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8.9-25 準備25

そして、その場の床に、黒い粉のようなものと、標的を失った透明なマクロファージたちだけが残されて……。

ついに、マイクロマシンたちは、全滅したようである。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


ドサッ……


敵がいなくなったその場で、自身の剣を杖代わりにして、崩れ落ちるかのように床に膝を付く剣士。


しかし彼は、すぐに立ち上がると……。

ワルツに向かって、声を上げた。


「ワルツ!エネルギアは……エネルギアは無事か?!」


そう問いかける剣士の言葉に、迷いのような色が含まれていたのは、ワルツに問いかけるまでもなく、その答えを知っていたからか……。


「……剣士」


まっすぐに、そして救いを求めるような視線を自身に向けてくる剣士に対し、直接眼を向けられず、思わず俯いてしまうワルツ。

そんな彼女が現時点で剣士に答えられる言葉は、たった1つしか無かった。


「……分からない」


「分から……ない?」


「今ここにあるターボ分子ポンプの粉を集めて、元の形に再構成すれば、彼女も元通りになる可能性はゼロではないわ。だけど……ハッキリ言うけど、元通りにならない公算のもかなり高いのよ……。だから……分からないの」


そう口にするワルツの脳裏では、エネルギアのことを元に戻せない確率が99%以上……。

逆に、元に戻せる確率は、限りなくゼロに近い、という結論が出ていた。


しかしそれでも、彼女がゼロだと言い切らなかったのは、エネルギアの存在自体が超常現象と言っても過言ではなかったので、確率を数値だけで表せなかったこともそうだが……。

それ以外にも、ワルツ自身が、エネルギアのことを大切な仲間だと思っていた者の1人だったためか……。


すると。

そんなワルツの言葉を聞いた剣士は、手にした剣をこれ以上無いくらいに力いっぱい握りしめると……。

こんな事態を作り出した原因であるワルツのことを、責めても無理はないというのに、彼はワルツに向かって頭を下げ、そしてこう言ったのである。


「……頼む。エネルギアを……どうにか助けてくれ!俺に出来ることがあるなら、なんでもする!なんならこの身だって生贄に捧げても構わない!」


それを聞いたワルツは、難しい表情を浮かべながら、重力制御システムを使ってその場に散らばっていた黒い粉を回収しつつ……。

必死な様子の剣士に対し、首肯しながら返答した。


「もちろん最善は尽くすわ。それに生贄なんていらないわ。だから貴方は……エネルギアの無事を祈っていて」


それからワルツは、黒い粉を宙に浮かべると……。

ポンプ室から出て、自身の工房へと戻ろうとしたようである。


ただ。

何かを思い出したのか、彼女は剣士の前で不意に足を止めると。

不可視のカーゴコンテナに手を入れて、その中から透明な球体を取り出し……。

そしてそれを、剣士の方へと差し出しながら、こう口にした。


「これ……渡しておくわ?」


「なんだこれ……」


「この作業を始める前にエネルギアに記録してもらったメッセージが入ってる魔道具よ。コルテックスの話によると、魔力を通せば彼女のメッセージを見れるらしいわ」


「…………」


「……ごめん」


短くそう口にして、剣士に魔道具を手渡してから、その場を立ち去っていくワルツ。


他の者たちも、空気を呼んだかのか……。

皆、剣士を残して、その場から立ち去っていったようである。



それからも、剣士はその場に残っていた。

今では、食べ物を見失ったマクロファージたちも、いつの間にかいなくなっており……。

彼は正真正銘、1人ぼっちになっていたようである。


「…………」


誰もいない部屋の床に腰を下ろして、天井をボーッと見上げる剣士。

そこにはつい数十分前まで、大きな黒っぽい円筒状の機械があったはずだが……。

今では虚ろげな空間が残るだけで、機械の面影はどこにも残っていなかった。


そんな空間に向かって――


「…………エネルギア……」


剣士は目の間で忽然と姿を消した少女の名を口にした。

そんな彼の視界の中には、まるで幻のように、笑みを浮かべる少女の姿が浮かび上がってきていたのかもしれない。


それから彼が、身体の中から、まるで魂を吐き出すかのように、大きなため息を吐くと――


コツン……ゴロゴロ……


勢い余って、彼の膝の上にあった透明な球体が、床の上に転がり落ちた。

それに眼を向けて、剣士は憔悴しきった表情を浮かべながら、こう呟く。


「魔力を通せばメッセージが聞けるって……俺、魔法が使えないんだがな……」


これまで筋力一筋、剣術のみをひたすら磨いてきた剣士。

そんな彼の側には、いつも仲間たちがいて……。

魔法が必要なときは、常に彼らが剣士のことを支えていた。


だからこそ、彼は――――こことは異なる世界からの転移者である彼は、魔法は使えないものだと諦め、最初から鍛えてこなかったのである。

例えるなら、同じ転移者であるワルツがそうであるように……。


それが今、形を変え、彼の心にマイナスの感情として、重くのしかかってきていた。


「こんなことになったのも……元を(ただ)せば、俺が魔法を使えないせいなのか……」


剣士は誰に向けるでもなくそう口にしながら、細めた視線を転がった球体へと向けた。

その途端、彼の心の中から、出所不明の感情が湧き上がってくる。


大切な者を失ったことに対する悲しみ。

エネルギアと顔を合わせなかったことに対する後悔。

そして、自分の無力さに対する怒り。


それらが、彼の意識とは関係なく暴走し、彼の腕を動かして――


ブォン!!


握っていた剣を、水晶へと勢い良く振り下ろさせた。

だが――


……コツン


「……出来るわけ無いだろ!」


エネルギアにプレゼントされた黒い刃が、水晶を叩き切ることは無かったようである。

何故、彼は剣を止めることが出来たのか……。

嵐に見舞われているかのような今の彼の内心を的確に説明する言葉は、おそらくどこにも存在しないだろう。

何しろ、数秒前まで怒っていた彼の目尻からは、今では汗以外の液体が溢れてきていたのだから……。


そんな時だった。


『えっとー……何だったっけ?たしか……”このメッセージを聞いている時、僕はこの世界にはいないでしょう”……だったっけ?』


そんな声が、剣に斬られかかっていた水晶の方から聞こえてきたようである。

それを聞いた途端――


「え、エネルギア?!」


と、そのままそこに剣を落として驚く剣士。


だが、彼は、すぐに気づいたようだ。


「……そうか……これがメッセージか……」


……直接魔力を注いでいなくとも、何かの拍子で、魔道具である水晶がメッセージを再生したのだ、と。


それから剣士が、水晶から聞こえてくるメッセージを静かに待っていると……。

彼の期待通りに、声が飛んできたようである。


……ただし。

その内容については、期待を越えたものだったようだが。


『えっとね、ビクトールさん……。実は僕も……魔法が使えないから、この魔道具の使い方、分からなかったんだー』


「…………え?」


剣士が眼を点にして固まった、その途端――


『ビクトールさぁぁぁぁぁん!!』


ドゴォォォォォ!!


と、水晶の横に落ちていた大剣が、猛烈な勢いで剣士の方へと飛んできたようである。

それも、刃の方を前にして……。


とはいえ。

それが剣士の身体に突き刺さることはなかった。


ゴォォォォォン!!


そんな硬い者同士がぶつかるような音を上げて、黒い剣と、剣士が身に付けていた黒い鎧が、衝突したのである。

そう。

エネルギアのマイクロマシンたちを流用することによって、形作られていた、剣と鎧が……。


そしてそれらは、みるみるうちに融合して、1つになると。

とある形状に変わったようである……。



……バッドエンドは嫌いなのじゃ?

まぁ、単なるハッピーエンドでもイライラしてくるがの?

なら、ビクトール殿とエネルギア嬢の話をどうするのか。

…………ふっふっふっふ……。

いや、ハードルを上げても、そんな期待されるような内容が書けるわけではないがの?


というわけで。

とりあえず、話の峠は越えたのじゃ。

あとは、ふぁいならいずと、ぷらすあるふぁ、なのじゃ?

さーて、どうしたものか……。

一応、書き終わってはおるのじゃが、未だ悩んでおる今日このごろなのじゃ。

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