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8.9-15 準備15

こーしょん!Caution!

BL……ではないのじゃ?

『……家ください』


「「……えっ?」」


『僕たちに、家ください!』


ドゴォォォォォン!!



半日かけて2人で王都を周り、昼食を摂った後で、ミッドエデン政府直轄の不動産屋に立ち寄って……。

そしてそこで、ポテンティア(?)が強権を発動し、戸建ての家を購入するために、値切りに値切って(?)から。


ほぼ、タダ同然で家を手に入れる事に成功した剣士は、夕暮れの大通りで噴水に腰掛けながら、その頭を抱えていた。


「……やっちまったぜ……」


と、少し後悔した様子で呟く剣士。

ちなみにそれは、ポテンティアが不動産屋のことを脅したために、後々、大きな問題に発展することを懸念していたことが原因――ではなかったようだ。


「ついに、家……買っちまったよ……」


と、これまでの人生では、大きくても、六畳一間にしか住んだことがなかった剣士。

そんな彼にとって、中古物件とは言え、100坪の敷地に建てられた庭付きの家に住むのは、いささか心的なプレッシャーが大きかったようである。


『あの……ビクトールさん?もしかして僕……勝手なことしちゃいました?』


そんな剣士の様子を見て、申し訳なさそうに問いかけるポテンティア。

どうやら彼も、自身が暴走していたことには、少なくない自覚があったらしい。


それに対し、剣士は首を振りながら、こう答える。


「いや……むしろポテンティアには、すごく感謝してるよ。もしもお前がいなかったら、俺はきっと、勇者が王城から出るまで、ずーっと窮屈な生活を続けていたはずだからな……」


『う、うん……。それなら……いいんだけど……』


と、言いながらも、なぜか納得できなさそうな表情を浮かべるポテンティア。


それを見た剣士は、苦笑を浮かべると。

自身の隣りに座っていたポテンティアの頭の上に――


ポフッ……


と、やさしく手を置いた。


『…………?』


「気にすることなんか、何もないんだぞ?さっきも言ったけど、俺はお前に感謝してるんだからな」


『…………』


そんな剣士の諭すような言葉を聞いても、やはり表情が優れなかった様子のポテンティア。

それから彼は、剣士に対し、こんな言葉を口にした。


『ビクトールさん……ポt……僕にすっごく優しいけど……それって、もしかして……エネルギアお姉ちゃんに、愛想を尽かしちゃったってこと?』


「えっ?」


『だって、ポt……僕に優しいってことは、つまり…………ううん。なんでもない……』しゅん


言いたいことをすべては口にせず、途中で言葉を区切ると……。

ポテンティアは、しょんぼりとした様子で、俯いてしまった。


そんな()()の様子を見た剣士は、少しだけ呆れたような表情を見せると。

彼女の頭から放して、立ち上がり、そして1歩2歩と前へと進んで……。

そこで後ろを振り返ると、彼はこんな前置きを口にした。


「……これからちょっと予行演習をしようと思う。いつか近いうちに、エネルギアと顔を合わせられるようになった時、俺があいつに言おうと思ってる言葉だ」


『…………?』


剣士が何を言わんとしているのか分かってないのか、首を傾げる少女。

そんな彼女に対し、剣士はこう口にした。


「……エネルギア。一緒に暮らそう」


その言葉に――


『……ビ、ビクトールさん……!うん。うん!』うるうる


と、ポテンティアを名乗る少女は、まるで自分のことのようにして、嬉しそうに何度も頷いた。


そんな彼女の仕草が、微笑ましかったのか……。

剣士は、夕日によって出来た長い影のせいで、正面からは見えにくかったその表情に苦笑を浮かながら、目の前にいた少女に向かって再び話し始めた。


「……何言ってるんだ?ポテンティア。今のは予行演習だ、って最初に言ったろ?それに、今の言葉は、お前に向けた言葉じゃないからな?」


『う、うん……わかってる……』ぐすっ


「それでな?一つ、お前に頼みたいことがあるんだ。城に帰ったらエネルギアにこう伝えて欲しい。……俺はお前のこと、ずっと待ってるからな、って」


その言葉を聞いて――


『……うん!絶対に伝える!たとえ、空の向こう側にいても、星の裏側にいても……絶対に伝えるから!』


と、覚悟を決めたような表情を浮かべるポテンティア。


その言葉の裏にどんな事情が隠れていたのかは、剣士には分からなかったようだが……。

一つだけ、彼には、確信が持てることがあったようだ。

すなわち――――この数日間の憂いは、単に偶然が重なっただけの思い過ごしだった、と。


それから2人で夕食を摂って、夜の街の中を歩き回って……。

こうして、剣士ビクトールと、ポテンティア(?)を名乗った少女の一日は、普段通りに終わるのであった。



その日の深夜。

王城の最上階にて……。


『どうでした?姉s……えっ……』


『ごめんねー、ポテちゃん。今日一日中、ずっと身体借りちゃってて……』


大きな月が地平線へと沈もうとしている様子が綺麗に見えていた飛行艇発着場には、人の姿をしたポテンティアと、そしてもう1人のポテンティア(?)の姿があった。

そこで彼らは、何やら会話を交わしていたようである。


『い、いえ……。その様子なら、ビクトール様とうまくいったようですね?』


『うん……。だた、全部終わった、ってわけじゃないけどね?でも、大っきな収穫があったから、今すっごく幸せ!』


『そ、そうですか……(僕の分身たち…………変なことに使われなかったかな……)』げっそり


『改めてありがとう、ポテちゃん。それじゃぁ、身体、返すね?』


『は、はい……(もうそのまま返さなくても良いんですけど……)』


と、何故かションボリとしながらも、姉に貸していた身体の一部を回収するポテンティア。


それから彼は、自分の身体に、何も異常がないことを確認してから……。

自らのマイクロマシンたちを使って人の姿を再構築していた姉へと、こんな質問を投げかけた。


『ところで、姉さん。ビクトール様のことは、ちゃんと騙せていましたか?』


『そりゃ、もちろん!流石、ポテちゃんの身体だねー。最後まで僕がエネルギアだってこと、ビクトールさん気づいてなかったみたいだよ?』


『そ、そうですか……』


『それじゃぁ、僕は、お姉ちゃんのところに戻らなきゃならないから、また明日ねー?おやすみ、ポテちゃん!』


『あ、はい。おやすみなさい……』


そう言って、その場から立ち去るエネルギアの背中に向かって、小さく手を振るポテンティア。

その際、彼は、こんなことを呟くのだが……。


『……ビクトール様……すっごく良い人ですね……』


その言葉が、”ポテンティア”にちゃんと変身できていなかった彼の姉と関係があるのかどうかは、不明である。



どこからエネルギア嬢が元の姿に戻っておったか、というと……かなり前からだったりするのじゃ?

少なくとも、不動産屋に行く前から元の姿に戻っておったようじゃのう。

というか、実は、王城の橋を渡った辺りから……いや、なんでもないのじゃ。

そんなエネルギア嬢のことを、ビクトール殿は、一日中ポテとして扱っていた、というわけなのじゃ。

妾にはよく分からぬが……紳士、とはそんな者のことを言うのかもしれぬのう。


さて。

のろけ話(?)は、ここまでなのじゃ。

ここからは下り坂――。

それも垂直に近い急勾配なのじゃ?

まぁ……実際には、傾斜があるのかどうかすらも疑わしい平地を走ってゆく可能性も否定はできぬがの?


作家なら、この辺からが腕の見せ所のはずなのじゃが……。

甘々の妾には……難しいかも知れぬ゛……!


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