8.9-27 準備27
「ちょっ……やばいわよ、コルテックス!エネルギアのこと、元に戻せなかったら……剣士、切腹しちゃうわよ?!」
「まぁ、剣士さんのことは別に良いのではないですか〜?野郎が一匹、世界から消えたところで、大した問題ではないですからね〜。それよりも問題は、エネルギアちゃんのことです。何が何でも彼女のことを元に戻さないと、ミッドエデンによる世界制服の計画が狂ってしまいます」
「……やっぱ、元に戻すのやめようかしら……」
と、口にしつつも、手を止めることなく作業を続けていたワルツ。
そんな彼女たちは、文字通りに粉々になってしまっていたターボ分子ポンプを元に戻すために、王城の上層部にあったワルツの工房で修復作業を進めていた。
具体的な作業の内容としては、予備に作っておいたマイクロマシンたちや、それよりもさらに小さなナノマシンたちを使い、粉末状になったポンプをミクロ以下の世界で溶かして、3Dプリンタが造形するかのように、ポンプを造形していく、というものである。
それによってポンプが元通りになるのは、ほぼ間違いなかったが……。
これまでポンプに宿っていたエネルギアの意識が復活するかどうかは、ワルツたちにも分からなかったようだ。
「再構築するのに、15時間、ってところかしら……」
「そう言えばお姉さま〜?」
「ん?何?」
「明日、ボレアスに戻る予定ですよね〜?間に合いそうですか〜?」
「…………忘れてた」げっそり
コルテックスの指摘を聞いて、頭を抱えるワルツ。
どうやら彼女は、こうした問題が生じることを、最初から想定していなかったようである。
まぁ、本来のプログラム通りに動いていれば、問題は生じなかったはずなので、想定していなくても仕方のないことかもしれないが……。
「スケジュールを遅らせるとか……ダメよね……?」
「どちらのスケジュールをですか〜?」
「……両方」
「両方ともダメだと思います」
「そうよね……」
そしてワルツは再び大きなため息を吐くと……。
諦めたかのように、作業へと集中し始めたのであった。
それからワルツは、この日も工房に引きこもって、マイクロマシンの作成をすることになる。
ようするに、ポンプを修復するマイクロマシンが増えれば、その分だけ、作業が高速化出来る、と彼女は考えたのだ。
……そう。
エネルギアが消滅しておらず、彼女が剣士の隣にいるとも知らずに……。
◇
『……というわけで、大変な目にあったけど、どうにかなったよー?』
「はぁ……良かったです。てっきり、最悪な事態になったかと心配していました」
「うむ。もしかすると、ビクトール殿が、シラヌイ殿みたいに実家に帰ってしまうかと思って、妾もヒヤヒヤしておったのじゃ。……嘘ではないのじゃぞ?」
「これが愛の力……なのですわね?」ぎゅっ
「…………はぁ」げっそり
ポンプ室があった元自身の本体である白い船体から立ち去ってから……。
そして、王城の食堂でお通夜のような雰囲気を醸し出していたカタリナたちのところに顔を出して、事の次第を説明していたエネルギア。
そんな彼女の近くには、剣士ビクトールの姿もあって……。
彼は彼で、昼食を摂りにきていた男性陣へと、説明をしていたようだ。
なにしろ、今のエネルギアは、以前と比べ物にならないほどに身長が低くなっていたのである。
それを見た性格破綻者だらけの男たちが、どんなことを考えるのか……。
剣士としては、間違っても、そのまま放っておくわけにはいかなかったようだ。
「てめぇ!なんだあのエネルギアちゃんの格好は?!……羨ましい!」
「幼女……幼女じゃないか?!クソォッ!お前ばかりぃぃぃ……!」
「はぁ……。ここにはマトモな性格の奴はいないのか?」
エネルギアと共に、食堂に現れた途端、ブレーズとロリコンに絡まれた剣士ビクトール。
そんな彼としては、今すぐエネルギアを連れて、怪しげな視線を向ける男たちの前から、どこかへと立ち去りたかったようだが……。
エネルギアに起こった事件について、既に皆が知っていたこともあって、その火消しをせずに、逃げるわけにはいかなかったようである。
まぁ、火を消したところで、煙までは消えそうになかったようだが。
「一言だけ言わせてくれ――――何もなかった。ただそれだけだ」
「何もねぇのに、エネルギアちゃんが小さくなるわけねぇだろ!ちゃんと説明ろやテメェ!この、羨ましい!」
「何もない……大抵のロリコンは皆、そう言うんだよ!この犯罪者め!」
「……お前ら、煩いから、もう斬っていいか?」
そう言って剣士は、半ば本気で、腰に手を当てるのだが……。
彼の愛用の剣は、いまその姿を変えて、近くで女性陣と会話しているので……。
幸か不幸か、そこに武器は無かったようである。
そんな剣士の殺意が本物だと理解できたのか――
「チッ……今日はこのくれぇにしといてやらァ……」
「幼女に手を出したら、ぜってぇ許さねぇからな?」
自ら手を引いていく、面倒な男たち。
そんな彼らのやり取りは、一見すると、異常なやり取りのように思えるかもしれないが――これが彼らの日常である。
そして、ブレーズとロリコンが、悔しそうにその場から立ち去っていった後。
エネルギアのポンプ室で、一部始終を目撃していた賢者ニコルが、相棒に対し、短く問いかけた。
「……無事だったんだな?」
「あぁ」
「そうか……よかったな」
相棒が首肯するのを見て、賢者は安堵の表情を浮かべると……。
その一言だけを口にして、剣士に背中を向け、そして食事のトレイを取りに行ったようである。
この瞬間まで、彼は剣士のことを心配していたらしく、昼食を食べずに吉報を待っていたらしい。
「ようやくマトモな奴がいたか……。あとは……」
そう言って剣士が探したのは、自分の出身国の王。
エネルギアに対する接し方のことで、剣士のことを叱っていたエンデルシア国王である。
彼は、一応、食堂にはいたものの……。
しかし、剣士やエネルギアの近くにはおらず。
少し離れた場所で、1人、両手で頭を抱えながら、椅子に腰掛けていたようである。
そんな彼に近づくと。
剣士は国王に対し、こう口にした。
「国王陛下。今日まで心配かけて……すみませんでした!」
それに対し――
「…………」
しっかりと聞こえているはずなのに、何故か返事をしないエンデルシア国王。
それが何故なのか分からず……。
剣士は、また叱られるかもしれない、などと考えながら、心配そうに――
「あの……陛下?ご気分でも……悪いのですか?」
と問いかけた。
すると、エンデルシア国王はようやく返答を口にするのだが……。
それはなぜか質問という形で返ってきたようである。
「……なぁ、ビクトール。女子の好意とは……何なのだろうな?」
「えっ……急に何の話ですか?」
「いや……なんでもない……。すこし……俺を1人にしてくれないか?」
「えっ?は、はい……(なんだ?知らん内に……なんかあったのか?)」
と、首を傾げる剣士。
それから彼は、数日ぶりに、エネルギアと昼食を摂るため、その場を離れるのだが……。
そんな彼と入れ替わるようにして、その場へとやって来た嬉しそうな表情の地竜ポラリスと、優れない表情のエンデルシア国王との間に、何か関係があるのかどうかは、不明である。
頭痛が痛いのじゃ……。
調子に乗って、毎日、最初の方の文を修正しておるのが、今になって裏目に出ておるのじゃ……。
そのせいもあって、今日の話は、1話後ろにシフトしておるわけじゃが……どうか気にしないでほしいのじゃ?
単に黒歴史を亡き者にしておるだけじゃからのう……。
そうそう。
そう言えば今日から、執筆スタイルを変えてみたのじゃ。
これまでは仮眠の時間を20:30〜21:00にしておったのじゃが、今日からは19:30〜20:00に変更したのじゃ。
そのおかげで、古い話を修正しながら、新しい話の修正をして、さらにはストックが貯めれるくらいの精神的・頭脳的余裕が生まれたのじゃ。
つまり、時間はあっても、これまでそれを有効活用できておらんかった、ということになるかのう。
妾のこの2年半……一体何だったのか……もうダメかもしれぬ……。




