか塗り薬だけでなくて、余計に注射も刺されたかもなんだから……。あれもう絶対、イブのこと、注射の練習台か何かだとしか考えてないと思うかもだね!」
「……話を聞く限りだと、たしかに理不尽ですね……」
と、思ったよりも、カタリナのイブに対する扱いが酷かったためか、眉を顰めるユリア。
しかし、彼女は、飽くまでカタリナのことを疑うようなことはせず……。
その代わり、イブに対し、こんなことを口にした。
「詳しいことは本人に聞かなければ、判断は付けられませんが……カタリナ様が、イブちゃんに対して、よく注射しようとする理由が思いつかないわけでは無いです。例えば……虫に刺されただけで病気になる場合があることを、イブちゃんはご存知ですか?」
「えっ……痒いだけじゃないかもなの?!」
「そうなんですよ。これは聞いた話ですけど……病気になっている人や魔物がいたとするじゃないですか?そんな者たちに虫が取り付いて血を吸って……その後でイブちゃんの腕に、チクリ、と来たとします。そうなると……イブちゃんはどうなるでしょう?」
「イブも……病気になるかも?」
「可能性としては十分に考えられますよね?必ず病気が感染るわけではないみたいですけど……カタリナ様だけじゃなくて、ワルツ様も言ってましたよ?……可能な限り、虫には刺されないほうが良い、って。コルテックス様が作った統計でも、魔物に襲われて死ぬ人間の数なんかより、虫刺されが原因で病気になって死ぬ人のほうが、2桁近く多いという結果が出てるんですから」
「2桁…………え゛?!2桁?!2割じゃなくて、2桁かもなの?!」
「はい。ミッドエデンの場合、魔物に襲われて命を落とす国民の数は、毎年およそ1000人程度。ところが虫刺されが原因となった病気で死ぬ人の数は……」
「「……死ぬ数は?」」
「8万人」
「ちょっ……」
「8万人?8万って……8が1個と0が4つですか?」
「その通りですよ?マリーちゃん。これは飽くまで推測値ですが、最低でもそのくらいの人々が命を落としているようです」
「じょ、冗談かもだよね?」
「ちょっと想像できないです……」
「いえ、本当のことです。ですから、カタリナ様は、イブちゃんやマリーちゃんの血を、病気にかかっていないか、ことある度に検査しているのではないでしょうか?私だってそうですからね」
「イ、イブ……もしかして……カタリナ様に対して、すっごい失礼な勘違いをしてたかも……」
と口にしながら、絶望的な表情を浮かべ、メイド服の上から腕をポリポリと掻くイブ。
そこには虫刺されの跡があったらしく、未だ疼痛が残っていたようだ。
おそらくはそれをカタリナに見てもらったのだろう。
その様子を見ながら、ユリアが言葉を続ける。
「カタリナ様は誤解されるようなことがあっても、それについて釈明しようとしませんからね。それに気づかず、失礼なことをしてしまったり、言ってしまった、と思ったなら……後で、謝ってあげてくださいね?」
「う、うん……」
「カタリナ様……カッコイイです!」
「マリーちゃんも、いっぱい勉強すれば、カタリナ様みたいになれるかもしれませんよ?」
と、ユリアが、妹に対し、そう口にした――そんな時である。
「あ゛っ?!」
イブが急に奇声を上げたようだ。
「ど、どうしたですか?!イブ師匠?」
「イ、イブ……また……虫に刺されたかも……」ぽりぽり
「あー……この地方は、年がら年中温暖なので、季節に限らず虫がたくさん繁殖してますからね……。気をつけないと刺されますよ?……はいこれ。虫よけの香水です」
「それ、早く出してほしかったかも……。イブ、もしかして……ここで死んじゃうかもなのかな……」げっそり
と、今にも死にそうな表情を浮かべながら、震える手で虫除けスプレー(?)を受け取るイブ。
その際、ユリアもローズマリーも苦笑を浮かべていたのは、大げさな彼女の反応に、何か思うところがあったためか。
そんなやり取りを交わしながら、飛んでいた虫たちと格闘しつつ……。
イブたちは町の中を進んでいったのである。
イブ嬢あるある、なのじゃ?
まぁ、妾でもある話なのじゃがの?
最近は刺されておらぬのじゃが、刺されたりすると、本気でレーザー兵器の開発を進めたくなるのじゃ。
じゃが、残念なことに、高感度高解像度カメラの搭載や、500GHz以上のPARの実現には、技術的・資金的課題が未だ多く残されておるゆえ、特殊な条件下でなければ、実現出来ぬのが現状なのじゃ。
もう少し大きければ、どうとでもなるのじゃがのう……。
まぁ、大きい蚊とか見たくもないがの……。
……前にも書いたかの?
まぁ良いか。
さて。
それでは今夜も、前の話の修正をしてこようと思うのじゃ。
修正の詳細(?)については、毎日、活動報告にも書いておるゆえ、もしも気になる方がいらっしゃいましたら、そちらを御覧ください、なのじゃ?
例えば……話数シフトが起こるかどうかの話、とかの?




