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9.0-02 バラの木02

シャァーッ

シャァーッ

シャァーッ……


空中戦艦エネルギアの艦内。

その中でも最も大きな空間である格納庫の中には、何やら包丁を研ぐような音が響き渡っていた。


実際、それは、砥石の上を、金属が滑っていたために生じていた音だったようである。

しかしその音は、包丁や剣などの刃物から生じていた音ではなかった。


「……なぁ、レオ。お前、なに研いでんだ?」


……勇者が愛用する”伝説の鉄パイプ”が、砥石の上を滑る際に生じた音だったようだ。


「もちろん、見ての通り、私の武器ですよ?以前、武器の手入れの方法も分からない私に、あなたが教えてくれたことを、いつも通りにしているだけです」


「……すまん、レオ。お前が何を言ってるか分からない……」


一度たりとも鉄パイプの研ぎ方など教えたことは無かったためか、勇者の言葉を聞いて、思わず頭を抱えてしまう賢者。


そんな彼には、それ以上、勇者の不可解な行動に口を挟む気は無かったらしく……。

賢者は話題を変えて、勇者に対し、問いかけた。


「なあ、レオ。お前、本当に、こっちに来てよかったのか?リアが歩けるようになるまでの間、彼女の側についてた方が良かったんじゃないのか?」


その質問を向けられた勇者は、パイプを研いでいたその手を止めると……。

LEDのライトが無数に設置された格納庫の天井を見上げ。

そして、まるで誰かのことを思い出すかのように眼を細めながら、こんな返答を口にする。


「……弱いままの私が、ぬくぬくとリアのそばにいて良いわけがありません。リアはリアで戦っているのです。彼女のことを思えばこそ、私も戦わなくてはならない……そうは思いませんか?ニコル」


「……若いな」


「…………?」


「俺みたいに先が無いオッサンには、お互いに切磋琢磨することを考えるなんて難しい、って話さ。いつ、お互い、ポックリ逝くととも限らないからな……。まぁ、そもそもからして、俺には相手が居ないんだが……そのことには触れるなよ?」


と、首を傾げていた勇者の前で、そう口にして、自嘲する賢者。


すると勇者は、少し眉を顰めてから、賢者に対し、こう言った。


「オッサンって……ニコルはまだ十分に若いではないですか?それにあなたの場合、エルフ族の血が混じっているのですから、年齢なんて有って無いようなものだと思うのですが……」


「……それでもだ。お前たちに比べれば、十分に長い時間を生きていることに変わりはない。長く生きていると、考え方が安定志向になってしまってな……。俺だったら、愛する相手から一瞬たりとも離れたくない……そう思っただけだ。お前がそれで満足していると言うのなら、これ以上、とやかく言うつもりはないさ」


「……そうですか。では、その言葉、賢者たるニコルの助言として受け取っておきましょう」


「いや、助言ってほどのことでもない。人それぞれ、様々な考え方があるんだ。お前はお前なりの考えでリアと付き合えばいい。それが、お前らしさ――いや、お前たちらしさなのだろうからな」


そう言って、賢者は、話は終わった、と言わんばかりの様子でローブを(ひるがえ)し、勇者に背を向けると……。

懐から愛用の本を取り出して、それに目を向けながら、その場から立ち去っていった。


勇者にはそんな彼の言葉の意味が、良く理解できなかったらしく……。

自身の武器を研ぎながら、深く考えることにしたようである。


――悩んだときは、身体を動かしながら考える。

それが勇者の悩み方だ。


……しかしである。

そんな彼の思考を停止させてしまうような出来事が、不意に生じた。


「きゃっ……!」


ガシャァァァン!!


彼から少し離れた場所で、格納庫にあった積荷の整理とチェックをしていたと思しき王城職員の1人が、バランスを崩して、手にしていた荷物を、床に落としてしまったのだ。


偶然、近くには勇者以外に誰もおらず……。

彼は自身の作業を中断して、職員に手を貸すことにしたようである。

何しろ彼は(元)勇者。

弱きを救う、正義のヒーローなのだから。


それから彼は――


「あの……お怪我はありませんか?」


床に落としてしまった荷物を拾い上げようと四苦八苦していた職員へと近づき、安否を問いかけた。


それ自体は、彼にとって、いつも通りの行動と問いかけに過ぎなかったはずだが……。

しかし、次の瞬間。

彼は、何故か、そのまま固まってしまうことになる。


「…………えっ」


格納庫が少し寒かったせいもあってか、頭から深くローブを羽織って、床に落ちた荷物を拾い上げようとしていた――――ように見せかけて、実は腰が抜けてしまったかのように、動けなくなっていた王城職員。

それは――


「どうして……ここにリアが?!」


ミッドエデンの王城に残してきたはずの幼馴染の姿だった。


「…………」


そんな彼女は、勇者の問いかけに対し、返答すること無く……。

ただ、静かに、俯いていたようである。

その姿を例えるなら、親や教師に叱られることが分かっていて、怯えて小さくなってしまっていた子供のように……。


結果、勇者はその場で事情を問いかけること無く――


「……話は後で聞きます。まずは、これを片付けて、場所を移しましょう」


その言葉通りに、場所を変えようとして、転がっていたものを片付けようとした。


そして彼は気づく。


「これ……野営に使う……道具……?」


……そう。

リアがその場に落としてしまったものは、野営の際に使う食器類だったのだ。

それも勇者が以前、愛用していたものばかり……。


それらは、最近まで、どこに行ったか分からなくなっていた道具だった。

それをリアが持っていたとなると……。

彼女の手に嵌められた指輪――アイテムボックスの中に入っていたのかもしれない。


そうなると……。

彼女は、”旅に出る”と言って出発した勇者が、荷物を忘れていることに気づいて、彼のところへと届けに来た、ことになるだろうか。

そして、エネルギアに乗ったは良いもの、荷物を渡す前に離陸してしまって、降りれなくなった、と。


もしもそうだとするなら、1つの可能性が浮上してくるだろう。

すなわち、彼女の失われた記憶が戻ったのではないか、という可能性だ。

なにしろ、持ってきた荷物が、勇者の旅に必要なものだと分かっていなければ、わざわざ持ってくるはずは無いのだから。


しかし、そういうわけでもなかったようである。


「この荷物……私に届けに来てくれたのですか?!(もしかして記憶が……)」


と、勇者が淡い期待を持って、そう問いかけると……。

リアはこう返答した。


「よく……分かりません……。ただ……なんとなく……勇者様に渡さなくちゃいけない、って……思って……」


「……そうですか」


知識としての記憶が戻ったわけではなく、身体に染み付いていた習慣とも言える記憶がリアのことを突き動かしたようだ。


勇者としては、それが少し残念ではあったものの、しかし、幼馴染が自分のことを完全に忘れていたわけではないことに安堵して……。

彼はその表情に笑みを浮かべて、そしてこう言った。


「ありがとう、リア。これは大切に使わせてもらいます」


そう言って彼は手際よく金属製の食器を回収すると、リアが手にしていた袋の中へとそれを仕舞い込み、そしてその袋を受け取って……。


それから勇者は、リアに手を貸して立ち上がると。

2人揃ってある場所へと向かうことにしたのであった。



リア殿を旅に連れて行くプランにするか、連れて行かぬプランにするか……。

悩みに悩んだのじゃ(10分)。

いつか合流するのは確実だったのじゃが……話を書く上での分かれ道としては随分と大きくての?

じゃがまぁ、勇者も賢者殿もビクトール殿も、そしてカタリナ殿もおるということで、何か面白そうな話が書けそうな気がしたゆえ、リア殿を最初から登場させることにしたのじゃ。

……まだ何を書くのか決めておらぬがの。


さて。

それじゃぁ、書いてこようかのう?

――これまで執筆レベルの低い妾が書けなかった、嫉妬と怨念が渦巻くドロドロのストーr……いや、なんでもないのじゃ。

書けるか、書きたいかは、また別の話じゃからのう……。


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