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8.9-24 準備24

マイクロマシンたちに対応するには、あまりに多くのしがらみがあることに気づいて、結局何も出来ずに、頭を抱えてしまうワルツ。


そんな彼女の様子を見た賢者も、提案した作戦に問題があることを察したらしく……。

ワルツから結論を聞く前に、彼は次なる案を考え始めたようである。


そして間もなくして、彼は思いついたようだ。

だが、その新しい案には何か問題があったのか……。

賢者は腕を組みながら、こんな言葉を呟いた。


「いや…………まさか、そこまで万能なはずは……」


その言葉に反応したのは、彼の視線が自分に向いていたことに気づいたテレサだった。


「む?どうしたのじゃ?賢者殿?」


「テレサ様。ひとつ、試していただきたいことがあるのですが……」


「なんじゃ?まさかお主も、ルシア嬢みたいに、気合と体当たりでどうにかして来い、とか言わぬじゃろうのう?」


「いえ、そうではありません。言霊魔法で彼らを止められないか、試していただきたいのです」


その言葉を聞いて――


「「「…………!」」」


と、”それだ!”と言わんばかりの表情をテレサへと向けるワルツ、カタリナ、それにベアトリクス。


中でもベアトリクスは、テレサの言霊魔法によって何度も助けられた経験があったためか、どこか必死な様子でテレサの両肩を掴むと……。

真剣そうな表情を浮かべながら、彼女に対し、こう言った。


「テレサ!どうか……剣士様を助けてあげてくださいまし!」


「い、いや、ちょっとまってほしいのじゃ。良いか?相手は人ではなく、機械なのじゃぞ?試すのは(やぶさ)かではないのじゃが……効かなくても失望しないでほs」


「今、この状況を打開できるのは、きっとテレサしかいないはずですわ!期待していますわよ!テレサ……」うるうる


「…………はぁ……」げっそり


自身の話を聞かずに、一方的に期待だけ寄せてくるベアトリクスを前に、諦めたような表情を見せながら溜息を吐くテレサ。


とはいえ、彼女に、その期待を無視するつもりはなかったようで……。

テレサは一旦眼を瞑ると、大きく深呼吸をしてから、魔力で真っ赤に輝いていた眼を見開いて……。

そして、今もなお剣士に襲いかかっていたマイクロマシンたちに向かって、こう言ったのである。


「マギマウスの亡霊たちよ!”滅びるのじゃ!”」


その途端――


『『『!?』』』びくっ


と、一瞬だけ痙攣して――


サァ……


と、その場に崩れ落ちていく、マギマウスの形をしたマイクロマシンたち。

どうやらテレサの魔法は、亡霊とも思念体とも生物とも言えない彼らにも、大きな効果があったようである。


とはいえ……


『…………ちゅう?』


すべてのマギマウスたちが形を失ったわけではなかったようだが。


「流石、テレサ!かなりの数を退治できたようですわね!でも……まだ残っているみたいですわね?」


「妾としては、機械だか亡霊だか分からぬ者たちにも言霊魔法が効く事に驚きなのじゃが……しかし、効かぬ者がいるというのは何故なのじゃろうかの?めいっぱい大声で叫んだゆえ、妾の声が聞こえぬわけでは無かったはずなのじゃが……」


と、驚き半分、戸惑い半分、といった様子で、首を傾げるベアトリクスとテレサ。


そんな彼女たちの疑問に答えるように、カタリナがこう口にした。


「もしも彼らが、私の実験で犠牲になったマギマウスたちだとするなら……彼らは遺伝子操作を受けた者たちということになるので、似たような形をしていても、厳密にはマギマウスと異なる種に変化していたのかもしれません。って言っても……かなりこじつけ気味な推測ですけどね?」


「ふむ……だとすると、妾の言葉が悪かったかのう?なら……もう一度やるのじゃ!」


と、テレサが再び魔法を使おうとした――そんな時だった。

ベアトリクスが、まるで可哀想なモノを見るかのような視線をテレサへと向けながら、こう言ったのである。


「あの……テレサ?」


「む?何じゃ?いま、妾のカッコイイところを見せようと思っておったのじゃが……」


「また尻尾から毛が……」


「……ふ、ふむ。どうやら妾はここまでのようじゃの……」げっそり


「まぁ、数が多かったですからね……。でも、十分な活躍だったと思いますよ?」


と、尻尾が2本減った上、残った1本も残念な様子になっていたテレサへと、苦笑を向けながら、励ましの言葉を送るカタリナ。

どうやらテレサは、1回の言霊魔法で、1日に使うことの出来るすべての魔力を消費してしまったようである。


ただ、カタリナの言う通り、彼女の魔法は十分な効果を発揮していて……。

マクロファージたちと共闘しながら剣を振っていた剣士の身体的負荷は、今では随分と軽減されていたようだ。


「助かったぜ!テレサ様!これでまだ戦えそうだ!」


「うむ……あまり無理するでないぞ?」


「あぁ、大丈夫だ!で、ニコル!何か良い案は無いのか?!」


「それなんだが……もう終わると思うぞ?」


「「「「…………えっ?」」」」


賢者が何を言い始めたのか分からず、思わず聞き返してしまう一同。

彼の言葉をそのまま受け取るなら、戦闘はまもなく終わる、という意味のはずだが……。

目の前で未だマイクロマシンたちが乱舞している様子を見ていた者たちにとっては、理解しがたい言葉だったようである。


……ただし、ワルツを除いて。


「……こんだけ数が減ったなら、後は重力制御とマクロファージたちを上手く組み合わせれば、どうにか片付けられるわ!」


ワルツはそう口にすると、重力制御システムを使い、バラバラの場所に散開していた残存マイクロマシンたちを押さえつけ始めた。


するとそこへ、透明なマクロファージたちが大量に群がり、残っていたマイクロマシンたちを吸収して――


ボフッ!

ボフッ!

ボフッ!


と、音を上げながら破裂を始める。


これが、マイクロマシンたちの数を減らす前の状態なら、やってもやっても終わらないほどに、途方もない時間が必要だったはずだが……。

彼らの数が大幅に減った今では、戦闘が終わるのも時間の問題だったようである。


こうして。

マイクロマシンたちの暴走は、テレサの魔法と、ワルツの重力制御システム、それにコルテックスのマクロファージたちの活躍により、ようやく終息へと向かったのであった。



……言っておくのじゃが、妾の言霊魔法は万能ではないのじゃ?

1日に最大で3回。

3人以上の者たちを相手に使うなら、たった1回しか使えぬ魔法じゃからのう。

しかも、その際の最大数は、時と場合によって変動するというおまけ付きなのじゃ。

この話で、マギマウスたちを全滅させられなかったのは、実はそれが原因……かもしれなかったりするのじゃ。

まぁ、本当の理由は闇の中じゃがの?


それはさておき……。

しょうもない終わり方をして、申し訳ないのじゃ……。

この1週間で何か良い案が思いついたら、そちらを採用しようと思っておったのじゃが……残念ながら、何も思いつかなくてのう……。

次の章に移る期限も迫っておるゆえ、仕方なく、ばっくあっぷぷらんで行くことにしたのじゃ。

いつまでも戦闘しておるわけにもいかぬしのう……。


というわけで。

明日からは、あふたーすとーりーなのじゃ?



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