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8.8-24 鬼の町?24

カタリナからの報告を聞いた後で、医務室へと移動したワルツたち。

具体的なメンバーの内訳は、ワルツ、カタリナ、テンポ、ユキ、の医療関係者4人である。

他の者たちも、リアのところに顔を出したがっていたようだが、リアがまだ本調子ではないことを鑑みて、彼女に負担を掛けまいと、ワルツが代表して容態を見に行くことになったようだ。

なお、医務室が持ち場であるカタリナたち3人は、その数には入らない。


そして、彼女たちが医務室へとやってくると、集中治療室と医務室とを隔てる透明なガラス窓の前には――


「リア……私のことを覚えていないのですか?」


そんな言葉を口にする、暗い表情の勇者がいて……。

彼は、長い眠りから覚めたリアに忘れられているらしく、思い出してもらおうと必死に話しかけていたようである。

まぁ、今の女装した勇者を一見しただけでは、例え彼の両親だったとしても、即座に誰なのか気付けないのではないだろうか。


「いや、勇者……。そりゃちょっと無理があるでしょ」


と、勇者の女装のことには触れず、端的に、分かってもらえない、ということだけを伝えるワルツ。

彼女はあまり勇者の女装については触れたくないらしい。


一方、勇者は、言葉が飛んできた方へと振り返ると、少しだけ驚いたような表情を見せて。

そしてこう口にした。


「ワルツ様……帰られたのですね?シラヌイ様は、ご無事でしたか?」


「えぇ、無事も無事よ?ちょっと化粧が濃い感じになってて、かなり崩れてたみたいだけど、明日には元通りになってるんじゃないかしら?多分だけど……。あと、さっきカタリナに呼び出されてたから、そのうちここに来ると思うわ?」


「そうですか……それは幸いですね」


と、半年前の彼の姿からは想像できないような丁寧な言葉を口にして、そして安堵のため息を吐くメイド勇者。

その見た目は、もしかすると、メンバーの中の誰よりも女性らしい、と表現できるかもしれない。


「……もう、誰なのか分からなくても当然よね……」ぼそっ


「はい?いま何か……」


「ううん。なんでもないわ」


そう言って、勇者の横を通り過ぎて歩いて行くワルツ。


それから彼女は、そこにあった自動ドアの操作盤に手を触れると――


ガション……

ガシューーーッ……

ガション……


消毒室を経て、集中治療室の中へと入っていた。


そして。

寝たきりだったためか筋力が弱り、その結果、起き上がれずに未だベッドに横たわったままだった丸い獣耳と緑色の髪が特徴的な魔法使いの少女リアに対して、早速、具合を問いかけたのである。


「久しぶりね?リア。調子はいかがかしら?」


と、定型句のような質問を病人へと投げかけるワルツ。

そんな彼女のことを、リアは目だけを動かして見つめると……。

力なく、ゆっくりとだが、こんな返答を口にした。


「……どなた、ですか?」


「…………なるほど」


リアのその言葉を聞いて、ワルツは事情を察したような表情を浮かべると。

ガラス窓の方を振り返って、勇者他、その場にいたものたちに向かって、こう言った。


「……勇者。これ、貴方のことを覚えてるとか、覚えてないとか、そういう問題じゃなさそうよ?」


『……?どういうことでしょうか?』


「んー、多分だけど、いま身内で流行ってる記憶喪失ってやつだと思うわ?」


『……はい?』


「まぁ、流行ってるかどうかは別にしても……リア、私のことも覚えてないみたいだから、貴方のことを覚えて無くても仕方ないんじゃないかしら、って話」


『……そういうことですか……』


と、そう口にしてから、少しだけ落ち込んだような表情を見せる勇者。


すると今度は、勇者の隣りにいたカタリナが、残念そうな表情を見せながら口を開いた。


『申し訳ありません。流石に、記憶だけはどうにもなりませんでした。ただ、脳に障害が生じるような事態に陥ったことは無かったはずなので、おそらくは一時的なモノだと思います。ですが……』


『……いつ記憶が戻るかは分からない、ということでしょうか?』


『はい、そうです……』


と、事情を察した様子の勇者に向かって、首肯するカタリナ。

やはり、どんなに彼女の医療に関する理解が進んでも、出来ることと出来ないことがあるようだ。


「まぁ、しゃあないわね。というわけだから勇者?リアの記憶が戻るように、ちゃんと協力してあげなさいよ?あと、記憶が無いことを良いことに、変なことしたら、張っ倒すかんね?その後で、エンデルシア国王と一緒に、磔の刑にするから」


『承知いたしました。リアのことは私におまかせ下さい』


そう言って、深々と頭を下げる勇者。


その礼に込められた意味は、単純ではなく……。

彼が今できる最大限の感謝を表現した結果だったようである。



「……ってわけで、リアに記憶ないから……みんな、たまには顔を出して、記憶が取り戻せるように協力してあげてね?でもまだ体力も無いし、治療も完全に終わったわけじゃないから、無理させちゃダメよ?っていうか、そんなことしたらカタリナに怒られちゃうと思うけど……」


「う、うん……。お姉ちゃんが何を言いたいのかは、よく分かったよ?でも……もう少し、具体的に説明してもらえると嬉しいかなぁ……」


と、艦橋に戻ってきて、端的に結論だけを説明した姉へと、苦笑を浮かべながらそう口にするルシア。

他の者たちも、大体同じ様な表情を浮かべていたところを見ると、皆、似たようなことを考えているようだ。


そんな中。

記憶のない人物の先駆けたる(?)テレサが、感慨深げに口を開く。


「ふむふむ……つまり、妾の仲間が増えた、というわけじゃな?」


「貴女の場合、記憶喪失じゃなくて、そもそもからして記憶が存在してないと思うから、少し違うと思うけどね?それに多分、リアの場合は、何時になるかは分からないけど、そのうち記憶を取り戻すはずだし……」


「そ、そうなのじゃな……。記憶が無いというのは……こんなにも悲しいことだったじゃろうか……」げっそり


と、普段は記憶が無いことを一切に気にしていないにもかかわらず、ここぞとばかりに感傷に浸るような素振りを見せるテレサ。

なお、それも、3秒後には、霧散していたようだが。


というのも。

彼女と同じ見た目で、服装だけが異なっているコルテックスの様子が、先程から何やらおかしかったのだ。

具体的には、艦橋から見える景色を見て、そわそわして、行ったり来たりを繰り返している、といったような様子である。

なお、魔力増幅用の指輪を手に握りながらプルプルと震えていたイブから、言い知れぬ視線を向けられていたこととは、あまり関係ないようだ。


そんなコルテックスに対し、ワルツが質問する。


「……コルテックス。それって、気にしてほしいアピール?それとも気にしてほしくない方のアピール?」


「もちろん、後者ですよ〜?あと、アピールはしていません」


「じゃぁ、なんでそんなに落ち着き無いのよ……」


「いえいえ、お姉さまの気のせいではないですか〜?お姉さまは、ドーンと構えて、目を瞑っていていただければいいのです。できれば、またボレアスに戻るその日まで〜……そう、王都には何も問題は無いのですから〜……」


そう言って、姉には視線を合わせず、明後日の方向へと目を向けるコルテックス。


その間にも、刻一刻と、ミッドエデンの王都へと近づいていて……。

今は、大河を越え、オリージャを通り越し、そしてミッドエデン領内へと入ったところのようである。


そこでワルツは、とある見かけない物体に気がついたようだ。

なお、王都ではない。


「……あれ?こんなところに火山なんてあったかしら?」


「あぁ、あれですか〜?あれ、お姉さまが作った”ノースフォートレス火山”ですよ〜?覚えていないのですか〜?これはリアさんと同じような記憶喪失かもしれませんね〜」


「……つまり、私が町を吹き飛ばして、地殻に穴を開けたせいで出来た火山、って言いたいわけね?」


「まったく〜、余計なことをしてくれたせいで、ノースフォートレス周辺だけでなく、イーストフォートレス周辺も噴煙による降灰の農作物被害が出て、大変な事になってるんですからね〜?コロナ伯爵なんて、最近、いつも、泣き言しか言ってないのですから〜」


「う……うん……」


「それ以外にも1ヶ月の間に色々あったのですよ〜?侵攻してこようとしていたエクレリアの者たちを、文字通り蜂の巣にして撃退してみたり〜……あるいは、その際、彼らがテイムしていた魔物を捕獲して、彼らの目の前で食肉加工してみたり〜」


「…………」


「あとサウスフォートレスと王都の間で、鉄道の敷設工事が着工してみたり〜……その他、実験機離着陸用の滑走路を作ってみたり〜……」


「……ねぇ、コルテックス」


「だから言ってるではないですか〜!王都の方は見ちゃいけないって〜……」


「いや、これ、見るなって言うほうが無理でしょ……」


そう言って、艦橋から見えていた景色を見て、頭を抱えるワルツ。

そんな彼女の眼には――


「まぁ〜……色々とありまして、エクレリアだけでなく、全世界の神々に喧嘩を売ることになったので、同盟国であるエンデルシア王国とメルクリオ王国、それにオリージャ王国と協力しまして〜……各国に、飛行艇の発着場を用意することになりました〜。というわけで、王城の発着場を改造しましたが、気にしないでください。それにまだ、工事中ですので〜」


というコルテックスの言葉通り、王都の中央にあった王城のてっぺんに、見たことのない巨大な構造物が、夜だと言うのにきらびやかに輝いていたようである。

例えるなら、真っ暗な宇宙に浮かぶ宇宙ステーションのように……。


そんなこんなでワルツたちは、1ヶ月ぶりに、王都へと帰還したのであった。



……ふっふっふ〜。

王都の改造が、王城の天辺部分だけだとお思いですか〜?

甘いですね〜、甘々ですね〜。

そんなわけないじゃないですか〜。


……と、書こうと思ったのじゃが、スペースが見つからないのと、それを書き始めるといつまでも話が終わらないような気がしたゆえ、余計なことはあまり書かずに区切ることにしたのじゃ。

王都の改造について触れるかどうかは、まだ考えておらぬのじゃがの?


というわけで、8.8章は、この話で終わろうと思うのじゃ。

書きたいことは、一応、すべて書けた(ような気がする)からのう。

次の話は8.9章にするか、9.0章にするか……。

まぁ、内容を考えるなら前者の方かの。




……ふっふっふ〜。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 929/1786 ガション…… ガシューーーッ…… ガション…… ↑すごい! 擬音語が異様に発達していますね! [気になる点] リアが起きた!!……何ヶ月ぶりなんでしょうか? […
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