8.9-23 準備23
「うぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉ!!」
ズドォォォォォン!!
剣士の戦いは中断することなく、マギマウスの形をしたマイクロマシンたちの真ん中で続いていた。
一見すると戦闘の開始から現在に至るまで、剣士側もマイクロマシン側も、双方、その攻防には、まったく変化が無いように見えていたが……。
剣士の内心は、時間が経過するにつれて、大きく変化していたようである。
「(どうする?しばらくはカタリナとマクロファージの援護のお陰で戦っていられそうだが、いつまでも戦ってるわけには行かないぞ……。それに、早く……何か突破口を見つけないと……)」
最初は怒りに任せて戦っていた剣士だったが、今になって徐々に冷静さを取り戻しつつあったのだ。
そして彼は気づいたのである。
……このままでいけない、と。
そんな彼の眼の前には、幾つかの選択肢が転がっていた。
例えば、非効率な戦いを止めて、そして後退し、あとの戦闘をワルツとコルテックスに任せる、という手である。
だが、現状では、重力制御システムを使ってマイクロマシンたちを逃さないようにしているワルツも、そして遠隔地からマクロファージたちを操作しているコルテックスも、事態を収拾するための決め手を欠いており、あまり良い選択肢とは言えなかった。
あるいは、2人に戦闘を任せることによって手の空く剣士が、事態の収束に繋がるような行動が出来るなら、有効な手立てだと言えたが……。
彼が戦闘を止めると、単にワルツたちの負担が増えるだけで、そのうえカタリナたちにも飛び火する可能性が否定できなかったので……。
彼は今すぐに戦闘を止めるわけにはいかなかったようである。
それとは真逆に、現状の戦闘を気の済むまで続ける、という選択肢も存在しないわけではなかった。
だが、現状に危機感を抱いた剣士にとっては、選びたくない行動で……。
特に、食べられてしまったエネルギアのポンプのことを考えるなら、気の済む、などという悠長なことはできなかったようである。
「(どうする……どうすれば……)」
手元にある材料を組み合わせて、どうにか事態を解決する方法はないか、と悩みつつ……。
到底人とは思えない勢いで剣を振り回しながら、周囲へと眼を向ける剣士ビクトール。
そこに彼は、とある人物の姿を見つけて……。
そしてあらん限りの声を上げて、こう叫んだ。
「おいニコル!お前、たまには賢者らしいことしてみろ!!」
それに対し、賢者ニコルは、難しそうな表情を浮かべて眼を瞑ると……。
ややあってから、短く返答した。
「……無理だ!」
「無理じゃねぇ!考えろよ!」
「方法が無いわけではない。だが……ここにマイクロマシンを捕食するマクロファージたちがいる以上、どうにもならん……」
その言葉を聞いて――
「「…………え?」」
と、同時に耳を疑うような様子を見せる剣士とワルツ。
どうやら賢者には、何か妙案があったようである。
それに興味があったのか……。
剣士とは違って、すこしだけ行動に余裕があったワルツが質問した。
「ねぇ、賢者。なんか、いい案でもあるわけ?」
「いい案……と言えるかどうかは分からんが、ポテンティアに頼めばいいのではないか?あいつなら、同じ土俵で、正面から戦えるだろう」
「あ…………」
賢者に言われて初めて気づいたのか、『あ』を口にした状態のまま固まるワルツ。
それから彼女は、再び電波に声を乗せて、妹へと問いかけた。
『こ、コルテックス?!やっぱり、マクロファージ、止めてくれない?』
『はい〜?急にどうしたのですか〜?』
『賢者が言ってたのよ。マイクロマシンの相手を、ポテンティアにさせればいいんじゃないか、って。目には目を、ってやつ?』
『あ〜、そういうことですか〜。いいですよ〜?今すぐ止めればいいですか〜?』
『えーと……ちょっと待ってね?』
そう口にすると、電波を向ける先を変えるワルツ。
その先が誰なのかは、もはや言うまでもないだろう。
『ポテンティア?ちょっと良い?』
『はい、なんでしょうか?』
『今すぐここ……エネルギアのポンプ室に来てくれないかしら?。それもできるだけ大量のマイクロマシンたちと一緒にね?』
『あの……姉の中で、何かあったのですか?』
『実は、マイクロマシンたちが暴走しちゃったのよ……。で、貴方に止めてもらいたい、ってわけ』
その言葉に――
『…………』
何故か黙り込んでしまうポテンティア。
その理由が分からなかったらしく……。
ワルツは怪訝そうに問いかけた。
『……ポテンティア?』
『あの……確認ですけど、どうしても僕がやらなきゃならない感じですか?』
『もしかして……何かやりたくない事情でもあったりするの?』
ポテンティアの言葉に、何処か覇気が無かったのを感じて、その理由を問いかけるワルツ。
するとポテンティアは、自分たちを取り巻く事情について話し始めた。
『マイクロマシンたちが暴走したということは……以前と同じく、マギマウスたちによる妨害が原因……ということでよろしいですか?』
「えぇ。マギマウスの姿に変化して、カタリナや剣士に襲いかかってたから……多分ね」
『……では、時間も無いと思いますので、手短に説明します。彼らマギマウスと、僕や姉は、本来、似通った存在です。マイクロマシンたちを依代にして、この世界に顕現する幽霊のようなもの、と考えていただければいいと思います。つまり……マイクロマシンという実体の他に、眼には見えない霊体のような……意思の固まりのような、なんとも表現し難いモノがありまして、僕とマギマウスたちとが衝突するということは……』
『……私たちの眼には見えない場所で、今度は貴方が大変なことになる、ってわけね?』
『端的に言うと、そういうことです。ちなみにですけど……ものすごく大変なことになってたりします?』
『……エネルギアのコア――ターボ分子ポンプが、奴らに食われたわ』
『……分かりました。そういった話でしたら、僕も痛みを覚悟で戦うことにしましょう』
『いや、ちょっと待って。これ以上、犠牲を増やす訳にはいかないから、少しだけ考えさせて……』
エネルギアだけでなく、ポテンティアも失ってしまうかもしれない、と考えたのか……。
ワルツは賢者の提案を、実行に移せなかったようである。
そんな彼女の眼の前では、今もなお、剣士の乱舞が続いていて……。
残された時間はそれほど長くない――そんな頭が痛くなるような現実が、ワルツのことを苛んでいたようである。
……まったく話が進んでおらんのじゃ。
じゃが、ポテやエネルギア嬢がどういった存在なのかを振り返らねばならぬ、と思っての?
それに、今回の話を書かねば、賢者が完全に空気どころか、虚空間に囚われ……いや、なんでもないのじゃ。
まぁ、ともかく。
その場で足踏みをするような話ではあったのじゃが、書かねばならぬ話じゃと思って、書いたのじゃ。
……この先の話で良い案が浮かんでこなかったゆえ、時間稼ぎをしようと思って書いた駄文、というわけではないのじゃぞ?
……多分の。




