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9.0-07 バラの木07

地面から数メートルの位置に、直角の状態で静止した空中戦艦エネルギア。

しかし、そのままだと、空を飛べない者たちは、誰ひとりとして降りることができなかったので――


ゴゴゴゴゴ……ズドォォォォォン!!


ワルツたちは、船体を横に倒すことにしたようである。

なお、その際の振動も衝撃も、重力制御が行き届いている船体内部には響いてこなかったようだ。


そして、そのときは訪れた。


ガシュゥゥゥ……


と、白い煙のようなものを撒き散らしながら、ゆっくりと開くエネルギア下部のハッチ。

そこにはスロープ状のタラップが内蔵されていて……。

ハッチが開くと共に、それが地面へと降ろされた。


そんな、どこかの宇宙船にありそうな演出(?)の中……。

最初にそこから姿を表したのは――


『なるほど、なるほど〜。ここがアルボローザの首都――カレーライスですか〜』にょき


空気のごとく透明な魔法生命体、マクロファージ1号だった。


一方で。

エネルギアの前には、当然のごとく、そこに住んでいたアルボローザの者たちが大勢集まっていて……。

空から降ってきた巨大な戦艦に対し、奇異の目を向けていたようだ。


そんな彼らは、タラップから落ちてきたその透明な物体を前に――


「「「…………」」」ごくり


と、喉を鳴らしていたようである。

例えるなら、まるで恐ろしいものでも見たかのように……。


何しろ、そこにいた者たちは皆、巨大な飛行艇の中から、ミッドエデンの者たちが出てくると思っていたのである。

より詳しく言うなら――きらびやかな装飾品で身体全体を飾り付けた、どこかの王族のような者たちがやってくる、と。


ところが出てきたのは、得体の知れない透明な物体……。

それを見て何を思うのかは、人それぞれのはずだが……。

その瞬間、緊張の度合いが、一気に増したことは間違いなさそうである。


……しかしである。

エネルギアから出てきたのはそれだけではなかった。


「…………」にゅるっ!


……一切光を反射せず、あたかもその場の空間に、ポッカリと黒い穴が開いたように見える、そんな物理現象を無視したかのような物体が、マクロファージの後ろを追いかけて、タラップを降りてきたのだ。


「「「…………?!」」」ざわざわ


その姿を見たアルボローザの民たちの間で、一斉に緊張が走った。

――やはり、ミッドエデンの者たちは、人ならざる者たちばかりなのではないか。

そんな考えが、彼らの間で、一気に広まっていったようだ。


しかし、混乱は、より深刻度を増すことになる


『お姉ちゃん……ポテちゃんの真似して、先に外に出ろって……何、考えてるんだろ?』カサカサ


今度は、黒い昆虫のような物体が、大量にタラップを降りてきたのだ。

ここまで来ると、混乱は最高潮に達し、中には、恐怖のあまり、町へと戻る者も出てきたようである。

……主に女性たちが。


そして、最後に……。

まるでトドメか何かのように、タラップを降りてきたのは――


ドスンッ、ドスンッ……


『ふむ……やはり、この姿に戻ると、背中の違和感がスッキリする……』


元の姿に戻った飛竜だった。


まだ、それだけなら、人々は正気を保っていられたことだろう。

何しろ、飛竜と彼らの距離は、100m以上離れていたのだから。


しかし飛竜は、何を思ったか――


「……確か、降りたところで、空に向かってブレスを吐けばよかったのだったか?」


ドゴォォォォォ!!


その場に降りるや否や、青空に向かって、ドラゴンブレスを打ち上げたのである。


……それが引き金となった。


「う、うわぁぁぁぁぁ?!」

「ど、ドラゴンだぁぁぁぁぁ!」

「逃げろォォォォォ!!」


その途端、一斉にその場から逃げ去っていく人々。

人っ子ひとり、飛行艇から降りてこないどころか、中から出てくるのは、見たこともない凶暴そうな魔物(?)だけ……。

それを見たアルボローザの人々は確信した。

――ミッドエデンの者たちは、やはり、マトモでない、と。


「はいはい?皆、もう良いわよー。いい感じで人払いできたからー」


そしてアルボローザの兵士たち以外に、その場から人々がいなくなってから。

ようやくワルツが、エネルギアのタラップを降りてきた。

どうやら、最初に飛竜たちを降ろしたのは、人払いが目的だったようである。

やはり、この期に及んでも、ワルツは不特定多数の者たちに視線を向けられるのが嫌だったらしい……。


「ふむ。では我は、このままひとっ飛びしてくる。その後はエネちゃん殿の中に戻って、(イブ)たちと共に留守番をしていよう。”うぇいとれす”とやらもやらねばならんからな……」バッサバッサ


「…………」にゅる?


「お疲れ様。シュバルちゃん。おやつですよ?」ひょい


「…………」にゅるっ!バクッ


「……何でわざわざボクの手に齧りつくんです?」


『さて〜……それでは、カレーライスでも食べてから、魔王退治に出かけましょうか〜?』


「あの……コルテックス様?できるだけ、波風は立たせないようにしてくださいね?隣国のボレアスは今、本当に大変なことになって…………って、もういないし……」げっそり


『ビクトールさ……あ゛?!もう、mk1ったら、ビクトールさんに近寄るなって、あれほど(以下略)』


と、ワルツに続く形で降りてくる者たちと、そして船内へと戻っていく者たち。


そして、メンバーの入れ替えが落ち着いたところで……。

ワルツは、ユリアに対し、問いかけた。


「ねぇ、ユリア?さっき影の薄いスライム(マクロファージ)が言ってたんだけど、この町って、カレーライスあんの?」


「そういった調査は行っていませんので、ちょっと分かりかねます。探せばあるかもしれないですよ?もしかして……食べたいんですか?なんでしたら、ラウンジで作りますけど……」


「いや、冗談で言っただけよ?まぁ、町の中にあったら食べてもいいかもしれないけどね」


と、アルボローザの首都が”ライス”という名前だと聞かされてからというもの、実はカレーライスが食べたくなっていた様子のワルツ。


どうやらそれは、彼女の妹のコルテックスも同じだったらしく……。

姿を消した彼女は、今頃、アルボローザ版のカレーライスを探し回っていることだろう。

まぁ、十中八九、政治工作(?)を兼ねて、のはずだが。


それからワルツたちが、周囲に眼を向けて、さてどうしたものか、と考えていると。

その視線の先で、彼女たちを警戒するように取り囲んでいた兵士の列を割って……。

数名の者たちが、まっすぐに、ワルツたちのところへとやって来た。


そして彼らは、ワルツたちの手前、およそ5mほどの地点で立ち止まると、恭しく頭を下げながら、こう口にしたのである。


「お待ちしておりました。ワルツ様」


すると。

そう口にした人物に、何か嫌な思い出でもあったのか……。

ワルツはあからさまに眉を顰めながら、先頭にいた人物に対し、こんな質問を投げかけた。


「こんなこと聞くのも何だけど……貴方、確か、私の目の前で死ななかったっけ?っていうか……殺した覚えがあるんだけど……」


と、山羊のような角が頭から生えている燕尾服の男性に向かって、問いかけるワルツ。


すると彼は、にっこりと上品な笑みを浮かべると……。

ワルツに対し、頭を下げながら、こう返答した。


「その節はご無礼を働きまして、誠に申し訳ございませんでした。改めてご照会申し上げます。……私の名はメシエ。ベガ様の執事を務めながら、この地に住まう悪魔たちを統べる者です」


「ふーん。じゃぁ、貴方、悪魔だったから死ななかった、ってわけ?」


「いえ。一度、死にましたが、悪魔ゆえに、あちらの世界から戻って来られたのです」


「なるほどねー。じゃぁ、試しにもう一回、消してみようかしら?」


「…………えっ?」


「……今度は違う方法でね?」ゴゴゴゴゴ


そして、メシエと名乗った執事に対し、中程度のプレッシャーを与えるワルツ。


その言動は、その場にいた全員にとって、例外なく、予想外なものだったようである。

中でも仲間たちは、皆、こう思っていたようだ。

……ワルツは本気で、アルボローザを潰しにきたのだ、と。


しかし、そういうわけではなかったようだ。


「ひぃっ……?!」ガクガク


「……うん。貴方は大丈夫そうね?」


「……………えっ?」


「いやね?どこぞの誰かが、あなたたちのことを利用して、ミッドエデンに喧嘩を売ったことがあるのよ。まぁ、貴方たちがうちの国を荒らして帰った後の話だから、知らないでしょうけどね?それでも、もしも、今のプレッシャーで、貴方が誰かに操られているような痕跡を見せてたら……そんときは本気で、アルボローザのことを潰そうと思ってたのよ。これ以上、ミッドエデンの邪魔をされるとか、(たま)ったもんじゃないしねー」


「んなっ……」


「あ、そうそう。それと、もう一つ。今のうちに言っておくわね?……半年前のこと……今でも忘れてないから?」にっこり


と、暗い笑みを浮かべながら、釘を刺すワルツ。

その副音声は――たとえ、裏で、糸を引っ張っているような者がいなくとも、下手な行動を見せれば、敵対行為と見なす、という警告だった。


なにしろ、ワルツがこの国に来たのは、なにも、ボレアスをエクレリアから取り戻すための友好的な支援を求めてのことではないのである。

――隣の国で何が起っていても、余計なことはするな。

そんな忠告を伝えにやって来たのだ。


いつでも攻め滅ぼせることが分かっていて、それでも攻めずに大人しく隣国の行く末を見守るというのは……。

それはそれで、一種の支援のようなものだと言えるのだから。



ちょっと攻撃的過ぎるかのう?

ワルツとしては、また舐められないように、と思っての行動だったのじゃ。


……と、書いておって、少し心配になってきたゆえ、一つ補足しておくのじゃ。

アルボローザ王国が、物語の中での半年前に、旧ミッドエデン王国に対して行った仕打ちについて。


魔王アルタイル(?)によって、ミッドエデンの王族たちが、ホムンクルスの材料になる、という事件が前にあっての?

そのどさくさに紛れて、アルボローザの者たちが、ミッドエデンの王都を占拠したことがあったのじゃ。


この時、迷惑を被ったワルツとしては、正式な謝罪をせずに立ち去ったアルボローザ王国の国王であるベガたちのことが、いまだ許せてなかったのじゃ。

そのせいもあって、舐められないように、今回こうして攻撃的に接した、というわけなのじゃ。


とは言っても、ベガ殿は、一応、口頭では謝罪はしておったのじゃ。

ただ、それっきり音沙汰が無かったゆえ、ワルツとしてはそれが本当に謝罪だったのか、分からなかったようじゃのう。


……といった感じなのじゃが、あまりにあまりな駄文だったゆえ、誰にも伝わっておらんかった可能性が無きにしもあらず、なのじゃ。

この辺の話は、いま修正(リメーク)しておる最初の方の物語で、詳細に語られる予定なのじゃ。


……さらなる駄文で、の?



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