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8.9-06 準備06

すでに朝食の時刻を大幅に過ぎた、そんな頃。


「……どうしてこうなったのじゃ……」げっそり


太陽の光が鈍角に差し込む自室の中で、ようやく眼を覚ました様子のテレサ。

そんな彼女は、そこに広がっていた光景を見て、出来ることなら再び意識を手放したかったようである。


彼女の眼の前では、一体どんな光景が繰り広げられていたというのか。


「…………zzz」

「…………」すーすー


自身のベッドの中でルシアとベアトリクスが仲良く眠っていて……。

そしてテレサ本人は、何故か薄い毛布にくるまりながら、冷たい床の上で、小さくなって寝ていたのである。


「(ちょっと待つのじゃ……。昨日の夜、何があったのだったかのう……)」


テレサは脳内でそう呟くと、昨晩の出来事を、ぼんやりとした頭で思い出そうとした。


ちなみに、何があったのか、というと。

ルシアとベアトリクスに強請(ねだ)られて、テレサは遅い晩御飯として稲荷寿司を作ったのだが……。

それが完成する前に、ルシアもベアトリクスも、机に突っ伏して眠ってしまったのである。

おそらくは旅の疲れが、急にドッと襲ってきたのだろう。


そんな2人のことを、テレサは各々の部屋へと送り届けようと思ったようだが、彼女自身にも旅の疲れや、料理の疲れが溜まっていて……。

その上、この王城に来ることが初めてのベアトリクスには、まだ部屋が割り振られていなかったこともあり、連れていく先がなく……。

結果、テレサは仕方なく、2人のことを自身のベッドに寝かせることにしたのである。

まぁ、ようするに、彼女たちのことを動かすのが面倒になったのだ。


しかし、ベアトリクスたちを寝かせたことで狭くなってしまったベッドの上で、自身も共に寝るのはどうかと思ったのか。

テレサはベッドの上で寝ず……。

仕方なく、その場にあった毛布だけを確保して、床で寝ることにした、というわけである。


なお、ベッドで寝なかった理由が果たしてそれだけなのかは、プライバシーに関わってくることなので伏せておくことにする。


「(あー、そんなこともあったのう……)」


何があったのかを思い出して、()()()ため息を吐くテレサ。


それから彼女は、2人の眼を覚まさないように、静かに立ち上がると手早く着替えて……。

そして、顔を洗ってから、自室に備え付けられていたキッチンに立つと、冷蔵庫の中から、前日に作ってあった稲荷寿司を取り出した。


「(この時間じゃと、もう朝食の時間は終わっておる頃じゃろう。いつもなら狩人殿が起こしに来るはずじゃが……この感じ、恐らく部屋まで来て、妾たちのことを見て帰っていったのじゃろうのう。どうせなら起こしてくれればよいのに……。仕方ないのじゃ。妾が食事を作るかのう。丁度、寿司もあるわけじゃしの……)」


そんなことを考えながら、お揚げと豆腐入りの味噌スープの準備を始めるテレサ。


鰹節(?)の固まりを(かんな)で削って。

沸騰したお湯にそれを入れたら、すぐに火を止めて。

そして3分後に、布で()して……。


それから彼女がキッチンで、味噌汁に入れる具を、トントントントンと、リズムよく切っていると――


「…………テレサ……?」

「…………お寿司……?」


朝に弱いゾンビたち(?)が、2名ほど、その場に姿を現したようだ。


そんな彼女たちに対し、テレサは振り返らずに、具を鍋の中に入れながら、口を開く。


「2人とも起きたかの?もう少しで朝食ができるゆえ、そこで座って待っておるが良いのじゃ」


その言葉を聞いて――


「「…………」」


眠いのか、それとも他に何か言いたいことでもあったのか……。

ぼーっとした表情を浮かべながら、その場で立ちすくむルシアとベアトリクス。


そんな彼女たちの前で、テレサは――


「〜〜〜〜♪」ブンブンブン


と、3本の尻尾をリズムよく振り回しながら、味噌を鍋の中に溶かして。

そして、再度、鍋を火にかけ、沸騰する直前で火を止めて……。


「完成したのじゃ?」


間もなくして朝食の準備を終えたようだ。

まぁ、主食である稲荷寿司は既に出来ていたので、味噌汁を作って、漬物を出しただけだが。


しかし、それでも――


「「…………」」


その場で固まったまま、まったく動かない様子のルシアとベアトリクス。

そんな彼女たちが、パッチリと眼を開けていたところを見ると……。

眠いことが原因で立ち尽くしていた、というわけではなく、何か別に理由があったようだ。


「何をしておるのじゃ?さっさと食べねば、せっかく作った味噌スープが冷えてしまうのじゃ?」


そう言って、先に食卓へと着き。

手を合わせてから、自分で用意した食事を食べ始めるテレサ。


そして彼女に遅れること数十秒後。

ルシアたちも、食卓に着いて――


「……私、このままだと、ダメかもしれない……」

「……奇遇ですわね……。私も、ダメだと思いますわ……」


そんな言葉を呟いてから、食事を摂り始めたようだ。

ただし、なぜか、悔しそうな表情を浮かべながら……。



その頃、ワルツは、上層階にある自分の工房にいた。


「コルテックスに改造されてるかもしれないって思ったけど、大丈夫だったみたいね……」


と、そこにあった機器やクリーンルームに変化が無いことを確認する、安堵のため息を吐くワルツ。


そんな彼女の近くには、普段、その場には来ないはずの人物の姿もあったようだ。


『えっと……お姉ちゃん。話って何?』


最近、服を着ることを覚えた、マイクロマシン集合体のエネルギアである。

彼女がその場に来たのは、ワルツから呼び出されていたためだったらしい。


しかし、なぜ呼び出されたかまでは知らされていなかったらしく、エネルギアはそんな質問の言葉を口にしたわけだが……。

それに対し、ワルツは、質問を返すという形で返答を始めた。


「貴女……現状だと、船体にある無線給電装置の電波が届く範囲内でしか活動できないでしょ?」


『…………?』


「まぁ、つまり、船体から離れられないでしょ、ってこと」


『うん。でも……それがどうかしたの?』


「貴女にはそんな縛りがあるわけだけど、貴女の弟のポテンティアは、自由に行動できるでしょ?それって……ずるいと思わない?」


『そう言われれば……そうかもしれない……かな?』


「ふふん?まだ気づいてないのね?ちなみにだけど……貴女とポテンティアとで、大きく違うことがあるんだけど……どの辺が違うか分かる?」


『んー……ん゛ー……』


「……まぁ、分かんないわよね……」


と、徐々に顔が赤くなっていくエネルギアの姿を見て苦笑するワルツ。


そんな彼女が話題に上げたポテンティアは、一見すると、バッテリーを持ち運んでいるわけでも、無線給電装置が近くにあるわけでもなく……。

未知のエネルギーを使って動いているように見えていた。

数日前までは、マイクロマシンたちを作った本人であるワルツ自身も、魔法のようなもので動いていると考えていたようである。


だが、実際には、種も仕掛けもあって……。

ワルツは、エネルギアにも、同じことをさせようとしていたようだ。


「端的にいうと……無駄にたくさんあるマイクロマシンたちを使って、”発電機”を作ってるのよ。その”発電機”がある場所の周辺なら、自由に活動できる、ってわけ。ちなみに燃料は普通の食事ね?だから……さっきの貴女とポテンティアの違いは何か、って問いかけの答えは、身体を構成しているマイクロマシンの数がまったく違う、ってことよ?片や、船体を修復する程度の最低限の数しか持っていなくて、片や、船体全体を構築できるだけの数がある……そんな感じね」


『そっかー。あんまり困ることもなかったから、考えもしなかったかなー』


「その様子だとそんな感じみたいね。それで本題なんだけど……もしも貴女の身体を構成するマイクロマシンの数を増やしたら、一体どうなるかしらね?」


『んと……ビクトールさんが強くなる!』


「……まぁ、巡り巡ってそうなるかもしれないわね……。だけどそれだけじゃないわよ?つまり、貴女もポテンティアと同じように、船体に依存することなく、自由に移動できるようになる、ってことだから――」


と、ワルツが口にした途端――


『…………お姉ちゃん!今すぐ、マイクロマシンの数を増やして!なんだったら僕が、ボレアスにとかエクレリアに行って、お姉ちゃんの邪魔しないように国を滅ぼしてくるから!』ゴゴゴゴゴ


何やらエネルギアの瞳に炎が灯ったようだ。

ただし、物理的に。


つまり……。

ワルツは、現状、行動範囲が船体周辺に限られてしまっているエネルギアの制限を無くして、いつでも剣士の側にいられるようにと、エネルギアを改良しようとしていたのである。

エネルギアはそのことに、ようやく気づいたようだ。


「でもね……。これにはいくつかの問題があるのよ。その中でも一番面倒な問題は……貴女の本体が”ターボ分子ポンプ”って点ね。そこからどうにかして意識を剥がしてきて、マイクロマシン側に持ってこなきゃならないんだけど……場合によっては……」


『僕……死んじゃうってこと?』


「うん。端的にいうと、そういうこと。どんな原理で意識が宿ってるのか、殆ど分かってないから……」


『…………』


「それでもやる?もちろん、今ならまだやm」


『やる!』


と、ワルツが問いかけている最中にも関わらず、返答するエネルギア。

もちろん、死ぬ(?)かもしれないことに対して、まるで恐怖がなかった、というわけでもなかったようだが……。

得られるかもしれない希望の方に、大きく意識が傾いていたようだ。

――いつどこでも、剣士と共にいられるようになるかもしれない、という希望に。


「まぁ……やるだけやってみましょうか?」


『うん!じゃぁ、エクレリアとボレアスに行って、滅ぼしてくるね!』


「いや、行かなくていいわよ……。っていうか、ボレアスはこっち側の国なんだから、滅ぼしちゃダメだからね?」


と、念のために釘を刺すワルツ。


こうして……。

ワルツによるエネルギアの大改造(?)が始まったのである。



あー……ダルいのじゃ……。

最近、涼しくなってきたからといって……調子に乗って……外で身体を動かしたら……このザマなのじゃ……。


……熱☆中☆症?


もうダメかも知れぬ……。


それはさておいて。

本当はこの話は2つに分けるつもりだったのじゃ。

前半部分と後半部分とで、話が大きく異なるからのう。

じゃが、前半分、後ろ半分だけじゃと、文量が規定量に達しなくてのう……。

仕方なく次の話のいんとろを継ぎ足した、というわけなのじゃ。

まぁ……今回に限った話ではないのじゃがの?


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