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9.0-09 バラの木09

そして馬車が王城に着いて……。


先に到着していた執事メシエは、ワルツたちが乗っていた車へと近づいて、ノックをした後で、その扉を開き……。

そして彼は、中にいた者たちへと向かって、こう口にした。

……いや、しようとした。


「……ワルツ様、カタリナ様。城に到着いたしました。これよりお部屋まで案内するので…………え?」


と、そこで固まってしまう執事メシエ。

なんと、馬車の中に本来いるべき人物が、1人、カタリナのことを残して消え去っていたのだ。

そう、今回の主賓たるワルツの姿が……。


まだそれだけなら、そこまで彼が混乱することは無かったことだろう。

事情をカタリナに聞けば、対応のしようがあったのだから。

しかし、それでも、彼が固まってしまったのには、思考を停止せざるを得ない、特別な理由があったためだった。


「…………」にゅる?


なにやら得体のしれない黒い物体が、本来ワルツがいるべき座席の上に、鎮座していたのである。


「あの……カタリナ様?一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


その物体を目の当たりにした結果、額から脂汗を流しつつ、そう口にするメシエ。

そんな彼に対し、カタリナは首を振りながらこう答えた。


「……ワルツさんからの言伝です。――詳しくは聞くな、と」


「…………」にゅるっ!


と、カタリナの言葉に合わせるかのように、首のような突起を縦に振るシュバル。

どうやら彼は、ワルツになりきっているようだ。


ちなみに。

そのワルツ本人は、というと――


「(いや、別に、何も言ってないけどね?)」


実はただ単にホログラムの姿を消して、そっと馬車の後ろから付いてきていたようである。


というのも、彼女はここに来て、まさかの”人見知り”を激しく再発してしまったらしく……。

王城に着くや否や、姿を消してしまったのだ。

余程、アルボローザの政府関係者と顔を合わせたくなかったらしい。

あるいは、今更になって、メシエなどのアルボローザ王国関係者を殺してしまったを思い出し、その罪の意識に苛まれていた可能性も否定は出来ないだろう。


一方で。

カタリナの言葉を聞いたメシエは、馬車の中にいた黒い物体に対し、戸惑い気味の表情を向けていたものの……。

それからすぐに、どこか覚悟を決めたような表情を浮かべて。

そしてシュバルに対し、不意にこんなことを言い始めた。


「……承知いたしました。では()()()()?馬車を降りるのに、お手を拝借させていただいても、よろしいでしょうか?」


どうやら彼は、その黒いスライムのような物体が、ワルツの変身した姿だと思い込んだらしい……。


そんな彼の様子を見て、思わず笑みを零したカタリナは――


「いえ。この――ワルツさんは私が連れていきますので結構です」


そうとだけ言うと、そこにいたシュバルのことを両手で持ち上げて、自らの足で馬車から降りたようである。


「あの……カタリナ様?」


「……メシエさん。さっき、伝えましたよね?この件に感しては、これ以上、詮索するな、と」にっこり


「ひぐっ……!も……申し訳ございません!」


カタリナに笑みを向けられた途端、取り乱した様子で頭を下げるメシエ。


それから彼は、そこに居た他の執事たちに目配せすると……。

少し焦った様子で、カタリナとシュバル(と透明なワルツ)を、彼女たちの部屋へと案内するために歩き始めたのであった。



その後方では――


「ルシア様、ベアトリクス様、テレサ様、王城に到着いたしました」


ワルツたちの馬車の後ろを追いかけてきていたルシアたちの馬車も王城に到着して……。

メシエとは別の執事が、出迎えていたようである。


「馬車から地面まで大きな段差がございます。念のため、お手を拝借させていただいても……」


と、メシエと同じく悪魔だった彼も、ルシアたちに手を差し伸べようとするのだが――


「うん、大丈夫。間に合ってるから」ふわー


「テレサのエスコートは私の役目ですわ!誰にもテレサの手は渡しませんわよ!」ズルズル


「……お、おかしいのじゃ。ミッドエデンを代表しておるのは、名目上、妾のはずなのに、どうして妾の名前が、一番最後に呼ばれたのじゃ……いや、別に気にしてはおらぬがの……?」ズルズル


彼女は彼女たちで、自力で馬車を降りたようだ(?)。


その様子を見て――


「さ、さ、左様で……ございますか……」プルプル


と、まるで何か、恐ろしいモノでも見たかのように、顔を真っ青にしながら、身を引く執事。


本来、その場面において、彼はまず真っ先に、テレサに対し謝罪すべきはずだったのだが……。

それを失念するほどの何かが、彼の感覚器官から入ってきたようである。


なお、ベアトリクスがテレサのことを引きずっていたことに戸惑っていたわけではない。

……主に、ルシアの方向から何かが吹き出してきていたようである。


「……これ、ルシア嬢?この者が困っておるのじゃ。いや、この者だけではないのじゃ。お主の魔力に慣れておらぬ者たちが皆、困っておるのじゃ。じゃから、そんな莫大な魔力を垂れ流して、不用意に飛んではならぬのじゃ」


「……そう?」


「…………」ガクガク


「……の?」


「……うん、分かった」しゅん


テレサに指摘された結果、大人しくその言葉に従うルシア。

馬車から降りるために重力を操っていた彼女は、その際に大量の魔力を撒き散らして、魔力の感受性が高い者たちに多大な迷惑をかけていたのである。


ただ、彼女としては、それによって、皆のことを困らせようとは考えていたわけではなかったらしく……。

結果、彼女は、そこにいた執事に対し、謝罪の言葉を口にしようとして――


「ごめんなさい、執事さ……ん?!」


――何かを感じ取ったらしく、その言葉を止めてしまった。


「「「…………ん?」」」


「あっちから、お寿司の――――気配がする!」きゅぴーん


「ちょっ……」


「行くよ!テレサちゃん!ベアちゃん!」


「もうダメかもしれぬー……」

「空飛ぶの初めてですわー……」


ドゴォォォォォ……


そしてその場から放物線を描いて飛び去っていく3人。


なお、その際、そこに残された者たちが、どんな表情を浮かべていたのかについては、説明を省略する。

何しろ、皆、筆舌に尽くしがたい表情を浮かべていたのだから……。



「……ルシアちゃんたち、飛んでいってしまいましたね……」

「あぁ……」

「(ボクもどこかに行きたい……)」げっそり


放物線を描きながら、城の方向とは真逆の方向へ飛び去っていったルシアたちに対し、遠い視線を向ける勇者、賢者、それにユキ。

そんな3人も、馬車に乗って王城へと来ていて……。

丁度、メイドたちに手を引かれて、馬車を降りた所だった。

なお、剣士は、諸事情により、ボロ雑巾のようになっているので、ここには来ていない。


……ちなみにである。

そこにはもちろん、彼らだけでなく、同行を願い出たリアの姿もあったわけだが――


「…………」ムスッ


彼女は、何故か、不機嫌そうな表情を浮かべて、頬を膨らませていたようである。


それには、幾つかの理由があったのだが……。

中でも一番大きな原因は――


「一体……何者なのですか?ユキ様は……」


勇者たちの安全を確保するため、ワルツによって付き添い役に任命されていたユキと、うまくいっていないことだったようである。


「ボクが何者かと問われましても……ユキです。カタリナ様の弟子です。今は、それ以上でもそれ以下でもありません」


「カタリナ……。またあの人……ですか……」ムスッ


と、カタリナのことになると、何故か不機嫌になるリア。


それが何故なのかは、その場にいたものたちには分からなかったようだが……。

リアとユキが仲良くやっていくには、カタリナという大きな壁(?)をどうにかしなければならなそうだ。



今日は夕食が遅かったゆえ、頭が回っておらぬかもしれぬ……。

それに色々と面倒なこともあったからのう……。

まぁ、終わったことじゃから、いいがの。


というわけで。

ここから数話は、ライスに到着した者たちがどんな行動をするのか、毎話場面を変えながら書いていくつもりなのじゃ。

まぁ、その辺はいつも通りかの。

で、あらかた書き終わったら本筋に入る、と。


……今度書くときは、最初から飛ばしていってみようかのう……。


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