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9.0-06 バラの木06

「もう……うちの王都に生えてる世界樹が、雑草にしか見えないレベルね……。っていうかアレ、やっぱり雑草なんじゃないかしら?」


空を貫く大きな茶色の固まり……。

その天辺(てっぺん)は、エネルギアが飛行している高度11000mの巡航高度からもまるで見えず……。

明らかに宇宙空間まで伸びているとしか思えないような高い高い巨木が、彼女たちの進行方向に立ちそびえていた。

いや、上は見えていないので、大木ではなく、”柱”である可能性も否定は出来ないだろう。


「世界って……まだ不思議なことが、たくさんあるんですね……」


ミクロの世界ですら、まだ見ぬ世界が広がっているというのに、マクロの世界でも同じように未知が存在していることを察したのか……。

空を見上げながら、深く感動の溜息を吐きつつ、そんな言葉を口にするカタリナ。


その他の者たちも、同じように空を眺めていて……。

皆、口を、ポカーンと開けながら、その場よりも更に高い青空を見上げていたようだ。

開いた口が塞がらないとは、このことを言うのかもしれない。


「ねぇ、テレサちゃん……あの木、吹き飛ばせるかなぁ……?」


「ちょっ……や、止めるのじゃぞ?!ルシア嬢!樹齢、何年になるかも分からぬ木を、傷つけてはならぬのじゃ!」


「あの木……登ってみたいですわね……」


「ベアよ……。お主、なんとかとイブ嬢は、高いところが好き、という言葉を知っておるかの?」


「……む?!今、テレサ様、さらっと、イブのこと、バカにしたかもでしょ?!確かにイブ、高いところ好きかもだけど……」


と、テレサやイブたちが、巨大な世界樹を眺めながら騒いでいると――


《お姉ちゃん?着陸するけど、どこに降りる?》


エネルギアmk1や剣士と共に艦橋にいるだろうエネルギアmk2から、ワルツ宛に館内放送が飛んできた。


それに対してワルツは、至極適当な様子で返答する。


「んー……そうね。じゃぁ、とりあえず、町の入口に着陸してもらえる?もう、ズドーンって感じで?」


《うん、分かった》


その途端――


グググググ……


と、急激に機首を下げていくエネルギア。

なお、艦内は重力が制御されているので、たとえ船体が逆さになっても、モノが倒れたり落ちたりすることは無い。

とはいえ。

エネルギアの重力制御装置では、その光景を見ていた人々の内心を安定化することまではできなかったようである。


「「「?!」」」


美しい光景を見て心を洗われていたはずが、次の瞬間には、死と隣り合わせな状況に陥り……。

顔を真っ青にして、床に伏せたり、テーブルにしがみついたりする一同。


だが、次の瞬間に起った出来事を前に、皆、それ以上に絶望の表情を浮かべることになった。


ドゴォォォォォ!!


エネルギアが、地上に向かって、全速力で降下を始めたのである。

そう。

ワルツの言葉通りに……。


「ちょっ!エネルギア!艦内は制御が効いてて安全だからって、流石にそれはまずいわよ!着陸(?)した瞬間、町とか、歩いている人たちとかに、被害が出ちゃうって!」


《そう?じゃぁ、ブレーキ掛けるね?》


そう言うと、逆噴射を開始するエネルギアmk2。

推進用のタービンに内蔵されている、スラストリバーサーという機関を最大出力で使用したようだ。


その結果、船体は急激に減速を始めるのだが、それでも、近づいてくる地面を遠ざけることはできなかった。

壁に埋め込まれたモニターが表示する景色を、白い雲が後ろの方向へと流れ……。

そしてその向う側にあった緑色の壁のようなものが、急激に近づいてくる……。

その光景を見て、生きた心地がしている者はいなかったことだろう。

尤も、中には――


「…………ふぅ、美味しいですね?このお茶」ズズズズ


「…………」にゅるっ?


「余裕そうね……カタリナ……」


何人か例外がいたようだが……。


とはいえ。

事態は、その場の誰しもが想像したような最悪の展開にはならなかったようである。

減速していた船体が、地面まであと数メートルといったところで――


ドゴォォォォォ……ピタッ……


と、停止することに成功したのだ。


その瞬間、船内からは、所々で安堵のため息が上がった。


「はぁ……もうここで死ぬかと思ったのじゃ……」


「……テレサちゃん?それ、冗談?それとも本気?」


「ルシア嬢……お主は随分と余裕があるようじゃのう?」


「だって、ここにはお姉ちゃんもカタリナお姉ちゃんもいるし……それに、最悪、地面を吹き飛ばせばいいだけだし……」


「…………それ、冗談じゃよな?」まっさお


と言いながらも、内心では、ルシアなら本気で世界樹ごと吹き飛ばすのではないか、と思っていたテレサ。


そんな彼女の隣には、テレサの腕をがっしりと掴んでいたベアトリクスの姿もあって……。

彼女は、彼女で、こんな事を呟いていたようだ。


「……やはり、実践というのは怖いものですわね」ぼそっ


「ん?何か言ったかの?」


「いえ、なんでもないですわ。キャーッ!」がしっ


「お主……怖いなら怖いなりの反応をすべきだと思うのじゃ……。その反応、明らかに白々しすぎるのじゃ……」げっそり


と、ベアトリクスの反応に、テレサが頭を抱えていた――その隣では。


「り、リア?!大丈夫ですか?!」


絶望的な光景を目の当たりにして固まっていた勇者が、いち早く我に戻って、机にしがみついていたリアへと安否を問いかけていたようだ。

もちろん、船内には衝撃があったわけではないので、リアがケガをしているということは無かったが……。

それでも彼は念のために確認することにしたらしい。


対して。

そんな彼の視線の先にいたリアは、恐る恐るといった様子で顔を上げると……。

周囲の景色が止まっていることを確認して、大きく安堵のため息を吐き……。

それから、勇者の問いかけに対して、返答を始めた。


「だ、大丈夫……です……。見慣れない光景だったので……少し、驚いてしまいました……」


「そうみたいですね……あれ?」


と、リアの様子に何かおかしなところでもあったのか、勇者は何かに気づいた様子でこう口にした。


「リア?その……あなたの腕に付いているものは何でしょうか?」


「えっ?」


と、勇者に指摘されたことで初めて気づいたのか、自身の腕に視線を向けるリア。


しかし、彼女がそこに視線を向けた時には、勇者から貰ったブレスレット以外に何もなく……。

彼女は勇者が何のことを言っていたのか分からず、首を傾げてしまったようである。


どうやらそれは、勇者も同じだったようだ。


「……もしかすると見間違いだったのかもしれません。気にしないでください……」


勇者が再びリアの腕を見ると、まるで幻かのように、その異変は消えていたようである。

そんな彼の眼には、リアの腕の上に、”六角形型をしたコインサイズの何か”の姿が見えていたはずだったのだが……。

その痕跡が無くなっている以上、結局、彼は、見間違えだと判断して、深く考えないことにしたようである。


――いや。

正確には、考えを停止せざるを得なかった、と言うべきか。


「さーて、紆余曲折あったけど、どうにか目的地に着いたわね。じゃぁ、行こうかしら?外に出る連中は、格納庫に集合よ?あと、ここに残る者たちは、私たちが降りている間の留守番、お願いね?」


「「「はいっ!」」」


と、ワルツの言葉に、一斉に返答するその場の者たち。


そして彼女たちは、いよいよ、世界樹の国アルボローザの地へと、足を下ろすことになったのである。



さーて、リア殿のこと、どう料理したものかのう?

色々プランは考えておるのじゃが、まだ納得できるものは無く、今のところ準備中なのじゃ。

何か面白い案が思いつけばいいのじゃが……妾の頭では難しいかもしれぬ……。

まぁ、何か考えるのじゃ。


そう言えば、今週末は三連休とやらが待っておるようじゃのう?

機械狐には人の休みなど関係ないのじゃが、たまにはどこか遠くの温泉に出かけたいのじゃ。

そのついでに、観光をするのも良いかもしれぬ。

例えば――狐を見に、とかの?

遠いのう……。

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