8.9-05 準備05
「うぅ……」ぶるっ
「……どうしたですか?」
「う、ううん。何でもないかも。ちょっと悪寒を感じただけかもだから……」
「もしかしてイブ様、風邪ですか?」ぴとっ「熱はないですね……」
「イブは”けんこー”に気をつけてるかもだから、風邪は引かないかもだよ?この感じ……多分、誰かがイブの噂をしてるかもだね……」
と、つい今しがた、目の前を通過していったエレベータの方へと、眉を顰めながら、怪訝そうな表情を向けるイブ。
エレベーターに誰が乗っていたのか、彼女には分からなかったようだが、少なくともそこから異様な気配が染み出していたことだけは間違いなかったようだ。
まぁ、通り過ぎていった者たちのことはさておいて……。
イブとローズマリーの2人は、王城の中の清掃をしていたようである。
それは王城のメイド長たるイブの日課であるだけでなく、諜報部員志願のローズマリーにとっても心身を鍛える朝の訓練の一環だったようだ。
ローズマリーにとっては今日がその初日だったが、これから先、ほぼ毎日、イブと共に継続していくことだろう。
そんな中。
イブは窓を拭きながら、廊下をモップがけしていた後輩に向かって質問した。
「ところでマリーちゃん?」
「はいです?」
「マリーちゃん、イブのこと、”様”づけで呼んでるかもだけど、イブの名前に”様”をつける必要はないかもだよ?」
と、ローズマリーからの名前の呼び方が気に食わなかった(?)のか、そんな指摘の言葉を口にするイブ。
すると、ローズマリーの方は――
「…………?」
イブの言葉が理解できなかったわけではなさそうだが、思わず首を傾げてしまったようだ。
なにやら納得し難いことがあったらしい。
それを見て――
「んと……イブ、なんか変なこと言ったかも?」
と、ローズマリーに合わせるかのように、首を傾げるイブ。
そんな時。
ローズマリーから返答が返ってくる前に、彼女たちのところへと――
「2人とも、今日も精が出ますね?」
「お疲れ様です、イブちゃんとマリーちゃん」
シルビアとリサの情報部2人組がやってきた。
そんな2人に対し、いつも通り――
「おはようございますかも!シルビア様とリサ様!」
と答えるイブ。
一方、ローズマリーも――
「おはようございますです?」
と返答はするものの……。
イブのようにスッキリとしたものではなく、何処か引っかかりのあるような返答だった。
とはいえ、普段の挨拶と大差があったわけではないので、誰もその小さな変化には気づかなかったようだが。
「シルビア様とリサ様……その格好、もしかして、どこか遠出するかもなの?」
と、シルビアたちが厚手のコートを着て、その上、重そうなリュックを背負っている様子を見て、そんな質問を投げかけるイブ。
すると、シルビアとリサは、コクリと頷いてから、事情を説明し始めた。
「連絡要員として、新入りちゃんと一緒に、ボレアスに行ってくる事になったんですよー」
「出張ですよ、出張。もう手当がガッポガッポです!」
「そうかもなんだ……。確かに、ヌル様方を置いてきてるかもだから、一緒にいてあげると、喜ぶかもだねー」
「ボレアスの魔王なんで、寂しいとか寂しくないとか、あまり関係ないと思いますけどね……」
と、イブの言葉に苦笑を浮かべながら返答するシルビア。
なお、この世界では、ワルツがいなくなると、禁断症状のようなものを発症するという奇病(?)が蔓延しているようだが……。
その病(?)をヌルたちが患っているかどうかは今のところ分かっていない……。
「それじゃぁ、行ってきますね?1週間後、向こうでお待ちしてます」
「帰ってきたら何買おっかなー。ペットほしいなー」
「う、うん。いってらっしゃいかも?(えっ……イブもまた行くかもなの?)」
「いってらっしゃいです!」
そう言って、出かけるシルビアたちに向かって、手を振るイブとローズマリー。
そして2人が見えなくなってから、おもむろにイブが口を開いた。
「そっかー……そうかもだよね。イブが生まれた国なんだもん、どうなるか最後まで見届けなきゃダメかもだよね」
その呟きに対し――
「…………」
と黙って考え込むような素振りを見せるローズマリー。
なぜ彼女が急に黙り込んでしまったのか、理解できなかったイブは、その理由を問いかけることにしたようだ。
「……どうしたの?マリーちゃん」
「……マリー、さっきの話のことを考えていたです」
「さっきの話?」
「はいです。イブ様の名前を呼ぶ時に”様”を付けちゃいけない、って話です」
「えっ……いや……付けちゃいけないってわけじゃ……」
「イブ様は、皆さんの名前を呼ぶ時、”様”を付けてるです。だけど、イブ様の名前には”様”を付けちゃいけない……それは何故なのか、マリーは考えたです」
「特に理由は無いかもなんだけど……」
「……そしてマリー、気づいたです。イブ様が”様”を付けずに名前を読んでいるのは、飛竜様、ポラリス様、狩人様、ルシア様、ポテ様、エネ様、そしてユキ様です。内、ユキ様はイブ様のお姉ちゃんなので、数に数えないとすると……この6人に共通して言えることは……みんな胸が小さいことです……!」きりっ
「ちょっ……それちょっと失礼かもなんじゃ……」
「テレサ様の名前になぜ様付けして呼んでるのか、マリーには分かりかねますですが……そう考えると、たしかにイブ様に”様”を付けるのは間違いになるです」
「……うん……確かにイブ、胸は無いかもだね……(真面目に考えてるみたいかもだから怒れないかも……っていうか、それならコル様は?)」
「ですからマリー決めたです!イブ様のこと……これから師匠って呼ぶことにするです!」
「えっ……」
「というわけで、イブ師匠?改めてよろしくお願いするです!」
「う、うん……。でも、できれば”様”って付けてもらったほうが……」
「もちろん、マリーの推測が間違っている可能性もあるですから、他の人たちのことは、これまで通り、様付けで呼ぼうと思うです。ですが、イブ師匠の場合は、実際、色々なことを教わっているですから……師匠と呼んでも間違いではないと思うです!」
「……マリーちゃん、それもしかして、わざと言ってる?」
「……?何がですか?」
「……ううん。何でもないかも……」げっそり
ローズマリーの悪意のないトンデモ理論を前に、為す術が無かった様子のイブ。
それからというもの、彼女はローズマリーに”師匠”呼ばわりされることになったのである。
なお、飛竜も便乗するかのように、彼女のことを師匠と呼ぶようになったとか……。
この話は本筋からは脱線した駄文ではあるのじゃが、どうしても書きたい話だったのじゃ。
マリー嬢がイブ嬢のことを"様"付けて呼ぶのは違和感があるからのう……。
……え?"師匠"でも違和感があるじゃと?
細かいことは気にするでない!
というわけで、もう0.7話駄文が続いてから、8.9章で書きたかったメインの話(?)に入ろうと思うのじゃ。
上手く書けるかのう……。
まぁ、やるだけやってみようと思うのじゃ。




