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8.9-01 準備01

「……例の防衛施設の件だが、すぐに調達部に案件を回して欲しい。それも大至急だ」


「はっ!」


「この、兵士たちの宿舎の拡張計画については少し待ってくれ。コルテックスが帰ってきたら、最終判断を下す」


「かしこまりました」


「あと……」


と、夜もかなり遅いというのに、廊下を歩きながら、自身を取り巻いていた官僚たちに向かって、次々と指示を飛ばしていく狩人。

そんな彼女の手の中には、大量の書類があって……。

それに目を向けて、移動しながら、残務処理をこなしていたようである。


そんな彼女の前へと――


「あー、久しぶりの我が家……のはずなんだけど、全然、記憶にないのよね……。こんな作りじゃなかったような気がするんだけど……」

「気のせいですよ〜?気のせ〜」

「あの……気のせいではない気が……」


ワルツとコルテックス、それにシラヌイが現れた。


――その途端である。


ドシャッ……!


と、大量の書類が床へと落ちる音が聞こえたかと思うと――


「わ、ワルツっ!!」ずさっ


狩人が突然、廊下を走り始め――


「えっ……」


そして、少し間の抜けたような表情を浮かべていたワルツのことを――


ギュッ……


と、迷うことなく抱きしめたのである。

それから、まるで家主を見つけた家猫のように、頬ずりを始めたようだ。

いや、マーキング、と言うべきか……。


「あ、あの……か、狩人さん?抱きつく相手、間違ってません?私より、シラヌイのほうg」


「ワルツ……ワルツ!会いたかった……」


「えっと、あの……」


と、4日前にもザパトの町で会ったことを思い出しながら、戸惑うような表情を見せつつ、首を傾げるワルツ。

その際、官僚たちを含めた周囲の者たちが、苦笑を浮かべていたのは、狩人の反応に何か思うことがあったからか……。


そんな折。

シラヌイが小さく息を吐いて、そして申し訳なさそうな表情を浮かべると……。

今もなお、幸せそうに頬ずりをしていた狩人に対し、彼女はこう口にした。


「申し訳ありません、狩人様。ご迷惑をおかけしました……」


すると今度は――


ガバッ……


と、シラヌイへと抱きつく狩人。

ただ、ワルツの時の意味不明な抱擁とは違い、今回は意味のある行動だったようだ。


「良かったシラヌイ……。無事だったんだな?」


「はい……ごめんなさい……」


「いや、良いんだ。元気でさえ居てくれれば、私はそれで十分だ。だけど……今度いなくなる時は、ちゃんと一言、相談してからにして欲しい」


「はい。次回は無いと思いますが、その時が来たら必ず……」


そう言って、狩人の胸の中で頷くシラヌイ。


それから、シラヌイのことを離した狩人が、再びワルツに抱きつこうとして、しかし、抱きつかず。

どうにか自制できたのか、ぎこちない様子で書類を拾って……。

そしてその書類を――


「じゃぁ、コルテックス。私はやることが出来たから、この案件は任せた!」


「えっ?あ、はい……分かりました〜?」


半強制的にコルテックスへと渡して、そしてワルツたちに向かってこう言った。


「食事は済んだか?まだなら、今から作るが……」


それを聞いて――


「…………あ゛」


ワルツは何かを思い出した様子で、眼をまんまるにして、固まってしまったようである。

それから彼女は、何を思い出したのか、その内容を口にした。


「地竜たちのこと、すっかり忘れてたわ……」


そう言って、わざとらしく頭を抱えるワルツ。

どうやら彼女は、地竜たちのことを失念していたようである(?)。



……一方。

しっかりと地竜たちのことを覚えていた者もいたようだ。


王都に戻ってくる直前、地竜たちに対し食事を与えようとしていた()()()()()

そう。

ローズマリーは、そこには含まれていない。


なにしろ彼女は、エネルギアとポテンティアが停泊した王城の最上階から、光に溢れる王都の町並みを見て――


「…………ここ……どこです?」


と口にしながら、唖然として固まり、地竜たちのことなど意識からすっかりと抜け落ちていたのだから。


そんな彼女に対し、イブがそこから見えていた町について説明する。


「ここはミッドエデンにあるイブたちの町、”王都”かもだよ?まぁ、イブも、正式な名前は知らないかもだけどねー(そういえば、何ていう名前の町かもなんだろ……)」


「おーと……ですか?まるで……お星様を近くで見ているみたいです……」


「ふーん、マリーちゃんにはそう見えるかもなんだ……」


と、ローズマリーが口にした夜景の表現に、感心したような表情を浮かべるイブ。

王都の光景を慣れていた彼女にとって、王都の夜景は、綺麗だとは思っても、改めて感動するような光景ではなかったらしく……。

町並みを初めて見たローズマリーの感想が、彼女には新鮮に思えたようだ。


そのせいもあってか。

彼女はすぐに我に返ると……。

ローズマリーに対してこう言った。


「そうそう!ドラゴンさんたちに、ご飯を作らなきゃ!」


「はっ!そ、そうでした!ついつい忘れてたかもです!」


そう言って、ただひたすらにだだっ広い飛行艇離着陸用の巨大な滑走路(?)の上を、地竜たちが未だ乗っているだろうポテンティアに向かって走っていくイブとローズマリー。


するとそこには、既にアトラスがいて……。

地竜たちを引き受ける準備をしていたようだ。

ワルツに直接言われたわけではないが、彼女の副音声から、地竜たちを任されたことを察したのだろう。


その姿を見て――


「うーわ……アトラス様かもだし……」


と、露骨に嫌そうな表情を見せながら、そう口にするイブ。


しかし、周囲が暗かったために、彼女の表情が見えなかったのか、アトラスは特に気にした様子を見せず。

やってきたイブたちに向かってこう口にする。


「カリーナとポラリスと俺が先導して、地竜たちに服を着せてくるから、イブたちはその間、彼らの食事を作っておいてくれ。……一応、言っておくが、服を着せるのは俺じゃなくて、ユリアたちだからな?」


「(仕方ないかもだね……)場所は食堂で良いかもなの?」


「あぁ。まさか、ここで食え、ってわけにもいかないしな」


そう言ってからタラップを下ろしていなかったポテンティアへと、大きく手を振るアトラス。

準備が整ったというサインを、ポテンティアに送ったらしい。


すると――


ゴゴゴゴゴ……


という音は鳴らなかったものの、そんな音が聞こえてきてもおかしくないような雰囲気を出しながら、ゆっくりと開いていくポテンティアの格納庫の扉。

そして、扉に内蔵されていたタラップが展開され……。

それと同時に、その向こう側に立っていた人の姿の地竜たちが、皆、2足歩行になれていないのか、少々足元をふらつかせながらも、一斉に降りてきたようだ。


「みんな腹減ってるって感じだな……」

「かもだね……」

「はいです……」


と、アトラスの言葉に頷くイブとローズマリー。


そんな3人は、これから少々面倒なことになる予感を感じていたようだ。

すなわち、空腹のあまり、地竜たちが暴走する予感である。

なにしろ、彼らの先頭には、カリーナもポラリスもいなかったので、そのまま彼らが走り出すようなことがあれば、暴走しか考えられなかったのだ。


……だが、幸いと言うべきか、暴走は起こらなかったようである。

ただし。

その場にいた誰もが予想していなかった出来事は起こったようだが。


「「「…………!」」」きゅぴーん


ドラゴンたちが一斉に”あるモノ”を見つけたらしく、そこへと向かって一目散に走り始めたのだ。

彼らは一体、何を見つけたというのか……。


「……えっ?ちょっ?!何でこっち来るかもなの?!」


地竜たちが一斉に向けてきた視線を感じ、思わず身構えてしまうイブ。

それから地竜たちは――


ガバッ!


とイブに対し、まるでタックルするかのように突進して、そして彼女に抱きついたのである。

……それも48人、全員で……。



……夏風邪はバカがひくもの……。

……妾のことなのじゃ?

もう、ぐったりで、げっそりなのじゃ。

でも、ほっそりにならぬのじゃ……。


というか、多分、またオーバーヒートしてしまっただけだと思うのじゃ。

最近は、昼夜の温度差が激しかったり、クーラーが効いておったり、効いてなかったりするゆえ、どうも体温調節が上手くいかなくてのう……。

サーモスタットの故障かの?

まぁ、種族的な問題(?)もあるゆえ、暑いのは元々苦手なのじゃがの。

早く、冬にならぬものかの……。


そういえば、フォックストロットのほうが、最近、ご無沙汰しておるのじゃ。

もう夏が終わr……さっさと終わってしまえば良いのじゃ!

じゃが、終わる前に、今の話を書き終わらねばならぬのじゃ……。


……というわけで、ルシア嬢?

さっさと書くのじゃ。


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